四月一日
この度、異能者同盟(仮名)なるものを結成した。

ムシメヅルヒメである我と、フユショウグン、ホムラバシリ、モリビトの計四人の異能者で構成されている。

同盟の目的は個々の能力の研究と研鑚、そして悪用を防ぐための相互監視である。

我の血族である従兄殿にも是非参加して頂きたい。

良き返事を期待している。



長々とした文章だったが、要約すると上のようなことが手紙には書かれていた。

「……なんだこりゃ」

俺は従妹のヒメちゃんから届いた手紙の内容の恥ずかしさに顔をしかめた。

中学生にもなってマンガみたいなことを。しかも可愛らしい丸文字で。ピンクの便箋に。

「どこまで本気なんだ、このコは」

呆れ果てながら手紙から顔をあげると、壁にかかったカレンダーが目に入った。

今日の日付は四月一日。

「……ああ」

ぽんと手を打つ俺。

「エイプリルフールか。今日は」

いやぁ騙された騙された。

俺は苦笑いしながら適当なハガキを手に取ると、断る、とただ一言だけ書いておいた。

後で出しに行こう。

「まったくヒメちゃんは冗談が好きなんだから……」

……本当に同盟を作ってたらどうしよう。

イヤな予感を感じつつも、俺は深くは考えないことにしておいた。


四月二日
(にゃんにゃかにゃかにゃか)

(ダ、ダンナから一言! 一言言ってやってくださいよぅ)

「んー?」

(にゃんっ。にゃんっ)

(オレの正しい使用法ですよっ。こ、こうやって転がされて弄ばれるのは)

「んー」

(にゃっふー)

(間違ってるんだぁぁ)

「というわけで毛糸球を転がして遊ぶのは間違ってるらしいぞ」

(知ったこっちゃないのにゃあ)

「だってさ」

(お、おのれぇぇ)

四月三日
(ほら、見てごらん?)

「うん」

(宙に舞う僕たちホコリだって、光に照らされればこんなにもキラキラ輝けるんだよ?)

「確かに、何か光の柱みたいだよな」

(そう。だからキミたちニンゲンだって、明るい場所に立てば誰だって輝けるのさ)

「……」

(さぁ! 明るい方へ向かって歩いていくんだ)

「……うん、まぁわかった」

(わかってくれたかい?)

「その話はわかったけど、ホコリ舞ってるのは問題だから窓開けるぞ?」

(……嗚呼! 解り合えないとは哀しいものだね)

四月六日
「そこの。生徒指導の先生に頼まれた用事なんだけど。今すぐ生徒指導室に来いってさ」

(不満だ……)

「何でかって? その髪の色だよ。派手すぎるから指導の対象になったんだろ」

(頭の髪は染めて、何で僕は染めてくれないんだろ……)

「俺に文句言うな。俺だって風紀委員でもないのに仕事手伝わされてんだぞ。大人しく指導されてこい」

(不満だぁ……)

「……本人もうるさけりゃ、眉毛もうるさいな。早く行かないと早坂小雪が木刀片手にやってくるぞ」

(……うーん)

「眉毛うるさい。……ん、ああ。気にすんなよ。それより早坂小雪が廊下の向こうから……」

(眉毛染めはないのかなぁー……)

「……走って逃げやがった。嘘だったのに。しっかし眉毛にまでいちいち喋られるとうるさくて困るな」

四月七日
「どうした委員長。珍しく授業中にうとうとしてたな」

「うん。最近風邪気味だから薬飲んできたんだけど、そのせいか眠くて……」

「あー、そういうのあるよな。委員長も身体に気を付けてな」

「ありがとう。お昼の分も持ってきたから、それも飲めば大丈夫よ。ほらコレ。病院で処方して貰ったの」

「なるほど。よく効きそうだな」



(この女が眠いのは我らの成分だけではないかもしれぬぞ……)

(飲み下された同胞の怨みの力かもしれぬぞ……)

(の、飲まれるのが僕らの仕事なんだからそういうの止めようよー)

(そうそう。職務は全うしなきゃ)



「そう言ってくれるとありがたいよなぁ」

「ん? 何か言った?」

「お大事にって言ったのさ」


四月八日
「いやぁ、見事な咲きっぷりですなぁ。桜の爺さん」

(おう、ありがとよ)

「ところで綺麗な桜の下には死体が埋まってる、という話があるけど本当だったら怖いよな」

(ああ、あれは大層美味かったのぅ)

「……本当に埋まってんのか」

(うんむ。何年か前にな)

「へぇ……。ところで根元に何か埋められて美味いとか感じるんだ?」

(ニンゲンの感覚は知らんが、養分になるものを埋められると良い心地じゃよ)

「そういうもんなのか」

(そういうもんなんじゃ。ああ、また誰か埋めてくれんかのぅ。あの味が忘れられん)

「まぁ春は変な人が多いって言うし。もしかしたら誰か埋めてくれるかもよ?」




四月九日
(うー……。えらい目にあったのにゃ)

「どうしたどうした。ずぶ濡れになって。ほら、拭いてやるからこっち来い」

(ありがとなのにゃ。最近やっと暖かくなってきたからお外でお昼寝してたんにゃけど、急に雨が降ってきて……)

「今日雨が降るのがわかって出かけてるのかと思ってたぜ」

(何の話にゃ?)

「ほら。お前朝に顔洗ってたじゃん」

(??? それと雨が降るのと何の関係があるのにゃあ?)

「まぁお前はまだ小さいからわからないのも仕方ないか」

(何を言うのにゃー。ウチはもう子供じゃなーいのにゃー)











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