三月九日
(にゃー! にゃー!)

(シャーペンの私にはわからないけど、発情期って大変ねぇ)

(うう、モノの情けが身に染みるのにゃ)

(でも私たちモノと違って子供作れるのは羨ましいわ……)

(こっちから見たら、大事にしてもらえたらとっても長生きできるのは羨ましいのにゃあ)

(それはそうかもね。私も運よくツクモガタリみたいなヤツに使ってもらえてるし)

(ダンナに会えたのはとってもラッキーにゃ。シャーペンさんもそう思うのにゃ?)

(……ま、まぁそうかもね)

(じゃあシャーペンさんも妖怪を目指すのにゃ! 一緒にダンナに仕えるのにゃ!)

(何で私があんなのに仕えなきゃいけないのよ! ……そ、そりゃずっと使ってもらえたら、とは思うけど)

「あんなの、とは失礼だな。まぁ別に仕えて貰わなくても構わんけど」

(えー。仕えさせて欲しいのにゃあー)

(ア、アンタ寝てたんじゃないの!?)

「お前らが騒がしいから起きたんだよ。ったく。妖怪だの何だのファンタジーなことで騒ぎやがって」

(そういうダンナも妖怪みたいなもんじゃにゃいかぁ)

「……反論しにくいな」


三月十ニ日
(ああ……あったかいー……)

「そろそろ十分だな」

(ううーん……もう終わりぃ?)

「これ以上干したらしけっちまうからな」

(残念。干してもらうのは布団である私の最大の楽しみの一つなのに)

「また来週辺りにでも晴れたら干してやるから。……では最後の仕上げを」

(…や、やっぱりするの?)

「するよ? ……ほいっ」

すぱーん! 

(はぅ!)

すぱーん!

(あぁ! ……こ、これだけは慣れないぃ)

「でも俺はここまでしないと布団を干した気にならないんだよ」

すぱーん!

(あぅ!)

(布団叩きからすれば唯一のお仕事だからな。布団さんには悪いけど俺は最高に楽しい)

「そうか。じゃあ今日は多めに叩いてやろうかな」

(か、堪忍してぇ)








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