(お母ちゃん〜おなかすいたよ〜)

(お母ちゃん〜ひもじいよ〜)

(ごめんよ、家にはもう食べるものが無いんだよ)

(すまねぇな、俺がこんな体じゃなかったら……)

(そんな事お言いでないよ、あんたはゆっくり体を治してくれればいいんだよ)

(お母ちゃん!お母ちゃん!!)

(どうしたんだい?そんなに慌てて)

(今、家の前を見たらいっぱい食べ物が置いてあるんだよ!!)

(そんなうまい話あるわけ……本当だ!!)

(なんだかしらねぇが、ありがてぇ!これだけあればもう大丈夫だぜ!!)

(ほんとにねぇ……でも一体誰が?)



(ふっ……拙者は貧しい者の味方でゴザル)





「部室に置いといたお菓子がネズミに荒らされちゃってね


 ……どうしたのそんな面白そうな顔して?」

「いや、これぞホントの鼠小僧! と思ってね」


(さっきあの女の子が『食べてすぐ寝ると牛になる』って言ってたけど、
 おいら達は食べてすぐ寝ることなんて無いんだなぁ〜)

(まぁ、おいら達草食動物は横になったら食べ物消化できないしな)

(おいら達の事が分かってないんだなぁ〜)

(まぁ、あんな緩い感じじゃ仕方ないんじゃないのか)

(そういえばそんな感じなんだなぁ〜)

(所詮、その程度の人間なんだろ)

「どうしたんだ委員長?いきなりキョロキョロしだりして」

「なんか誰かに馬鹿にされてる気がするの、なんでかしら?」

(委員長、結構鋭いな…………)

「うわ〜すげ〜」

「かっこいい!!」

「ほんとにしましまなんだ〜」

「お〜い、つぎはライオンみにいこうぜ」

「いこう、いこう」

「あっ、まってよ〜」



「よっ!大人気じゃないか」

(お主か、まぁ密林の王者たるワシの風格は隠し切れぬと言う事だな)

「王者の風格か、じゃこれは要らないんだな」

(そうとは言っておらぬ!)

「いや、だってこんなの持ってたら王者の風格に傷がつくんじゃないのか」

(王者にも休息は必要なのだ!さぁはやくくれ!!)

「分かったよ、ほれ」

(はぁ〜やっぱりこの柔らかさと、形は最高だ〜 あ〜和む〜)

「毛糸玉にあんなにじゃれるなんて、やっぱり猫科だな」

(ねえ、ねえ、大変だよ。僕たち食べられちゃうかも!)

(何だって!どう言う事なんだよ!?)

(だって、さっきあの部屋から「ウサギ美味し」って声が……)

(………………)

(………………)

(あのな、それは『故郷』って歌でな、
 しかも「美味し」じゃなくて「追いし」だ)

(えっ?だから「美味し」だから、僕たちを食べてるんじゃ)

(だから!「美味し」じゃなくて「追いし」だ!!)

(だから…………)


「どうしたの?飼育小屋なんか見つめて?」

「いや、日本語って難しいとおもってな」

(僕の名前ってタツノオトシゴですよね)

「そうだね」

(でも、僕のお母さんもお父さんもタツノオトシゴなんですよね)

「うんうん」

(で、お爺さんもお婆さんもタツノオトシゴなんですよ)

「まぁ、そうだろうね」

(って事は僕はタツノオトシゴノオトシゴノオトシゴになるんですかね?)

「いや、そこはタツノオトシゴで良いんじゃないのか」

(全くなんでこんな名前なんでしょうね、僕たちは……)

「まあ、自分の中で矛盾が起きてるのは辛いよな」

(久しぶりじゃのう、ツクモガタリ)

「げ、お前かよ」

(ほう……神の使いたるこのわらわに結構な口をきくのう)

「子供の時からずっと付き纏われたら苦手にもなるって。
 それに神の使いたって、ただ神社に住んでるってだけじゃないか」

(神の社に五十年以上住まいし白蛇……神の使いを名乗るには十分であろう。

 実際、わらわはそれなりの力は持っておるぞ)

「力って言われてもな……どんなのだよ?」

「例えばこんな事も出来るぞ」

「お前!?普通にしゃべってる!!」

「もう数年力を蓄えれば人と化す事も可能じゃぞ」

「そうか……まっ頑張ってくれ」

(人と化した暁にはツクモガタリをわらわのものに、
 猫や人間の小娘ごときには負けはせんぞ ふふふふふふ…………)

「なっ何なんだこの悪寒は!?」

(皆さ、僕のこと可愛がってくれるのは良いんだけどさ)

「いきなりどうしたんだ」

(皆が皆ニンジンばっかりくれるんだよね)

「まあ、馬だしね。しょうがないんじゃないか?」

(嫌いじゃないけどさ、それほど好きってわけでもないんだよね)

「じゃ、何がほしいんだ?俺に用意できるものなら用意してやるよ」

(ホント!じゃ鞭でさお尻のあたりを思いっきり…………  
 って何でそんな遠くに行くの?なにその笑顔!?お〜い戻ってきてよ〜)

(ほうりゃ!)

「……」

(おうりゃ!!)

「…………」

(どっせい!!!)

「………………なにやってるんだ?」

(いや、あんたが昼寝しようとしてるから、

 やっぱり羊としては柵を飛び越え続けるべきかと思ってな)

「気持ちは嬉しいが、いちいちそんな大声だされたら眠れん」

(ぬう、しかし黙って飛ぶには今だ力が足りぬ。特訓だ特訓、走りこむぞ!
うぉぉぉぉ!!)

「どっちにしろもう寝れそうもないな……委員長達のとこにでも行くか」

(最近のボスはどいつもこいつも駄目だな、理想とか理念が足りない)

(むう、だが理想や理念に固執して現実を疎かにされても……)

(だが、停滞は権力の腐敗を招くぞ)

(それを防ぐために、我々一匹一匹が確りとした自律を……)

(いや、やはりボスに必要なのは全てを纏め上げる力ではないのか)

(それでは昔の血で血を洗う時代の再来ではないか)

(そうだ、もはや暴力が全てを決める時代は終ったのだ)

(この山はこの山で暮らす我ら一匹一匹のものだ)

「う〜ん、サル山はいつ見てものどかね〜」

「それ程のどかでも無い見たいだぞ って言うか何時の間にこのサル山は民主主義になっ たんだ?」

(あ〜だりぃ〜 つ〜か ねみぃ〜)

「なんか最近疲れてるな、大丈夫か?」

(も〜さ〜 最近段々夜明けが早くなってきてさ〜 眠い眠い)

「別にもう良いんじゃないのか?目覚まし時計とかあるし」

(いや、鶏の面子と俺の意地に懸けても夜明けと同時に鳴くのはやめられねぇ)

「むぅ、そんなもんなのか?」

(おうよ!それが鶏魂よ。じゃ〜俺は寝るかな、またな)

「ハトやカラスからうるさいって苦情が来てるんだけど……やめさせられそうにないな。
 あ〜また調停が複雑になりそうだな」

(足し算が出来る犬とかが、良くテレビに出てくるよな)

(ああ、ペット特集の時なんかは良く出てくるな)

(でも絶対あんな奴らよりも俺の方が頭良いって、試してみるか?)

(ああ、じゃ120+129)

(249)

(1350÷27)

(50だな、簡単簡単。もっと難しいのでも良いぜ)

(半径が127cmの球の体積は)

(8580246.65cmだ)

(人生、宇宙、すべての答え)

(42)

(凄いな、お前)

「いや、正解かどうかがすぐ分かる方も十分凄いだろ……」

「お久しぶりですね、お山様」

(いやいや、去年の秋にも来てくれたろうじゃろう。
 5,6ヶ月の時なんぞワシにして見ればあっと言う間じゃよ)

(むっ、ツクモガタリか)

「久しぶりだな、山長」

(そうだな、去年の秋ぶりか。そういえば、家の若い者に主の学友が
 何名か轢かれておったが、その後は大丈夫だったか?)

「ああ、幸いにして大怪我した奴はいなかったよ。細かい怪我をした奴はいっぱいいたけ どな」

(あれは、我らに咎があったな。山神殿に呼ばれていった先に子供らが居るとは思わなん だ)

(ぬう、ワシとしては良かれと思って呼んだのだがのう)

(山神殿よ我らとて自然に生きる者、食らう為に狩られるのであれば文句は無いし、
 山神殿が掃除の礼として我らを与えようとしたのもまあよい。
 だからと言って、何の準備も無い子供らの場所に我らを呼ぶのは無茶と言うものだ。
 いつも言っておるが、そもそも山神殿にはもう少し世間の常識といった物を学んで頂き たく
 思っておるのだがな…………)

(ぼ、坊やたすけてくれんかのぅ、こやつの話は一度始まると長いんじゃ)

(今日という今日は言わせてもらうが、そもそも人間と言うものは…………)

「あ〜、なんか忙しいみたいだから今日の所は帰ります。それでは失礼しま〜す」

(ぼ、坊やたすけて)

(聞いておられるのか山神殿!そもそもあの時だってクドクドクドクドクドクド……… …)

「そうだ、子猫にかつお節でも買って行ってやるかな。すいま……」

「御免下さいまし〜 かつお節を10キロ程頂けますか……あら?貴方は……」

「えっ!?俺の事知ってるんですか? 俺の知り合いに貴女みたいな和服の似合う方は
 いなかったと思うんですけど」

「ふふふ、いつも家の娘が貴方のお世話になってるから。
 あの娘ったら家ではいつも貴方の事ばかり話してるのよ。
 あっ、ちょっと待ってね。はい、こちら御代です。」

「あっ、俺にも同じかつお節1キロ下さい」

「あなたもかつお節を買いにいらしたの」

「ええ、うちによく来る子猫にあげようと思って」

「そう、きっと喜ぶわよ。それじゃ、近いうちにまたお会いしましょ ツクモガタリさ ん」

「えっ!?今なんて……ってもう居ない!?」



「あの娘の言うとおり随分優しい人みたいね。
 あの娘は私の血を引いてるから普通の猫よりも早く猫又になれるはずだし
 年齢的なつりあいも取れてるわよね……
 ふふふ……私の娘は年増の蛇なんかに負けはしないわよ ふふふふふふ…………」



「ああ、なんか凄い前にも感じた事の有る悪寒がする……」








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