十二月三十一日のこと。 とあるファミリーレストランにて。

委員長と早坂小雪を含む文芸部の面々は、皆で騒ぎながら年を越そうとしていた。

程よく盛り上がってきたとこで、よく集まりに混ざる例の彼も呼ぼうという話になった。

代表で連絡を取ることになった早坂小雪は声を弾ませながら彼に電話をかける。

「あ、もしもしっ? 文芸部のみんなで集まってソバ食べてるんだけどさっ。キミも来なよっ」

『ふふふ。残念ながらミっちゃんは私が預かりました。どなたか存じませんがお呼びでないですよ。ぶち』

すぐに切られた。

「……」

呆然とする早坂小雪。

「どうしたの小雪ちゃん?」

その様子を見ていた委員長が怪訝な様子で尋ねる。

「彼に電話繋がらなかった?」

「……知らない女の子に切られてしまったっ」

「ええ!? ……ば、番号間違えたんじゃないの?」

早坂小雪の言葉に驚いた委員長は、動揺しつつも自分の携帯電話を取り出す。

電話はすぐに繋がった。

「も、もしもし」

『ミっちゃんは私と年を越すんだってば。しつこいなぁ。ぶち』

すぐに切られた。

「……かかか彼のことミっちゃんとか呼んでる女の子が」

携帯電話から耳を話した委員長は愕然として早坂小雪の顔を見る。

「どういうことなんだーっ」

早坂小雪は周りの客のことも考えず、天井に向かって吼えるのだった。







同時刻、とある田舎のとある神社にて。

携帯電話を睨みつけているヒメちゃんに俺は声をかけた。

「ヒメちゃん。さっきから俺のケータイいじってるけど面白いか? そんな新しい型でもないんだが」

(まぁ失礼ね?)

俺のケータイが不機嫌な声を漏らすが、まぁ気にしない気にしない。

「私はそもそもケータイ持ってないから面白いぞ!」

「まぁ中学生はケータイ持たないのが正解。でも面白いのは分かるが、そろそろ返してくれ」

俺の言葉に何故かヒメちゃんは躊躇った様子を見せる。

アプリとか楽しいんだろうか。……でも遊ばれすぎてもバッテリー切れちまうからなぁ。

「また帰ったら遊ばしてやるから、な?」

「……わかった」

渋々ながらも返してくれる。よしよし。

返ってきたケータイで時間を確認。

さて、そろそろ時間だ。

「さぁこれから頑張らないとなヒメちゃん。ウチの神社に除夜の鐘を突きにくる人らは少ないから」

「うん。私たちで突きまくらないとね」

俺の言葉にぐっ!と拳を固めてみせるヒメちゃん。

(許して下さい……! 許して下さい……!)

俺たちの気合を削ぐような情けない声が耳に入ってきた。

その声の方に顔を向けてみると、今夜のターゲットの鐘が。

「なんだコイツ。去年までのとは違うみたいだけど」

「今年から新しいのに替えたのだ! もう前のは古くなって限界だったからな! ……何か言ってるの?」

(許して下さい……! 百八回も突き鳴らされるなんて耐えられないです……!)

「泣き言言ってる。許して下さいとか」

通訳してやると、ヒメちゃんは腰に手を当て、目を吊り上げさせた。

「なーにを情けないことを! それでもウチの神社の鐘か! 教育してやる!」

言いながら鐘に蹴りをかますヒメちゃん。

くわーん、といい音が辺りに響く。

(痛い痛い)

「……痛いよぅ、痛いよぅ」

めそめそと泣く鐘。半泣きで蹲るヒメちゃん。

そりゃあ草履で鐘に蹴りなんか入れたらそうなるだろうさ。

「もうダメー。私立てないー」

「ヒメちゃんはホントにバカだな。ほら、肩貸してやるから。頑張って一緒に鐘突こうな?」

手を差し伸べて立ち上がらせてやると、ヒメちゃんは上目遣いに俺を見上げる。

「……うん。頑張る」

(頑張らないでー)

肩を貸してやっているので、自然とぴったりとくっ付く格好になっている俺たち。

うーん。やっぱり人肌はぬくいなぁ。最初からこうしてればよかったかも。

「あったかい……」

ヒメちゃんも同じことを思ったらしく、俺に体重を預けてきた。

(助けてー助けてー)

うるせぇな鐘。

……あ、鐘突く前にあの娘らにメールでも送っとくかな。

あけおめメールは回線混雑して届き難いからな。今のうち今のうち。

ポケットからケータイを取り出し、ささっとメールを打つ。

『今のうちにメール送っとくぜ。今年は従妹のコと除夜の鐘突くんだけど寒い寒い。まぁそれはさておき、来年もよろしくなー』

……というような内容のメールを委員長と早坂小雪、他にも野郎の友人たちにも送信。

よっし義理は果たした。

さぁ鐘を突くぞー。

と、意識を鐘に向けかけた瞬間、ケータイが鳴った。何だよ誰だよ。

「もしもし」

『あ、キミかっ。……よかったっ』

んん?

「何が良かったんだ早坂小雪」

『な、何でもないよっ。それより除夜の鐘を従妹と突くんだってっ?』

「そうだ。まったく寒いし大変だぜ。紅白見たかったのに」

俺がぼやくような言葉を漏らすと、電話の向こうの早坂小雪は逆に嬉しそうな声を出した。

『そっかっ。大変だなっ。早坂小雪たちはみんなとパーティー年越しだぞっ』

ええっ。

「いいなぁ。俺も行きたかったぞ」

『ふふーんっ。そうだろそうだろっ。……って委員長、何をっ……』

電話の向こうで何やらどたばたした音がしたかと思うと、早坂小雪の声が途絶えた。

何なんだ。

『お、お電話替わりました』

あれ。

「今度は委員長? 何かそっちは楽しそうだな」

『あなたも来れたらよかったのにね?』

「爺ちゃんが腰痛で寝込んじまってるから。まぁ今年はパーティーはお預け」

『また新年会もやるからその時は一緒に』

「だな。毎回毎回誘ってくれてありがとな、委員長」

『……そんな、私は』



ぐっわーん!

(はうわー!?)



『な、何?』

「おお?」

驚いてケータイから耳を離すと、何時の間にやら俺から離れていたヒメちゃんが鐘を思いっきり鳴らしていた。

「さぁさぁミっちゃん! そろそろ時間だ! 今夜は私とフィーバーするの!」

(そんなフィーバーの仕方はやめてぇぇ!?)

力いっぱい叩きつけまくっているので、電話の向こうの委員長の声が全然聞こえない。

……まぁ言いたいことは言ったから良いか。

諦めて電話を切ると、ヒメちゃんの手に俺の手を重ねた。

「悪い悪いヒメちゃん」

「まったくミっちゃんは!」

頬を膨らませるヒメちゃんに手を貸して、二人掛かりで鐘を突く。

ぐわーん!

(いたぁぁぁ!)

ぐわーん!

(ひみゃああ!)

ぐわーん!

(うぃぃぃ!?)

「……うるせぇな」

鐘の音と、悲鳴が冬の夜空に響いていく中。

騒がしかった今年もまた暮れていくのであった……。

……まぁ来年もどうせ騒がしいんだろうけどな。








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