一月十六日
「美味しいお汁粉を作るコツはー。隠し味に塩をちょびっと入れるのよー」

(いや! 許さん! 我ら砂糖だけで美味しく仕上げてみせる!)

(みせる!)

(みせるさ!)

「きゃああ!?」




「何事だヒメちゃん」

「お、お砂糖が勝手に鍋に飛び込んだの」

「……あー。美味しく食われたがる派だったか。こいつらは」

「もー。せっかくのお汁粉が台無し! だからミっちゃんは台所から離れててって言ったのに!」

「す、素になるなよヒメちゃん。俺はお汁粉が楽しみだっただけなんだよー。悪気はないんだよー」


一月十六日
「うーっ。だるいなっ。まだ冬休みボケが治らないよっ」

「小雪ちゃんったら。そんなこと言ってるうちに春休みになっちゃうよ?」

「風紀委員的にはもうちょっとしゃっきりしたいなっ」

「じゃあいっそのこと今度の土日に小旅行に行くのはどうかしら? 逆に気分転換になるかも」

「それいいねっ。行こう行こうっ」

「じゃあ彼も誘って……。……やっぱり繋がらないかぁ」

「アイツは何してるんだろうねっ。学校始まってから一回も来てないよっ」

「もしかして冬休み終わってることに気付いてなかったりとか?」

「あははっ。まっさかーっ」

「ふふ。まさかね」

「……まさか、ねっ」

「まさかとは思うけど……」


一月十六日
(愛してるッ。漂白剤ちゃん!)

(私もよッ。洗浄剤さん!)

(二人こうやって中身が切れる日が来るまで一緒に居たいね)

(そうね。出来れば詰め替えてもらって末永く……)

(……ああ。君と一つになれたらどんなにいいか。愛しすぎて狂おしいよ)

(嬉しいわ洗浄剤さん。……本当に一つにならない?)

(……いいのかい)

(貴方と一つになりたいの……)

(漂白剤ちゃん……)



「ちょっと待ったぁぁぁ!!」



(な、なんだ。無粋なヤツだな)

(きゃっ。な、何よう)

「好きあうのは勝手にすればいいが、一つになるのはよくない。やめてくれ」

(なぜだッ)

(……なんでよ)

「漂白剤の君は、塩素系。洗浄剤のお前は酸性タイプ。……OK?」

((別にいいじゃない))

「よくない!」


一月十六日
「はぐはぐはぐ」

「よく食うなぁ、ヒメちゃんは」

「あぐあぐあぐ」

「この間、太ったらマズイから制限するとか言ってなかったか」

「ふふふ。ツクモガタリよ。その問題は解決したのだ。もしゃもしゃ」

「ほう」

「我が眷属を使役すれば容易いこと」

「要するに?」

「お腹の中の菌類さんたちと色々話し合って、もっと頑張ってもらうことにしたの」

「……ヒメちゃんのお腹の中って、もしかして一般人より菌類多い?」

「ふっ。さぁな。……ってミっちゃんそんな微妙な表情浮かべるのやめてやめて」


一月十六日
「ツクモガタリ、ツクモガタリよ。ていうかミっちゃんミっちゃん」

「何だよヒメちゃん」

「頼みがある。……ちょっとコイツにガツンと言ってやってくんない?」

「いいけど。何て」

「貴様を友とは決して認めん! あんたなんか友達じゃないもん! って」

「おっけ。お前なんか友達じゃないぞー、だって」

(が、がーん。嫌われてるのは解ってたけどはっきり言われるとショック……)

「落ち込んでるぞ。冬休みの友が」

「だいたい宿題のドリルが友達だなんておこがましいのよ」


一月十六日
「至極残念。当たり付き年賀ハガキ。切手シートすら当たらなかったよぉ」

「あっ、そういえば。友達にあけおめメールすら出すの忘れてたよ」

「迂闊だなツクモガタリ! それちょっとよろしくないよ。貰えなかった方はちょっと寂しいよ」

「ケータイさんも言ってくれたら良かったのに」

(私は何度か言ったわよぉ? あなたが後回しでいいって言ってたんじゃない)

「……まぁいいか。俺はクールな現代人だからどうでもいいぜ」


一月十六日
(戌年なわけであります)

「そうだな」

(ちなみに、わたくしは犬であります。犬種はミニ柴と呼ばれている雑種であります)

「お前ヒメちゃんのペットだしな。それくらいは知ってるよ。てか毎年会ってるし」

(どうでしょう。ここで一つ、ちょっとわたくしを例年より可愛がってみるというのは)

「ふむ」

(少しばかり縁起が良くなる気がしませんか?)

「でもさっきホネッコあげたばっかりだしなぁ」

(固定観念に囚われてはいけません。そこでもう一つわたくしにオヤツを。そうすればきっと貴方様に幸運が)

「ネギでよければあげるけど」

(……)

「……」

(食べてやります。食べてみせますとも!)

「散歩連れてってやるからそれで我慢しろい」


一月十六日
(戌年なわけで)

「そうだな」

(ちなみに俺はスズメ。米とか狙う、キュートな狩人だ)

「見ればわかるよ。ってか米食いすぎると駆除するぞ」

(まぁ落ち着け。で、去年は酉年だったがそれは過ぎてしまった)

「だなぁ」

(つまり俺の、俺達の時代は終わったのか? 否! 断じてそんなことはない!)

「寒いから家の中戻ってもいいか?」

(落ち着け。で、今年が踏ん張りどころだと思ってちょっと頑張ってみたんだ)

「ふーん」

(具体的に何したかと言うと、カカシに挑戦してみた)

「結果は?」

(……俺の惨敗だ。駄目だよ。カカシ超怖ぇ。勝てる気がしねぇ)

「もう大人しく山で木の実でも突付いてろよ」


一月二十一日
「よいっしょ。よいっしょ」

「お。何やってんだヒメちゃん」

「鍛錬に励んでおるのだ。最近ごろごろしてばっかりで運動不足だったから」

「感心なこったね」

「うむ。もっと褒めるがよい。それにしてもこのダンベルちょっと重すぎかも。もっと軽いのあったらよかったんだけど」

(お、重いだなんて酷いわ。乙女心が傷つけられたわ)

「乙女心のあるダンベルかよ。扱いにくいな」

「え。このダンベルって乙女なの? ……悪いこと言っちゃったかな」

「聞こえないなら気にしない方がいいぜ。疲れるから」

「そんなもんかな」

(酷いわ酷いわ)









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