六月十八日
「さて。出かけるかなっと」

(ちょっとお待ちを)

「何だ? 靴」

(そう。靴です。革靴です)

「出かけたいから後にしてくれないか」

(今日は雨が降りそうなのですが……)

「……わかった。今日は他の靴を履いていく」

(賢明です)





六月十八日
「物置から鉄扇が出てきた……」

(おお、久しぶりの日の光……)

「でも使い道なんか無いからまた片付けておこう」

(さ、さらに奥に押し込もうとしないでくれ)

「使う用事がないんだから仕方ないじゃないか」

(護身用に是非使って頂きたい)

「護身に鉄扇が必要になるような危険はそうそう無いんだが」

(そ、そこを何とか)

「……んー。じゃあ父さんに見せてみるか。部屋に飾りたがるかもしれないし」

(恩に着る……!)





六月十八日
「ねぇねぇ知ってるっ? 学校の近所の公園で、最近怪奇現象っぽいのが起こってるんだってっ」

「へぇ。どんな感じ?」

「何でも犬を連れて入ろうとすると、不可解なプレッシャーを感じるとか何とかっ」

「ふーん……。ヒマだし帰りにちょっと寄ってみようかな」

「この早坂小雪も一緒に行ってみるよっ」





(犬の糞を持ち帰らないような人間は中に入れん……! 断じて入れん……!)

「た、確かに凄いプレッシャーだ……!」

「そうなのっ? 良くわかんないなっ。犬連れてくるとこの早坂小雪にもわかるのかなっ」





六月十八日
(なぁツクモガタリよ)

「何かな。妖刀の先生」

(ふと疑問に思ったんだがの)

「うん」

(鞘の声を聞いたことが無いんだが。こやつにも自我というものはあるのかのー)

「あるけど、あまり強くないな」

(ほぉ)

「太刀、小太刀、鞘、その他含めて『妖刀の先生』だから。そういう部分部分のモノたちは自己主張弱いよ」

(そんなもんなんだのぉ)

「そうじゃなきゃ俺は自分の手足や髪の毛と会話しながら生きてかなきゃならんしな」

(……それは流石に発狂モノだの)

「だろ? まぁバラしたら自意識がはっきりしてくるみたいだけどね」

(なるほどのぅ。では一応鞘と会話すること自体は不可能ではないんだの?)

「そ。試しにちょっと声かけてみるか。……おーい。妖刀の鞘さーん」



(……ぐぅ)



「やっぱり。寝てる」

(ふーむ)





六月十九日
「はい、もしもし。……ああ、ヒメちゃん」

「久方ぶりだな、ツクモガタリよ」

「先週も電話したじゃないか」

「ところでさー。ミっちゃん夏休みこっちに遊びに来れる?」

「今から夏休みの話とは気が早いな。……ていうか遊びに? どうしようかな」

「神を祀るものである我が祖父が、是非ツクモガタリを招きたいと言っておってな。……ダメ?」

「神主の爺ちゃんが呼んでるって? ……まーた俺に修行させる気か? 勘弁してくれよー」

「臆したかツクモガタリ! ってかミっちゃん来てくれないと私一人で修行させられるんだよぅ」

「山篭りとか滝打ちとかやってらんないよな。爺ちゃんは楽しいのかもしれんが」

「お爺ちゃん自体は別に能力ないのに修行させるなんて横暴だよね!」

「うむ。だから今年は行きたくないぞ」

「この臆病者めが! ……ってノリやってる場合じゃないよ。お願いだからミっちゃんも来てよぉぉ」

「ヒメちゃんが夏休みの間こっち来れば?」

「ナ、ナーイスアイディア!」

「だろ。宿題と着がえ持って遊びに来いよ」

「うん! あー今から楽しみ。あ、そうそう。異能者同盟(仮)のことでも話が……」

「おっと。母さんが電話使いたいから代われってさ。じゃあまたなー」



六月二十二日
「委員長って本当は委員長じゃないのに良く用事頼まれるよなぁ」

「何だか先生たち、私には頼みやすいみたい」

「委員長もたまには断ればいいのに」

「いいのいいの。……あなたもこうやって良く手伝ってくれることだし」

「ま、見てみぬフリするのも気が引けるからな。とっととプリントをコピーして帰ろうぜ」

「ええ」



(嫌だ。コピー機なんか入れられたくないよぅ)

(没個性化しちゃうよぅ)





「あ、あれ? ……紙詰まりしちゃったみたい」





(なーにが個性だ用紙ども! 印刷される前だとタダの白紙のクセに)

((はっ! そういえば!))

(せめて印刷されてプリントとして働け!)

((うーん。コピー機さんは仕事熱心だぁ))





「あ。良かった良かった。直ったわ」

「いつもこうなら楽なんだけどなぁ」

「そうよね。紙詰まりしてもすぐに直ると助かるわよね」



六月二十二日
「そこ行くお兄さん。占いなんぞ一つどうかね」

「へ? ……おお、水晶球なんか使って本格的ですね」

「だろう?」



「……で、お前って本当に占いなんか出来るのか?」

(余裕)

「へぇ。良かったら何か一つ適当に頼むよ」

(余裕)



「どうしたんだい、お兄さん。水晶球はそんなに珍しいかい」

「……ふむ」

「お兄さん若いから恋愛相談でも……」

「今から二時間後に、酔っ払ったヤクザが通るんで今日は早めに店じまいするといいですよ」

「へ?」

「それでは失敬」





六月二十二日
「たまには良いことしてみよう。……というわけで献血でも」

「ご協力ありがとうございまーす」



(ツ、ツクモガタリの血を抜く日が来るとは。はわわわわ……)

「す、すいません。何だか注射器が震えちゃって……。どうしちゃったのかしら私」

「気にしないで下さい看護婦……じゃない。看護師さん」



(そんなの抜いて大丈夫なの私!? 変な妖怪になっちゃったりしない? 人間になるのもイヤよ?)

「ごごごめんなさーい! どうしても震えが止まらないんですー!」

「……俺、帰ったほうがいいですかね」





六月二十二日
「……雨、降ってるわね」

「まったくだねっ。この早坂小雪っ、傘を持ってきてないから大弱りだよっ」

「私も今日は傘持って来てないの……」

「ふふふ。まぁ俺は持ってるけどな。何なら貸して……」

「じゃあジャンケンで勝ったほうが一緒に入れてもらうということで! いいわね小雪ちゃん?」

「えっ、えーとっ。……のっ、望むところだっ」

「ジャンケンホイ!」

「アイコで、しょっ!」

「アイコで、しょ!」



「……傘、ここに置いてくから二人で使えよー」












BACKTOPNEXT