六月二十八日
(やーやー。旦那、お久しぶりでやんす)

「おお。働き蟻0018じゃないか」

(最近すっかり暑くなってきたんで、あっしらも稼ぎ時なんでさぁ)

「そうかそうか。でも母さんに見つかって駆除されないようにな」

(へい。それはそうと、今日は姉御から伝言を預かってまして)

「女王蟻から?」

(これからズッコンバッコンやってポンポコ子供産まなきゃならないから、庭に砂糖でも撒いてくれると嬉しいわ。うふ)

「うふ。……ってか」

(へぇ。姉御は子作りに忙しいんで、旦那も協力して下さると、あっしらとしても大助かり)

「まぁ砂糖撒くくらいならいいけどさぁ」

(お礼にアブラムシの汁の詰め合わせでも差し上げますんで……)

「断固としていらない。お前ら一回枕もとに置いていったことあるけど、ああいうことしなくていいからな!」

(まったく旦那は無欲でやんすねぇ)



六月二十八日
「うー。何か悪者と戦ってる夢なんか見てしまった。何となく恥ずかしいなぁ。……あ、電話」

「もしもしミっちゃん? ねぇ聞いて聞いて! 聞ーくーがーよーいー!」

「どうしたヒメちゃん。何かテンション高ぇな」

「さっきさ、能力駆使して引ったくり捕まえちゃった! 凄くない? 我を称えよー!」

「駆使してって……。どうやったんだ?」

「すれ違い様に引ったくりのお腹の菌を操って激しい腹痛を起こさせたの!」

「うわー……。何か悪役っぽいな、それ」

「愚弄する気かツクモガタリ! 良いことしたんだから普通に褒めてよー!」





六月二十八日
「あー。インターネットは面白いな。ついついダラダラと見てしまうぜ」

(そんなダンナの快適なネットライフを支えてる私をヨロシク!)

「誰が喋ってるんだ。……って無線LANか。わかりにくいぞ」

(やっぱ時代は有線より無線ですよダンナ!)

「そんなもんかね」

(だからキーボードもマウスも無線に統一しましょうよー)

「ええー。そんなこと言ったら……」



(何でお前にそんなこと言われなきゃならないんだよ!)

(んなこと言われる筋合いはねー!)



(あ、えっと。……ごめん)

「ほら。今のキーボードとマウスが怒った」





六月二十八日
「近所の子供に朝顔の種なんか貰ってしまった。夏休みになったら蒔いてみるかな」

(そんな! 夏休みまで種のままなんて耐えられない!)

「でも今植えても育てる気がないんだが……」

(だったら自力で芽生えてやるぜぇぇ!)

「こ、こら。人の手のひらで勝手に芽吹こうとするんじゃ……ああ」

(……)

「……栄養も無いのに芽が出せるわけなかろうに。馬鹿な奴め」





六月二十八日
「コードが届かないな……」

(……あのー)

「ちっ。こうなったら電気に直接こっちに来てもらおう」

(えーと)

「……よーし。コンセントから電気の塊を引き出せたぜ。バチバチいってて煩いが構うまい」

(だ、だんなー)

「あー。ダメだ。こんな攻撃魔法みたいなモノを扇風機に押し当てたらショートしてしまうか」

(暑くて混乱してるのはわかりますけど、何もそんなファンタジーなことしなくても普通に延長コードである私を使って下さいよ……)



六月二十八日
「さーて。いくら入ってるかなっと」

(待った!)

「……何かな。貯金箱の子豚ちゃん」

(現在の預金総額は2982円となっております)

「そっか。まだいまいち貯まってないなぁ」

(そ、そもそもわざわざ割らなくても。中にいる硬貨に声かけて出てきてもらえばいいのでは?)

「割るのが気持ちいいんじゃないか」

(ひぃぃぃぃ……)



六月二十八日
(なぁダンナ)

「なんだ。サッカーボール」

(ダンナは何かスポーツやんないの? ダンナの力さえあれば何だって出来ると思うんだが。サッカーなんか特に)

「そういうのは気が進まないんだよな」

(何でさ)

「真面目にスポーツやってる人に申し訳ないだろ」

(おー。ダンナも一応考えてるんだなぁ)

「もちろん」



「うわー! もう七点目だぞ!」

「何なんだアイツのボール捌きは! 足に吸い付いてるみたいじゃねぇか!」



(……でもアマチュアならいいのな)

「これくらいは楽しませてもらわないとなー。体育の時間くらい別にいいだろ」





六月三十日
「早いよ安いよ美味いよー!!」

(早くて安いが、安物すぎてイマイチだよー)



「見て見てお兄さん。このブレスレットよくない? お買い得だよ」

(お買い得だけど全部盗品だよ。気を付けて)



「……ふあーあ」

(店長さんやる気ないけど、ここのラーメンは絶品だよ。衛生状態もカンペキ)



「よし。この屋台にしよう」

(こういう時はモノの声が聞こえると便利ねぇ)

「まったくだな。シャーペン。でも看板もたまにウソついてるから油断はできんが」





六月三十日
「ふぅ……。今日みたいな暑い日の水泳の授業は気持ちいいわね」

「まったくだねっ。特に今みたいな授業ラストちょっとの自由時間は最高っ」

「だなー……」

「……それにしても水の上で良くそこまで上手に浮けるわね。まるで床の上に寝転がってるみたい」

「そういえばそうだねっ。普通多少は浮いたり沈んだりするもんだと思うけどっ」

「コツがあるんだよコツが」



(ねぇダンナ。ちょっと流れるプールになってみたいんだけどいいかな?)

「えー」

(さっきから水面で支えてあげてるんだからちょっとくらい遊ばせてよー)

「仕方ないなぁ……」

(さんきゅ。ではお言葉に甘えて……)



「わ、わわ? 急に渦が……?」

「しかも早いよっ? な、流されるよーっ!」





六月三十日
「あいたっ」

「おっと。お嬢ちゃんごめんねー」

「お気になさらずっ」

(気にしてー! 盗られてるスリされてるー! 私はここよー! 財布はここよー!)

「さーてっ。お買い物お買い物っ。……あ、あれっ。お財布どこやったっけなっ?」

「早坂小雪ー。これ落ちてたけどお前の?」

「あっ、それは早坂小雪のお財布っ。拾ってくれたんだねっ。ありがとっ」

(喋れると思ったら旦那さんが近くを通りかかってたのね。助かったぁ)



「さーて。いくら入ってたかな……って! 確かに盗ったハズが無くなってる!? ……俺の財布までぇ!?」



「悪は裁かれるものなのだ」

(そんなホクホクした顔で言っても説得力ないよダンナ。……まぁ悪人に使われるよりは財布の俺もマシだけどさ)












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