十月十五日
(いや……いや。やめてぇぇぇ)

「大人しくしな」

(きゃ、きゃあ!? やめて、見ないでぇぇ!)

「……」

(ううう……ぐすっ……)

「せめて優しくしてやるから。南無南無」

(ああ……お父さんにも見せたことないのに……)

「南無南無」

(うぅ……酷いよぉ……)

「蜜柑の皮を剥いてるだけなのに……何だか最低なことをしているような気分……」


十月十七日
「お? そこに落ちてる手帳、誰のだ? 良かったら届けてやるけど」

(おお、助かりました。私めは貴方様が『委員長』と呼ばれる方の手帳でございます)

「委員長のか。教室戻るついでに届けてやるよ」

(感謝の極み)

「大げさなやつだな」

(とんでもない)

「……」

(……)

「……」

(……中身を覗かないのですね)

「いや普通覗かないだろ。そもそも、鍵かかってるじゃないか。がちがちに」

(私めが、文芸部の活動用に使われてる、と言っても? 貴方様なら簡単に開けられるでしょう)

「興味ないなー」

(そうですか……)

「そうですとも」

(……中に書かれている詩を一つ詠んでもよろしいでしょうか?)

「何だよ、いきなり」

(いえ、私めの主はあまり人に作品を見せないので……感想というものを聞いてみたいのです)

「ふーん。わかった。詠んでみな」

(感謝の極み)




「委員長ー。これ廊下に落ちてたぞ」

「え? ……ああ!? あ、ありがとう!!」

「そんな引っ手繰るよーに取らなくても」

「ご、ごめん……。……よ、よかった。鍵が開いた様子はないわ」

「それじゃ」

「え、あ、うん。手帳ありがとうね」

「いえいえ。……それにしても委員長って」

「え? 何?」

「……いや、何でもない。それじゃ」

「ちょ、ちょっと待って! 何でそんなドン引きな顔してるの!?」

「うん……」

「中身は見てないのよね!? ちょっ、行かないでっ。ま、待ってぇぇ!」


十月十九日
「また手帳が落ちてる……」

(あー、そこの人ー。拾ってくんない? アタシ風紀委員の早坂小雪の手帳なんだけど)

「早坂小雪のか。わかったわかった。届けてやるよ」

(ありがとー。お礼に中に書いてるポエム一つ詠んであげよーか?)

「お前も文芸部用かよ。遠慮しとく。また知りたくもない一面を知ってしまうかもしれんし」

(まーまー。遠慮しない遠慮しない。じゃ、詠むよー)

「いいっつってんのに……」



「おーい。風紀委員の早坂小雪ー」

「なに? ……って! それわっ!」

「落し物。中身は見てないから安心しな」

「あ、ありがとっ」

「……」

「な、何っ? 人の顔をじっと見て」

「……ふっ。可愛いやつめ」

「え!? い、いきなり何なの? ……な、中身は見てないんだよねっ? ちょっと待ってよー!」


十月二十ニ日
「山かー……」

「そこっ! 授業の一環としてのボランティアで山に掃除にしに来てるんだからボーっとしないの!」

「説明台詞をありがとう。じゃあ俺は向こうにゴミ無いか見てくる」

「サボっちゃダメだぞっ」



(おー。坊やじゃないか。よく来たのぉ。坊やはちょくちょく来てくれるから嬉しいのぉ)

「と言っても二年ぶりですけどね、お山さま」

(うむうむ。しかも何やら今日はワシを掃除してくれとるようじゃのぉ)

「ええ、まぁ。ていうか普段から汚してすみませんというか……」

(気にせんでええ気にせんでええ。そうじゃ、今日は来てくれた子供たちにオヤツでもやろうかのぉ)

「お、お山さま? 何をするおつもりで?」



「ぎゃあああ!? 急にイガ栗が林から飛んできた!」

「いたいいたい!」

「た、助けてぇぇぇ」



「うわー地獄絵図……」

(坊やもいるかの?)

「もうすぐ昼食の時間なので、間食は控えようかと」

(そうかそうか。坊やは良い子じゃのぅ。では精のつくモノでもくれてやろぉ)

「……何だか地響きが聞こえてきたのですが」

(ワシに住んどるイノシシを何匹か呼んできた。適当に獲るがええ)

「!? み、みんなぁ! 逃げろぉぉぉぉ!!」


十月二十九日
「さーって。宿題も終わったことだし、昨日買ってきたゲームの続きでもっと……」

(ぎく)

(びく)

(……しまった!)

「テレビ、ゲーム機。何で動いてっ……て! 勝手にストーリーを進めるなぁ!」

(すいませんすいません、続きがどうしても気になって……)

「主犯はお前かソフト! お前は我慢しててくれよホントに」


十月三十一日
(ダンナ……ダンナ!)

「ん? どこから何が俺を呼んでいるのだ。きょろきょろ」

(こっちですこっち)

「八百屋に並んでるカボチャか。何の用だ?」

(まぁ聞いて下さい。今は奇跡的なほどに人気が少ない。店長は店の奥に用事で引っ込んでいる)

「うんうん」

(ダンナしか見ていない今がチャンスなのです! ご覧あれ! ……いくぞ、みんな!)

(((おおおー!)))

「な、何をする気だ。カボチャたちが一致団結して」

(((はーろうぃーん!!)))

「うわー! カボチャたちが! 爆発して! ジャックオーランタンの形に!?」

(うはは、一回やってみたかったのですっ)

「す、凄いし季節感あるけど……収拾つかないことをやってくれるなぁ」









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