九月八日
「ヒメちゃんも田舎に帰ったし……新学期も始まったし。すっかり落ち着いたなぁ」

学校からの帰り道。

ツクモガタリと呼ばれることもある少年は、夕暮れの中を歩いていた。

文芸部に寄ったので少し遅い時間となってしまっている。

「今ごろ元気にしているだろうか、ヒメちゃん。修行とかさせられてないか心配だ」

(あの娘ッ子なら、学校で居残らされてるな。窓際の席で半泣きで問題解いてる)

「あー、宿題間に合ってなかったからな。……って今の声はどこから?」

少年は少々驚いて辺りを見渡す。

周りのモノやイキモノは皆、揃って

(オレじゃないですよ?)

(私ちゃうよ私と)

否定の言葉を口にする。

「じゃあ……まさか」

まさか、と思いつつも空を見上げてみる少年。

暗くなってきた空に、一番星がきらりと輝いていた。

「まさか、なぁ」

自分の力の範囲を把握していていない異能力者の少年は、

(いや、確かめろよ……。少しは能力活用しようとか思えよ)

星のお告げを聞こえないふりをして、黙って家路に着くのであった。

九月九日
「……またか」

(暑い暑いー)

「布団、お前なぁ。人を追い出すなと言ってるだろうに。腹が冷えたらどうしてくれる」

(だって暑いんですもん)

「暑いとかホントに感じてるのかよ……」

(気分の問題。暑苦しいんですもん)

「ったく。冬布団は寒いからって朝になっても離してくれないし。夏布団から追い出される。俺はどうすりゃいいんだよ……」

九月十二日
(ヒメは田舎で元気にしてますよ。まだ居残りは続いてるみたいですけど)

「ふーん。まぁそれは宿題お前ら虫たちに届けてもらっといてやらなかったヒメちゃんが悪い」

(ああ、可哀想なヒメ……)

「ほっとけって」



「……ねぇ、今授業中よ。あんまり窓の外見てたら先生に怒られるわ」

「……つくつくほうしが良く鳴いてるなーっと思ってな。ついつい」

(どうか無事にヒメの居残り期間が終わりますように……!)


九月十二日
「九月になってもまだまだ暑い……」

(ぶつぶつ言ってないで黙って水をやりなさいよ。庭の草木たちがお腹空かせてるわよ)

「シャーペンに黙れって言われたくねぇよ」

(何ですって! ……あ、虹ができてる。キレイねー)

「あー。ホースで水やってるとたまに出来るよな」

(そう言えば虹を根元を掘ると金のカップが出てくるって聞いたことあるわね。ちょっと掘ってみたら?)



(そうはさせん!)



(あ、虹が円状に!)

(俺の根元掘って何か出てくるワケねーだろ! バカじゃねーの?)

(何よ! 自然現象のクセに生意気!)

(モノに言われたくねーよ)

「……うるせー。暑いんだから早く部屋に戻らせてくれよ……」


九月十八日
(ちょっとアンタ慣れなれしいよッ)

(こっち来ンな!)

(ぶつかりたいとか考えてないよなぁ?)



「……という俺の服や靴たちの努力により」



(いえ、その、はい……。避けますんで。その、そんな凄まないで……)



「雨が俺を避けて通ってくれるんだよなぁ。この季節は助かる助かる」

(ガラ悪いわよねー……)









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