七月十日
「こらー。柱で爪を研ぐなと言ってるだろう」

(そうは言ってもにゃ、ダンナ。爪が疼くんにゃーよ)

「爪研ぎがあるだろ」

(アレは何だかしっくり来ないのにゃあ)

「ワガママ言わないっ」

(あいたっ!? ぶった! ダンナがウチをぶったのにゃあー!)

「せっかく会話できるのに躾けをしなくちゃならん俺の身にもなってくれよ」

(ダンナのアホー!)

「いって!? 引っ掻きやがったな! この……って!?」

「捕まる気はにゃーよ! あっかんべー! なーのにゃー!」

「無意味に人に化けるな! 窓から逃げるな! 俺の世間体をどうする気だぁ!!」 





七月十日
「美術の時間か……。何描こうかなぁ」

(ここをこーして)

(あ、そこは緑でお願い)

(赤ー。こっち塗ってこっち)

(黒はちょっとでいいよー)



「……あっ。お前ら勝手に絵を描きやがって」

((気を利かせたんですよぅ))

「俺はともかく、出番が無かった絵筆とパレットが泣いてるぞ!」





七月十日
「おーい。パソコン。ほどほどにしとけよー?」

(んー……)

「無料のオンラインゲームったって電気代はかかるんだからな」

(もーちょい。もーちょいで止めます……)

「ったく。どれどれ、どのくらいレベル上がったんだ?」

(くくく……。ゲームの中で神を名乗れるくらいには)

「何かよくわからんが不健全な雰囲気を感じるなぁ」

(無機物の私に、所詮体力に限界のある人間が勝てるわけがないのです……)





七月十日
(のぉ。シャーペンに猫よ)

(なんです。妖刀先生)

(どうしたのにゃ。わざわざダンナに呼び出してもらってまで話があるにゃんて)

(先日、お前らが人に化けとっただろ? そのコツを教えてもらえんかと思ってのー)

(ああ。そのことですか。コツっていうわけでもありませんけど……)

(お月さまの光をいっぱい浴びてたら、力が沸いてくる感じがするにゃーよ)

(そうそう。とりあえず基本は月光浴ですね)

(なるほどの……。しかし普段は倉庫に入れられてるから月光を浴びる機会が無くてのぉ)

(妖刀先生は長生きしてるから、月光さえ浴びれたらすぐに変身できますよ。きっと)

(化けれたら一緒に遊ぶにゃー)

(そうだの。……ふふふ。化けたらきっとワシは、中年の渋みがあるイケメンだの)

(案外妙齢の美女だったりして)

(セーラー服姿の美少女剣士ってのもベタでいいにゃあ)

(……それはちょっと趣味じゃないのぉ。どうなるか分からんのが怖いが)





七月十三日
「台風が近づいてきたなぁ……」

(テンション上がってきたのにゃあ)

「落ち着けよ」

(でも雷とかちょっと怖いわよね。この家に落ちたりしないかしら……)

「お前も心配すんなよシャーペン。だいたいこの辺には避雷針あるから大丈夫だ」

(へぇ。それなら安心、かしらね)

「この間立ち話してみたが、まだ受け止めたことが無いから正直楽しみで仕方が無いとか何とか」

(うーん。頼もしいにゃあ)

(仕事熱心なのは良いことよね)

「雷を呼ぶつもりなのか、ふらふら揺れてたのが心配だけどな」

(怖いわねソレ!)

(まるで当てにならないのにゃあ)





七月十三日
「入学の記念に貰った万年筆……どこにいったかと久々に探してみたら」

(……)

「キャップが開けっ放しで……こんな無残なことになっているとは……」

(……)

「……すまん」

(……)

「……何か言ってくれよ」





七月十六日
「いよいよ台風も近づいてきたな」

(ふと思ったんにゃけど、ダンナが説得して避けてもらうとか出来ないのにゃ?)

「昔、学校が休みにならないかと思って逆に呼んでみたことならある」

(……ど、どうなったのにゃ)

「俺には俺の道がある! と言って断られたよ。さすが規模のでかい自然現象だけあって意思が固い」

(確かにダンナの都合でホイホイ進路変えられたらエライことににゃるしねー)




七月十六日
「委員長の家って何でこんなに日本人形いっぱいあるんだ?」

「お婆ちゃんが趣味で集めてたのよ。こんなにあると一つくらい夜中に髪の毛伸びてそうで怖いよね」

「だなぁ」

「あっ。お茶入れてくるね」

「んー」





(……よーし! 他に人はいなくなったわね)

(ツクモガタリさんがいることだし、イメチェンのチャーンス!)

(ストレートヘアーもいい加減飽きたし、髪型変えるわよー)

(ポニーテールにしよーっと)

(私はツーテールー)

(三つ編みがいいなー、私は)

「こ、こらこらこらこら。……あー収集がつかんな」





「お待たせー。……って! 何コレ?! 人形の髪型がみんな変わってる!」

「お、俺がちょっとトイレに行って、戻ってきたらこんなことに……」

「……あなたがこんな短い時間に髪型変えられるわけないものね」

「ああ。半分は俺のせいじゃないぞ」

「つまりコレは……怪奇現象! どうしましょう、ワクワクしてきちゃったわ」

「ホントどうしたもんかねぇ」


七月十六日
(あ、ツクモガタリさんだ。どうです、お近づきの印にお一つ)

「ん。ありがとう」



(おー。ツクモガタリだー! めっずらしー。あ、ジュース飲むー?)

「ん。さんきゅ」



(ツ、ツクモガタリだぁっ。今日は何か良いことあるかも……! そ、そうだ。ジュースでも飲みます?)

「ん。どーも」



「よー」

「遅いよっ。何してたのっ」

「待ち合わせ時間ぴったりに来たんだから別に遅くないでしょ。小雪ちゃんはせっかちねぇ」

「そんなことよりジュース飲む?」

「おおっ。気が利くねっ」

「ありがとー。でも何か悪いな」

「気にするなよ。どうせ貰いもんだし」

七月十六日
(どうもさぁ。ウチらの姫さんが一皮向けたらしいぜ)

(脱皮でもしたんか?)

(いやいや。そうじゃなくて、何か新たな術を取得したとか)

(ほえー。さすがは姫さんやねぇ。で、どんな術なん?)

(何と人化の術だとか)

(すげぇなー。でもニンゲンなんか化けてどないすんねんやろ)

(さぁ。それは解らんな)



(どうしたの? 蛇たちの会話がそんなに気になる?)

「どうも嫌な予感がするんだよ、シャーペン。また面倒な目にあいそうな……」


七月十六日
(のう。ツクモガタリよ)

「何だ? 妖刀先生。俺は漫画読んでくつろいでんだから。悪人退治とか行かないぞ。呼び出しただけだぞ」

(いや、その漫画のことなんだがの)

「ん?」

(東洋の刀使いが、西洋の騎士に負けているのはどうゆうわけなのかと)

「……この漫画の主人公が、西洋サイドだからじゃないか?」

(認めん。認めんぞ。刀が西洋刀に負けるわけがないではないか)

「使い手によるんじゃないの。それに実際やってみないと解らんだろうし」

(……よし。では今から西洋刀使いに決闘を挑みにいこうではないか)

「そんなヤツはいねーよ」


七月二十三日
「今日もヒマつぶしに日曜大工っと。作るのは工具任せだけど」

(ダンナー。棚がもうすぐ出来ますぜー)

「ご苦労だな、トンカチくん」

(格好よくハンマーと呼んでくだせぇ。あ、そうそう。最後の釘は是非ダンナが打ってくだせぇな。ほら柄を持って)

「まぁ最後くらいは、よっこら……」

(今! ツクモガタリの力を借りて! 必殺のファイナルストラーイク!!)

「お、おおお!? ……せっかく作った棚が木端微塵に」

(いやー。一回やってみたかったんすよ。びっくりさせてしまってすいませんね)

「急に振り回されて肩が痛いよ。……それより、他の工具たちがすごく怒ってるぞ」

(……俺は今を生きるんでさぁ!)











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