街の喧騒よりやや離れた場所に一社の神社がある。

正月や七五三など行事がなければ地元の人間も余り立ち寄らない場所に

珍しく地元の者ではない人間が訪れていた。





「ふ、ここは変らんな。あれからもう数十年は経っているのにな……」

そう呟いたの一人の男、だがその姿は若々しく20代の前半にしか見えずその言葉には説得力が微塵もない筈なのに、何故か聞く者を納得させるだけの重みがあっ た。

「それはさて置きあのじゃじゃ蛇は社かな……」





「ふぅ、またしてもあの年増ネコに邪魔されてツクモガタリに出会う事ができなんだ………
だが、あの年増ネコとの戦いで成長したわらわは最早二十四時間三百六十五日人化可能!!
こうなれば夜這いでもして既成事実を…………」

「なに真っ昼間から不謹慎な事をほざいているかこのじゃじゃ蛇」

「あいた!! こ、この社の神であるわらわの頭を叩くとは何者じゃ!?」

「やかましい、神だと言うならばもう少し威厳を持て。
 真っ昼間から青少年をたぶらかす計画を立てるような神が何処に居る」

「むっ、お主は××××か久しぶりじゃのう」

「ふっ、その名はもう捨てた、人には理解する事も発する事もできぬ名であるしな。
 今の吾の名は神霧 刀真(かみきり とうま) と名乗っている。
 ちなみに戸籍も持ってるぞ、今の世の中先立つ物があれば大抵の事は方が付くからな」

「で、その神霧 刀真がこの街に何のようじゃ……
 この街の神であるわらわが言うのもなんじゃが、特に何がある街でもないぞここは」

「この街に一本の刀がある、どうやら今は何か力を持つ者の下にあるようだがな」

(ツクモガタリが持っておる刀であろうな、この町にいる力を持つものといえばわらわを除けばあの年増ネコとツクモガタリ位じゃからのう)

「で、その刀がどうしたのじゃ?」

「その刀を作ったのは俺を作った刀鍛冶だ、言うならばその刀は吾の弟妹だ。会った事は無いとは言え心配なのだよ、兄としてはな」

「ふん、妖刀の言葉とは思えんな。現にお前は自信の兄姉を全て切っておるではないか」

「吾と吾の前に作られた兄姉は全て切る為の刀だ、しかも飛びっきりの邪念を籠められたな。
吾は幸運にも良き主に恵まれたがゆえ完全に落ちずにすんだ、だが他の兄姉達は平穏なこの世にあっても
血と命を求め人を狂わせていた、だから切ったそれが弟である吾が唯一してやれる事だったからな……
だが、この街に居る弟妹は違う。あれは吾等の中で唯一人を切る為でなく守り刀として作られた物だ
だからもし今その刀を持っている者が吾の弟妹を私欲で血に染めるつもりなら………………」

「その者を切るか……だが安心しろ、そんな事にはならぬよ絶対にな」

「何故そういえる、もしや……」

「そうじゃ、お主の弟妹の持ち主はわらわの知人じゃよ」

「そうか、ならば安心だな。まがりなりにも神であるお主が知人と認めておるのだからな
 で、その持ち主とはどのような者なのだ?」

「その持ち主はのう………………(以下 惚気話が3時間)……と言うような男じゃよ」

「そうか、いい男なのだな。この街のツクモガタリは、そのような男が持ち主ならば吾の弟妹が歪む事もあるまい、
いい主にめぐり合ったものだな」









「所で一つ聞くが、その刀は男なのか女なのかどっちなのじゃ?さっきから弟妹と呼んでおるので分らないのじゃが……」

「それは吾にも分らん、吾らのような生まれながらに性別が無いものは初めて自我を持った時から
始めての人化までの間に積み重ねた経験が性別を決めるのだ。
まぁ、我が弟妹がそのツクモガタリに友としての心を持っているのなら男、
 恋心を持っているのなら女の姿をとるであろうな。
年齢もそれと同じで自分自身の意思に左右される、まぁ年齢に関しては慣れてくればある程度は自由にできるがな、
性別だけは初めての人化のときに固定されるって、何でそんな顔をしておるのだお主」

「いや、気にするなこっちの事だ(あれか、また恋敵が増えるのか!? 嫌でもまだ女になると決まったわけでは!
 だが、話を聞く限りではあの刀はツクモガタリに特別な感情持っておるようだし……
と言うかもしあやつが女になったら間違いなく弟妹馬鹿のこの男はわらわの敵になるな……
いや、あえてこの男を参戦させてあの年増ネコと潰し合わせるのも手か、

あの年増ネコが居なくなれば他の小娘どもに負けるわらわではないからなぁ)」

「さて、では吾は弟妹の所に顔を出す事にするかな、ツクモガタリの顔も見てみたいしな……
それにしても……じゃじゃ蛇いい加減に帰って来い……ダメだな完璧に思考の海に沈んでるほっといて行くとするか、
じゃあなじゃじゃ蛇」









「神主様、お社のほうからなんかどす黒い桃色の気配を感じるのですが!?!?」

「気にするな、色恋沙汰の中の女には良くある事じゃ。
 こういう時当事者以外にできる事は生暖かく見守ってやる事だけじゃよ。
 そうじゃ、お主ちょっと街の本屋でファッション誌を買ってきてくれぬか」

「はぁ、今日は買出しの日ですから構いませんが一体何故」

「例え人にあらざるとも若人達の色恋沙汰は年寄りに力を与えてくれるのじゃよ、そのお礼といったとことかのう
 ほっほっほっほっほっほっ」

「?????????」

「ほっほっほっほっ 好いた男と出掛ける時に参考になる物があった方が良いじゃろうと 言う事じゃよ
ほっほっほっほっほっ…………」

こうして今日もまた、ツクモガタリ本人の知らない所で確実に未来は狭まっていくのでした、
げに恐ろしきは恋する乙女、その力の前では全てが無力・・・・・・






BACKTOP