十一月一日
「博物館! この古めかしい品々……たまらないわぁ」

「おお……委員長がトリップしている……」



(ツクモガタリ……ツクモガタリよ……)

「ん? ……何だこの重々しい声」

(貴様の目の前にいる)

「日本刀か……。古いモノは俺をそう呼ぶのが好きなんだから、まったく」

(周囲のモノを九十九神に近い状態にまで引き上げることが出来るその力……実に素晴らしい)

「大げさな」

(貴様の力を借りれば、ワシは鉄をも切り裂く神剣となれるだろう)

「それはそうかもね」

(どうだ? ワシと共に天下を目指さんか?)

「鉄なんか切れたって天下なんか獲れんて」

(む)

「遠くからマシンガンでも撃たれたら終わりでしょーが。世間は厳しいんだぞ」

(むむむ)

「まぁ海を割れるくらいの衝撃波ー! と、バリアー! とか出来るんなら話は別だけど?」

(……いやそこまでは)

「だろ?」

(むむ……そ、そうだ! 貴様が念じれば貴様の影から現れる、くらいのことならできるぞ!)

「便利だけど天下にゃあ遠いでしょ」

(くぅぅぅ)

「いいから大人しく飾られてなさいって。悪いことは言わないから」

(……わかった。だが、せめて)

「ん?」

(外の空気も吸いたいので、たまに召還してくれると嬉しい……)

「まぁそれくらいなら。しかし妖刀も大変だね」

(うむ……。変に自我に目覚めてしまうとヒマでヒマで……)

十一月三日
「いい加減、出しっぱなしにしてた夏物の服は片付けるか。タンスも悲鳴上げてたしな」

(いやだぁぁ。仕舞われるのはいやだぁぁ)

(もう諦めろよ。タンスさんの中に入れっぱなしにされるのも一緒だろ)

(そうそう)

「うむ。物分りがいいヤツが混ざってると助かる。さすが夏物だけに基本的にポジティブだな」

(オイラはいやぁぁ)

(寒い季節にゃオレたちは似合わねぇしな)

(そもそもダンナから離れたら意識とかないタダの服に戻るわけだから気にもならんし)

「そうかそうか。しかしこうやって並べてると、まだまだ着たいようなヤツもあるな……」

(なら仕舞わないでぇぇ)

(暑い寒いというより季節感の問題だぜ、ダンナよ)

(そそ。その季節ごとに合った服装というモノがあるのだ。ちゃっちゃと片付けてくんな)

「だよな……。また会おう、夏物のアロハシャツたちよ。しばらくは秋冬物のアロハの世話になる」

(アロハ以外の服も買えよ、ダンナ)

十一月四日
「お、早坂小雪。いいもん喰ってんじゃん」

「やっぱ寒くなってきたら肉まんだよねっ」

「だな。……一口ちょうだい」

「あーげなーいよっ。そこにコンビニあるから自分で買ってきなさいっ」

「ちぇ。じゃあちょっとここで待っててくれ。一緒に喰おう」

「うん、わかったっ。……って何でこの風紀委員の早坂小雪がキミと一緒に肉まん食べなきゃいけないのっ」

「俺はお前と肉まん喰いたいの。頼むから待っててくれ」

「……し、仕方ないなっ。だっしゅで買ってくるんだよっ」

「おうよー。……知り合いと出会えてラッキーだったぜ。誰かの近くじゃないと逃げられて冷めちまうからなー」

「せ、青春な感じかもっ」


十一月八日
(はぁ……俺って美しいよな)

「……」

(我ながら惚れ惚れするよ。この輝き、佇まい。素敵すぎるぜ)

「あんま自画自賛するのは止めてくれよ……」

(自画自賛じゃなくて事実でくっちゃべてるだけだぞ)

「いや、姿見のお前がね。俺を映してる時にそういうこと言ってると……俺が喋ってるみたいでなぁ」

(安心しな。アンタは別に美しくないから。十人並みってとこだ)

「……それはどうも」


十一月十八日
(ああ……しょせん私たちなんて落ちこぼれの存在……)

(そう……部屋の片隅で、ただただ忘れ去られていくだけのちっぽけな……)

「もぐもぐもぐ」



(このまま誰にも気付かれずに時を重ねていくのねー……)

(そうなのねー……)

「ばりばりぼり」



(ああ哀れな哀れな私たちー……)

(よよよー……)

「クッキーの食べこぼしがブチブチ言うんじゃないっつーの。ほらっ、掃除してやるぞー」

(いやー)

(コロコロはやめてー)


十一月十九日
「お前は自分が何なのかわかってんのか、ん?」

(はい、すいません……。申し訳ないです……)

「一度や二度じゃないだろう。ちょっと自分に甘いんじゃないのか」

(仰るとおりです……ホント反省してます)

「ったく。目覚まし時計が寝坊すんなっての。買い換えちまうぞ」

(それだけは勘弁してくださいぃぃ。もう絶対しませんからぁぁ)


十一月二十日日
(部屋が暖かいと過ごしやすいなー。ぶんぶんー)

「うーん……」

(このまま頑張って越冬しよーっと)

「……うるさいなぁ」

(旦那も指先とか痒いトコに手を出さなかったら殺虫剤撒かないって言ってくれたしー)

「ううう」

(私の虫生は万時順調よー。ぶんぶんー)

「……うっさい」

(はぅ!?)

「……あああ!? 殺っちまった!? ……ちきしょう、蚊の野郎。耳元で飛ぶと危ないとあれほど……」


十一月二十四日
「あー。やっぱり肉まんは美味しいねっ」

「だな。寒い日はこれに限る。委員長も来れたら良かったのにな?」

「うー。何か野球部のナントカ君に呼び出されてたよっ」

「告白でもされてんのかねぇ。俺らを差し置いて恋人作ろうなんて許せんな」

「そ、そうだねっ。……ところで歩き食べはちょっと行儀悪いから座って食べようよっ。ゆっくりとっ」

「何だ突然。まあいいけど。ちょうど少し歩いたところに公園あるからそこのベンチで……」



(ダメダメ。オイラはもうゲンさんの専用ベットみたいなもんだから。兄ちゃんは座んねぇでくんな)

「……ここはダメだな」

「? じゃあ、あっち行こっ」



(しっしっ! 俺ぁ子供連れの家族しか座らせなねぇと決めてんだ! 年頃の男女のケツなんか乗せれるかよ)

「……ここも無理かぁ」

「またぁ? もう他にベンチないよっ」

「仕方ないだろ。……あーもう面倒臭くなってきたな。このまま歩いて食えばいいじゃないか」

「早坂小雪はゆっくりしたいのっ」

「そんなゆっくりしたいなら俺の家来いよ。好きなだけゆっくりさせてやるっつーの」

「……そ、そこまで大胆なことはちょっとっ」

「意味がわからん」









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