五月一日
「今年は長いことお世話になりました……」

(この冬は寒かったらね。よく働いたわぁ)

「まったくだよ。来年もよろしくな」

(ええ、それじゃまた来年……と言いたいところだけど)

「ん?」

(灯油は使い切ってから片付けてくれないかしら)

「……また、来年……」

(こ、こらこらこら)




五月一日
「何やってんだ? 早坂小雪」

「いいところに来てくれたっ。風紀委員の名簿作ってるんだけどエクセルの使い方がわからなくて困ってたんだっ」

「そう言われても俺もそんなに自信ない……」

(いいところに来てくれたっ)

「凄いっ! 一瞬で完成させたっ!」

「お、おお」

(もー。この娘さんにはイライラしてたんだよ。助かった助かった)

「でも人目は気にしてくれよ、パソコン……」

「意外とパソコン詳しかったんだねっ。凄いっ。スーパーハッカーってヤツっ?」

「ハッカーは関係ないだろ」




五月一日
「改めて見るといっぱい並んでるよなー」

(まだまだ新学期始まったばかりだからな。受験生たちなんかにも俺たち問題集は大人気だぜ)

「なるほどな。俺はまだ関係ないけど、受験は大変だよなぁ」

(いやいや。早くから始めておいて損はないぜ。ダンナも一冊買ってくかい?)

「遠慮しとくよ。受験とかいざとなったら問題用紙を口説きまくって何とかするし」

(まったくダンナは人生ナメてるなぁ)




五月三日
「今日は遅刻してしまった……。無念だ」

(あそこで風紀委員の早坂小雪にさえジャマされなきゃ間に合ったのに。くやしいわよね)

「まったくだ。それか家があと少しでも学校に近ければ大丈夫だったのに……」

(よしきた任せて)



――ゴゴゴゴゴ……。



「ちょ、ちょっとちょっと! 言ってみただけ! 本当に動こうとしなくていいから! 我が自宅よ!」

(あ、そうなの?)

「そうそう。キミはここでどっしり構えてくれればいいから。な?」

(迂闊に軽口も叩けないわねぇ……)




五月三日
(最近自分の存在価値が危うい気がする……)

「どうした電話くん」

(みんなケータイ使うし。別に自分みたいな備え付けの電話は必要なくなってきたような……)

「そんなことはないぞ。電話ひいてないとインターネットも安くできないし」

(あ。そっかそっか。まだまだ需要はありそうですね)

「……いや待てよ。ネットなら電話回線が必要なだけで電話機自体は別になくても」

(うわぁぁん)

「待って待って。……えっと、ほら。ファックスとかテレビ電話とか?」

(結局普通の電話はいらないんだー!)

「例えが思いつかないだけだって。まだ需要はあるはず。……あー、やっぱり例えは思いつかないけど」

(うえぇぇん)




五月三日
「酒屋さんからのサービスで、一本余計に日本酒を貰ってしまった」

(余計とか言うんでないよ)

「父さんは酒はあったらあるだけ飲もうとするからなー。隠そうかな」

(いいじゃないか。酒くらい自由に飲ませてやんなよ)

「飲まれるのはお前なのに寛大だな。ていうか父さんは酔うと俺にも飲まそうとするし」

(一緒に飲んであげれば? 何のための息子だぁよ)

「酔ってうっかり父さんたちの前で、その辺のモノに話し掛けてしまいそうで怖い」

(じゃあどうすんのさ。飲まずに捨てるとかは許さんよ?)

「俺が。飲む。一人で。飲み干す。この場で」

(い、言うねぇ……)

「俺も父さん譲りで酒は大好きだからな!」


五月四日
「あ、レシートは結構です」

(結構なの……? ボクはいらないコなの……?)

「レジ袋もいらないです、はい」

(あとで返品したくなってもボクがいないとできないよ……?)

「はい、ありがとうー」

(ああ……待って、待ってよぅ)





(アンタも淡々とスルーするわねぇ)

「さすがにいちいち構ってられないしな」









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