(ついに、ついにこの日が。
 ああ、幾年この日を待ち続けたか!
 長かった、だがついに今宵!)

「わらわは積年の思いを遂げるのじゃ!!!」



今現在の時間は深夜2時、場所は閑静な住宅街のど真ん中、そこで一人の女が月明かりの中で決意の言葉を口にしている。
女の姿は長い黒髪に白磁のような白い肌、そして赤い瞳に着ている服は昔話のお姫様が着ているような裾の長い着物と
ハッキリ言って怪しい事この上ないが、幸いにして辺りに人影は存在しないので、
警察が来る事はなさそうだ。

「ふふふふふ、今だ月に一度程しか人の姿になる事は出来ぬが、
 今だ人語を解する事もできぬ あの小娘を出し抜くには十分
 今宵のうちにツクモガタリと契りを、ふふふふふふ・・・・・・」

人気の無い道を頬を赤らめ笑いながら歩く様子は、何度も言うように怪しい事この上ない のだが、
やはり、人影は無いので警察が来る事はなさそうだ。

そして、ツクモガタリの家まであと少しといった所で女は急に足を止める、

「そこにいるのは分かっておるぞ、用があるならさっさと言ったらどうじゃ」

「ふふふ、いまだ未熟とはいえ流石は蛇神。 鋭いですねぇ」

そういいながら、電柱の陰から姿を現したのもまた和服を着た一人の女、
ただ此方の女の着物は華美な装飾などは無くしっとりと落ち着いた雰囲気を持っている。

「こんな、夜遅くにどちらへ。女の一人歩きは物騒ですよ」

「ふん、そんな事を言うならば貴様とて同じであろう。
 わらわには大事な用があるのじゃ、さっさと道をあけんか」

「ふふふ、大事な用ですか。 いい年をして殿方の寝所へ忍ぶのは初めてのようですね。
 想像するだけであのように顔を真赤にするなど、うぶですねぇ」

と言いながら袖で口元を隠しながら笑う。

それを聞いてもう一人の女は、一瞬言葉に詰まるがすぐに薄い笑みを浮かべると言葉を紡 ぐ。

「ああ、わらわはまだ若いからのう。お主のような子持ちの年寄りとは違うのじゃよ」

それを聞いた女の顔が一瞬曇り、そして二人女を中心に凄まじいプレッシャーが放たれ始 める。

「ほほほほほほほほほほ、若いだけあって口の利き方が分かっていないようですねぇ」

「ふふふふふふふふふふ、おぬしこそ最近肌のハリが落ちてきたとぼやいているそうでは ないか」

「ほほほほほほほほほほほほ・・・・・・・・・・・・・・」 

「ふふふふふふふふふふふふ・・・・・・・・・・・・・・」









「ねぇねぇ、今日学校中で大騒ぎになってる謎の破壊後って君の家の近くだったよね。
 何か詳しいこと分からないの?」

「う〜それが何も分からないんだよな〜(周りの電柱や道路の奴らも何も話してくれない し、
 ホントに何があったんだ、いったい?)」







(お母さん、今日はどうしたのかニャ〜 なんか不機嫌なんだニャ〜)

(あの、蛇娘。 私はまだ若いのよ、私は。 まぁ、ちゃんとお仕置きはしておいたから 良いけど。
 これでしばらくは人の姿にはなれない筈、その間にうちの子にこの間の感覚を覚えさせ れば・・・・・・
 ほほほほほほほ、最後に笑うのは私の娘よ)

(今日のお母さんは何か恐いのニャ〜)





(くっ、あの年増ネコめ忌々しい。やはりまだ力では敵わぬか。
 力を使いすぎてしばらくは人の姿を取ることも出来そうもないし、全く忌々しい。
 だが、あの年増ネコの娘は今だ未熟、最後に笑うのはこのわらわよ、
 ふふふふふふふふふふふ・・・・・・・・・)

「神主様、何かお社のほうから黒いような桃色のような気配を感じるのですが・・・・・・」

「ほっほっほっ、気にするな他人の色恋事に首を突っ込むとろくな事が無い、
 お主も馬に蹴られたくはあるまい。
 さて、今日のお供物はお神酒を多めに供えるかのう、ほっほっほっ」





こうして今日もまた、ツクモガタリ本人の知らない所で確実に未来は狭まっていくのでした、
げに恐ろしきは恋する乙女、その力の前では全てが無力・・・・・・






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