「ねぇ、吉野くん」

BOOKS鬼の今日の業務が終了し、レジ閉めなどの作業も終わった頃。

佐藤恵理はエプロンを片付けて奥の部屋から出てきた吉野豊に声をかけた。

声をかけられた豊は、静かな動作で恵理に視線をやる。

「ちょっと相談したいことがあるんだけど……」

「いいとも」

おずおずと話し掛けた恵理に対して豊は即答した。

実に頼もしい。

そんな豊の態度に、恵理はこれで愛想さえあればもっと親しみやすいのに、とか思った。

「ありがとう。それで相談の内容なんだけど」

「もしかしてストーカーの件かな」

目を丸くする恵理。

「……なんで知ってるの? 私がストーキングされてるかもって」

「いや、ここ最近佐藤さんの後ろを付け回している男がいてね」

豊は飄々と答える。

「知ってたのなら私に一言言ってくれればいいのに」

呆れと、ほんの少しの怒りの混じった声で言うと、豊は静かに腕を組む。

「正直に言うと」

「……うん?」

「佐藤さんが気付く前に解決してみようと思ってたんだ。間に合わなかったけど」

それだけ言うと豊はやれやれと残念そうに首を横に振った。

恵理はそんな彼の言葉で、ここ最近の豊を行動を思い返してみた。

「そういえば、ここ最近はしょっちゅう閉店してから家まで送ってくれてたりしたわね……」

女性に対して必要以上に干渉しないはずの豊にしてはおかしいとは思っていたのが。

まさかこっそり守ってくれていたとまでは思わなかった。

「しかしお互い気付いてるとなると話は早いな。この件はさっさと解決させようか」

恵理が豊の行動に内心感激している間にも、彼は淡々と話を続ける。

「警察に届けるのが一番手っ取り早いと思うのだが、どうだろう」

「はっきりとストーキングされてる証拠がないと動いてくれないって話を聞いたことがあるんだけど……」

テレビからだけど、と心の中で付け加える恵理。

「知人たちに協力してもらったから相手の顔と名前は割れてる」

何者なのかしら、この人……。

豊の知人、というのも非常に興味深かったが恵理は少し考え込んだ後、こう答えた。

「警察は可哀想よ。まだ何かされたという訳でもないのに」

相手の年齢も性別も知らないが、通報などしてしまったらその人の人生、お先真っ暗ではないか。

どういう罪にあたるのかは知らないが、無闇に人を前科持ちにするのはどうかと思う。

恵理の主張に今度は豊が少し考え込む様子を見せた。

腕を腰に当てて軽くため息を吐く。

「躾ければ育つタイプなら、通報は止めておこうか」

そう言ってちらりと恵理に視線を送る。

「躾ければ育つ……って。もしかして私のこと?」

「さ、帰ろうか。送るよ」

飄々とした態度で帰り支度を始める豊に恵理は突っかかる。

「いや確かにそうかもしれないけど! 躾けって言い方はちょっと酷い……って先に行かないでよ、もぉー」







すっかり遅くなった夜道を恵理と豊は並んで歩く。

適度に距離を空けて歩いているので、特に恋人同士に見えたりはしない。

この辺りは豊の配慮なのだろう。

恵理は別に気にすることないのに、と一瞬思ったが由美と彩の顔が頭に浮かんだので考え直す。

勘違いをされたら確かにあの二人がうるさそうだ。

それに豊のことを慕っているのはあの二人だけではなさそうだとも恵理は思う。

さっきの豊の言葉に出てきた「知人」というのも気になるし。

そんなことを考えながら黙々と足を進めていると、隣の豊が急に顔を近づけてきた。

「な、何?」

不意のことで少し顔が赤くなってしまう恵理。

「静かに。……今、ちょうど後ろにストーカーがいるけどどうする?」

「え!?」

はっと振り返ろうとした恵理だが、豊は彼女の肩を抑えて止めさせる。

「急に振り向くのはまずい。捕まえるにしろ、説得するにしろ、な」

どうやら豊はストーカーを説得することも頭に入れているらしい。

そのためかどうかは分からないか、丁度いい具合に人気も人家もない道に差し掛かっているところだ。

しかし恵理本人が、ストーカーをどうしてやりたいのか考えていなかった。

「どうしようかな……。警察に突き出すのも可哀想だけど、このまま付き纏われるのは気味悪いし……」

恵理も豊の耳に顔を寄せてぼそぼそと返事を返す。

「悩むのは結構だけど、結論はお早めに」

「ううーん……」

顔を寄せ合ったまま歩く二人。

恵理に自覚はなかったが、先ほどとは打って変わって仲の良い恋人同士に見えた。

その体勢のまま少しの間歩いていると、後ろから裏返った声が響いてきた。

「さ、さっきから黙って見てたら調子に乗りやがってぇ!!」

「!?」

突然のことに仰天して振り返る恵理。

そんな彼女に対して豊のほうは、余裕たっぷりに静かに振り向く。

そこには神経質そうな顔付きの身の細い少年が立っていた。

年は恵理たちと同じくらいだろうか、握り締めた拳を震わせながらこちらを二人を睨みつけている。

「そ、そこのメガネェ!」

叫びながら豊を指差す。

「えええ恵理ちゃんはボクのモノなんだぞ! 馴れ馴れしくするなァ!!」

「え、恵理ちゃんって……。ボクのモノって……。私、あの人の名前も知らないのに」

恵理は嫌悪感で背筋がぞくぞくするのを感じていた。

危ない、非常に危ない人だ。

和解なんか出来そうな雰囲気がまるでない。

大人しく警察に突き出しておけばよかったぁ……。

思わず頭を抱える恵理だったが、その肩が突然抱き寄せられる。

抱き寄せたのはもちろん豊だ。

「ちょ……」

「女性をモノ扱いするのはあまり感心しないねぇ」

そのまま恵理を軽く抱きしめながら、豊は口元に相手を馬鹿にするかのような笑みを浮かべていた。

その表情を見て恵理は気付く。

なるほど、これでストーカーを諦めさせるつもりなのね。

あの人も気が弱そうだし、これで退いてくれるかも

豊の考えを察することが出来た恵理は身体から力を抜いて彼にしな垂れかかることにした。

「ま、君の言う通り? 女性をモノ扱いするにせよ……」

言いながらすっと恵理の顔に頬擦りをした。

「恵理は、僕のモノだ」

この人は本当にもう……! クサいっていうか格好つけすぎ……!

頬擦りされた恵理は顔が赤くなるのを止められなかった。

顔を熱くさせて俯いていると、さらにヒートアップしてきたらしいストーカーは叫ぶ。

「ななな!? 恵理ちゃんにベタベタするなァ!! ぶぶぶ……ぶっ殺すぞォ!」

「軽々しく殺すとか言うなよ。……山下透さん」

ぼそりした呟きに、ストーカーはびくりと身体を振るわせた。

「なな何でボクの名前を……」

「名前どころか住所まで把握してる。それにしても同じ高校の先輩を、恵理ちゃん呼ばわりはちょっと生意気だ、な」

同じ学校だったのか……。

というかどうやって調べたのかは気になるが、山下ことストーカーはかなり動揺している。

その様子を見て、豊は口元に薄い笑みを浮かべた。

「名前を知られたくらいでそんなに焦っちゃあ駄目だ。ストーカーとしては二流以下なんじゃないかい」

言いながら豊は恵理に再び頬擦りをする。

何かこの人楽しそうだわ……。

少し落ち着いてきた恵理は上目遣いで豊の顔を窺ってみるが、何やら彼が暗い喜びを感じているように見えなくもない。

「誰がストーカーだ……! 調子に乗りやがってメガネがァ……!」

豊の挑発に先ほどとは違う感情で肩を震わす山下。

今にもこちらに飛び掛ってきそうだと豊の腕の中で緊張していた恵理だが、相手は予想外の反応を見せた。

急に穏やかな表情になると「わかった」と呟き、こちらに手を差し伸べてきたのだ。

「恵理ちゃんはそのメガネに何か弱みでも握られてるんだろ? 可哀想に……」

あながち間違いでもないけど、と恵理はちょっとだけ思った。

「でももう大丈夫! ボクが助けてあげるよ! さァ、こっちにおいで!」

実に爽やかな笑顔で言ってくれる。

どうしたもんかと豊の顔を見ると、相手の顔を見据えたまま薄い笑みをまだ浮かべている。

やっぱり何か楽しそうだわ……。

でもここは自分が何かするべきだろう、と思った恵理は豊の腰に絡みつくように抱きついた。

「脅されてなんかいないわ。……わ、私たち付き合ってるんだし」

ああ私は何を言っているんだろう。

恵理としてはかなり頑張ったつもりだったが、山下はいまいち動じてくれなかった。

「またまた。恋人同士にしてはぎこちないし? そんな無理しなくてもボクが助けてあげるってッ!」

こいつは……!

警察に届けるのは可哀想とか言っていた自分が馬鹿だったと恵理は思う。

こんな危ない人を放っておいたらこの先何をしてくるか分かったものではない。

決心がついた恵理は、いささか大胆な行動に出ることにした。

やっぱり何だか楽しそうな豊の頬を両手で抱え込むように近寄せ、唇を奪ってやったのだ。

いきなりのことに目を丸くする豊。

自分も目を閉じなかったのでそのまま数秒間……恵理にはやけに長く感じられたが、お互いの目を見詰め合う。

豊の顔が見る見るうちに赤くなっていく。

抑えている彼の頬も熱いくらいに熱が上がっていた。

いつもの豊からは想像できない動揺っぷりに恵理は少し冷静でいられた。

この人は攻められるのは弱いのかしらん、と楽しくなりながら恵理は彼の頬から手を離す。

まだ目を白黒させながら顔を真っ赤にしている豊はふらふらとよろめいている。

そんな彼を尻目に恵理は豊と同じように目を丸くしていた山下に指を突きつける。

「見ての通りの関係よ! いいからもう私には付き纏わないで!」

きっぱりと言い切ってやる。

その言葉に丸くなっていた山下の瞳が、だんだんと据わっていく。

その上に、危険な光を宿らせていた。

「……汚れた。恵理ちゃんが汚れちゃった」

「へ?」

「もういらない……! せめて……せめて! ボ、ボクがメガネもろともあの世に送ってやるゥゥゥ!」

そう叫ぶと山下はポケットから小さなナイフを取り出した。

ここまで危ない人だったの……!

一気に青ざめた恵理は頼みの綱の豊の方に視線をやる。

まだ惚けていたらどうしよう、と思ったがそんな心配はなかった。

すっかりいつもの冷めた表情に戻っていた彼は、鋭い声を発した。

「ダーティ。出番だ」

何それ……と恵理が尋ねる暇もなく。

突然、近くにあった電柱の影から人が飛び出してきた。

「遅い! おっせぇんだよ俺を呼ぶのがよぉぉぉ!!」

もう夜も遅いというのに、飛び出してきた人物は絶叫しながら恵理たちとストーカーの間に立ち塞がった。

「正当防衛ということにしたいじゃないか、やっぱり」

飄々とした口調の豊に対してダーティと呼ばれた人影は苛立し気に舌打ちをした。

「そんなの通報されなきゃ一緒だろーが」

「いや、だってダーティは声大きいしな」

豊は普段よりも砕けた雰囲気だった。

突然現れた乱入者に驚いていた山下だったが、気を取り直して再び叫ぶ。

「なんだなんだお前はァ! いきなり出てきっ……ぐひ!?」

台詞の途中で潰れた蛙のような悲鳴をあげる山下。



てんてんてんてん……。



道路の上で数回跳ねて、転がっていく硬球の野球のボール。

ぼたり、と何かが垂れた音がした。

「ふぇ……?」

呆然と口元に手をやる山下。

前歯が一本、欠けていた。

もちろん血まみれになっている。

遅れて走る激痛。

「ひ……ああああああ!?」

あまりのことに山下は絶叫を上げる。

ダーティの投げた硬球が直撃したのだった。

「うー……っせぇんだよ!!」

悲鳴をあげている山下にダーティは肉薄し、その鳩尾に拳を叩き込む。

「……!?」

一気に意識を失いかける山下の顔面を両手で鷲づかみにして、前歯が折れた部分を容赦なく刺激する。

声にならない絶叫をあげる山下を痛めつけながら、ダーティはひたすら楽しそうだ。

「ぎゃははは! 不意打ち大成功だし! わざわざナイフなんか用意したのにザーンネーンでーしーた!!」

涙目でいやいやと首を振る山下だが、ダーティは気にした様子などまるで見せない。

「身近なモノでも凶器になるんですよー? 勉強になりましたかー?」

道路に転がっている硬球は血に染まっている。

どうも電柱の影に潜んでいた時から手に持って用意していたモノのようだ。

「お前みたいなザコ相手すんのが一番楽しいな、やっぱ!! いちいちケンカとかしてらんないしな! なぁ!?」

笑いながら山下の首をぎりぎりと絞めている。

もう誰から見ても、今まさに殺人が行われようしている風景にしか見えなかった。

「何……何なの!?」

状況がまるで掴めない恵理は目の前で行われている惨劇にどうしていいのかまるで分からなかった。

一方、豊の方は少しの間静かに眺めていたが。

「……もう十分かな」

ぼそりと呟くと、小走りにダーティと山下に駆け寄る。

そして首を絞めているダーティを山下から引き剥がした。

「ダーティ、ありがとう。もういいよ」

「あー? まだ足りなくね?」

ダーティは欲求不満そうに手をわきわきとさせている。

「もういいって」

豊はダーティを制すると、地面にへたり込んだまま怯えきった顔で見つめてきている山下に手を伸ばす。

びくりと身体を震わせて後退ろうとする山下の手を握り締めた。

「もう大丈夫。怖いことは終わったから」

豊は穏やかな声で囁くと、ポケットから清潔なハンカチを取り出した。

そしてそれを使って血を流している山下の口元を抑えてやる。

「痛かったね? 怖かったね?」

山下はうんうんと首を縦に振る。

その態度に豊はまるで天使のような優しい笑顔を浮かべた。

恵理はあんな顔で口説かれたから絶対落とされるだろうな、と思った。

その豊の後ろではダーティが気味悪そうな表情を浮かべてはいたのが気になったが。

とにかくその豊の笑顔に、山下はぼろぼろと涙を流し始める。

「でももう大丈夫。痛いことも怖いことも、もうお終いだ」

そっと豊は山下に肩を貸してやって立ち上がらせてやった。

「さ、手当てをしなくちゃいけないな。うちへおいで」

「……」

声を出せない山下は涙を流しながらぺこぺこしていた。

「佐藤さんはもう一人で帰れるだろう?」

「え? あ、うん」

「ダーティは佐藤さんを襲わないように」

「バッカ俺は無理やりは好みじゃねーっつの」

二人に一言ずつ言葉を残していくと、豊は山下の身体を支えながら元来た道を戻っていった。





その背中を見送ったダーティは満足そうに頷く。

「うむ。ダーティ&じぇんとる流の説得術、今回も大成功だぜ」

「……何それ」

いまいち状況の掴めない恵理。

ダーティは楽しげに解説してくれた。

「まず俺が相手を半殺しにして絶望感を与えてやるだろ? で、それを適当なとこでじぇんとるが止める。
そしてアイツお得意の作り笑顔で死ぬほど安心感を与えてやる。そーするとお手軽にじぇんとる信者兼、俺の下僕が出来上がるのだ」

「それって説得じゃなくて洗脳では……?」

得意げに語るダーティに一応突っ込んでみるが、ダーティに笑い飛ばされた。

「ぎゃはは! 似たようなもんだろ」

言いながらダーティはぐるぐると肩を回し、

「さて。俺はそろそろ帰るが、じぇんとるに今度何か奢れと伝えておいてくれよ佐藤」

「わかった。……って私の名前知ってるのね」

「おいおい寂しいこと言ってくれるなよ。俺たち同じクラスじゃねーか」

「え? ……ああっ」

言われてからはっきりダーティの顔を見た恵理は少し驚いた。

「は、羽間くん……?」

「そうですよ。羽間真二くんですよ?」

おどけた様子の羽間真二ことダーティ。

「しっかし目の前でクラスメートのキスシーンとか見せ付けられて、何か俺はへこんじまったぞオイ」

「あ、あれは……その……」

先ほどの自分の行動を思い出して赤くなる恵理。

その様子をにやにやと眺めるダーティは楽しそうだ。

「まーアイツは流されやすいからホテルにでも連れ込んじまえば一発じゃね? せいぜい頑張んな」

つーか、とダーティは続ける。

「俺としてはアイツにゃそろそろ落ち着いて欲しいんだよな。いつまでも井上のことでうじうじしてるのはうっとおしー」

「井上さん……か」

ぽつりと呟く恵理にダーティはうんうん頷く。

「知ってるだろ? 隣のクラスの。通称ウサギさんの泣き虫なあの女」

言われて恵理は顔を思い浮かべてみる。

友達にからかわれては涙を滲ませている様子しか浮かんで来なかった。

そういえば、あの娘が彼のことを振ったのよねぇ……。

色々と考え込みそうになった恵理だったが、慌てて思い直す。

「別に吉野くんはたたのバイト仲間だから。むしろ私は彼の幼馴染の子を応援してるのよ」

「ああ。彩ちゃんか。あの子は確かにイイ子だよなー。あの子の相手をしないじぇんとるの気がしれん」

彩のことを知っているらしいダーティは鼻をならす。

「ま、くっつくんなら誰でもいいけどな。俺はそろそろ帰るわ。じゃーな」

どうでもよさそうに言い捨てると、ダーティは立ち去りかけた。

そんな彼の背中に恵理は慌てて声をかける。

「……あ、羽間くん。助けてくれてありがとう」

その言葉に振り返らずにダーティはそのまま歩き続ける。

「礼ならじぇんとるに言いな。あと俺のことはダーティと呼べ」

そんな彼の後ろ姿を見送った恵理。

一人になった後、ため息を吐きながら家路につくことにした。

どっと疲れた夜だった。





翌日。

夕暮れのBOOKS鬼にて。

「こんちわっス!」

一人レジにいた恵理はいきなり入ってきた客に驚かされた。

「じぇんとるさんはいらっしゃらないっスか? ご自宅にはいらっしゃらない様子だったんで」

実にいい笑顔を浮かべた山下だった。

昨晩はあんなに神経質そうな顔つきだったのに、前歯が欠けた今の顔はむしろかなりの愛嬌を放っていた。

「い、いらっしゃらないけど……?」

どう反応していいのかよく分からない恵理が何とか答えると、山下は残念そうな表情を浮かべる。

「そうスかー。昨日のお礼に菓子折り持ってきたんすけど。あ、良かったら佐藤先輩預かって頂けないスか?」

恵理ちゃんから佐藤先輩になってる……。

差し出された菓子折りを思わず受け取ってしまいつつも、違和感を禁じえない。

「佐藤先輩には昨日までホント申し訳ないことしたッス。自分はマジ反省してるッスよ」

「そ、そう。それならいいけど……」

そんなことより完全に山下のキャラが変わっていることの方が気になって仕方が無かった。

いったい昨日、あの後に豊の家でどういう「説得」が行われたのだろうか。

「お詫びに何かあったらすぐに力になるッスよ! いつでも使ってやってくれッス!」

それでは! と片手をあげて爽やかに去っていく山下。

取り残されたような感覚を味わいながら、恵理はとりあえず菓子折りを邪魔にならないように片付ける。

「吉野くんは怖い人だわ……」

人のいない店内で一人呟く恵理だった。



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