一月六日
「……ただいま」

「……お、おかえりミっちゃん」

(あー。すっとした、な?)

「なぁ。凧よ、大凧よ。爺ちゃんの蔵に押し込まれてたデッカイ凧よ」

(なにか、な?)

「久々に外に出られて嬉しいのは分かるが、いきなり飛び立つのはどうだろう」

(いや。ついつい、な?)

「しかも俺が持ってる状態から飛び立ったもんだから、俺まで遥か上空にいくはめに」

(気持ちよかったろ、な?)

「めちゃめちゃ寒かったっつーの!!」

「何言ってるのかわかんないけど、忍者みたいで格好良かったと言っておこうか!」

「ヒメちゃんは黙ってていいよ」

「ちょっとだけ羨ましかったとも言っておこうか!」

(じゃあお嬢ちゃんも飛んでみるか、な?)

「ヒメちゃんも飛んでみるかだってよ」

「せっかくの振袖が汚れたらヤだからまた今度ね。夏とかいいかも」

「飛ぶ気なのか……」


一月七日
「餅は美味い。実に美味い。いくらでも食えるな! でも太っちゃうからこの辺で我慢しとこっと」

「その辺女の子だなぁ」

「淑女たるもの当然だな! ……でもミっちゃんやっぱりあと一口だけちょうだい?」

「おう食え食え。ほれ、あーん」

「あーん。はぐっ」

(今だ! ここで餅の華麗なる反撃!)

「む、むぐぐっ」

「ヒメちゃん?」

「ぐぐぐぅ」

(このままノドの奥まで突っ走ってやる!)

「こ、この殺人餅め。待ってろヒメちゃん、今助けてやる!」

「むむむっ……!」

「とりゃ!」

「むぱっ!?」

「スイッチオン!」

「むむむー!」

(お、おのれぇぇぇ)



「し、死ぬかと思ったよぅ」

「大丈夫かヒメちゃん」

「ありがとうミっちゃん……」

「でかしたぞ掃除機」

(おやすい御用で)

「餅に殺されかけるのも腹立つけど、口の中に掃除機突っ込まれて助けられるのも屈辱ぅぅ」


一月八日
(うわぁぁぁ。人間だぁぁぁ)

「……これこれ。こんな人里近くまで降りてきてはいけない」

(うわぁぁぁ。この人間、言葉が通じるぅぅぅ。怖いよぉぉぉ)

「普通の人間はもっと怖いぞ。見つかる前に山に戻れ」

(こ、これはこれはご親切に。……えっと貴方様はもしかして天狗様か何かでしょうか?)

「さあな。いいからさっさと帰って大人しく冬眠してろ」

(はいぃぃぃ。わかりました天狗様ぁぁぁ)

「早く帰れって」



「……すごい! ミっちゃんが熊を追っ払った!」

「田舎の動物たちは偉そうにしてたら勝手に敬ってくれるから助かるぜ」


一月十一日
(うう……ぐすっ。うぅ……)

「ほら、泣いてないでご主人のお名前言うてみ?」

(うわーん! 忘れられたぁぁ! 置いてかれたよぉぉ)

「あとで話聞いてやるから待ってろー」

(マスターどこなノー)

「いっぺんには無理だー。待ってろーい」




「ふう。一段落」

「ごくろうだな。褒めてつかわす! 旅館のおばちゃんがありがとうだって。ミっちゃんお手柄ぁ」

「落し物の持ち主をすぐ調べられる俺、流石だぜ。……お? 活用すれば俺ってば名探偵なれるんでないか?」

「新連載、名探偵そろもん!」

「それはやめれ」

「あ、じゃあ私の能力だって活用できるよ。コンビ組んで社会の闇を暴くのだ!」

「本気にすんなよ。まったくヒメちゃんのマンガの読みすぎっぷりには脱帽モノだぜ」

「アリだと思うんだけどなぁ」


一月十ニ日
「今日は爺ちゃんの神社でバイトなどしてみる」

「祈祷の真似事をしてみるツクモガタリと私だ! がんばるぞー」




「お前誰に断ってそこに居座ってんだ? 世の中そんな甘くないぜコラ」

「私のお願い聞いて欲しいなぁー。うん、ちょっとそこから引越ししてもらえると嬉しいんだけど」

「いやいや泣かなくていいんだ。そうそう、大人しく言うこと聞けば怖い思いはしなくて済む」

「そう? 嬉しいなぁ。そそ、要はみんな一つのところに固まりすぎなければいいわけで」




「ふう。ちょろいもんだぜ」

「我らには至極簡単! でもミっちゃんのいきなり胸倉掴み上げる祈祷の仕方ってどうだろう」

「ヒメちゃんこそ。突然ぶりっこするとかどうなんだよ」

「私もどうかと思うけど、結局はウィルスちゃんとか菌くんに出てって貰うだけのことだし」

「ってか全然祈祷じゃないよなコレ。他の神社の人に見られたら絶対怒られるぞ」

「他人の目など気にするでない! まぁ参拝客の人たちは健康になって帰ってくから別にいいんじゃないかな?」









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