鬼頭彩は今朝もご機嫌だった。
というか彩は基本的に朝はいつでもご機嫌だ。
何故なら数日に一回は彼女の一つ年上の幼馴染である吉野豊の寝顔を拝めるからだ。
隣の家に住む彼の両親は共働きでほとんど帰ってこない。
なので彼は実質一人暮らしなので彩が色々と世話を焼いている。勝手に。
一人でもやっていけている様子だし、頼まれたわけでもない。
しかし自称将来の嫁候補としては世話を焼かずにいられないのである。
今朝も今朝とて合鍵を使って家に上がりこむ。
玄関に靴を脱ぎ捨てると静かにそろそろと家の中を突き進む。
「ゆー兄ちゃーん。あっさでっすよぉー」
口の中で歌うように呟きながら階段を上る。
ここから呼んで起こしてもいいのだが、それでは寝顔が見られないのでつまらない。
音を立てないように慎重に二階に上がると、豊の部屋のドアの前で少し立ち止まる。
大きく息を吸って深呼吸を一つ。
ここのドアを開けるときはいつも少し緊張する。
平気ぶっているが、やはり年頃の男の子の部屋に踏み込むのはどきどきするものがあるのだ。
それに今日は何だかいつもより胸が脈打っているような気がする。
今朝は何かがある。
彩はそんな予感がした。
高鳴る胸を押さえつつ、彩は静かにドアを開けた。
豊は起きていた。
立ち上がってタンスの中を探っているところだった。
彩に気がつくと軽く視線を向けてくる。
「あぁ、彩さん。おはよう」
だからノックくらいはしようよ、と注意しつつも迷惑そうな素振りは見せていない。
「おおおお、おはようっ! ゆー兄ちゃん」
彩はどぎまぎしながら返事を返す。
普段なら会話くらいで動揺などしないのだが今日は勝手が違った。
豊は着替え中で、上半身裸の姿だったのだった。
運動不足のせいで筋肉は少ないが無駄のない締まった身体つきに彩は思わず見とれてしまった。
瞳まで潤ませて見つめる。
(あぁ……ゆー兄ちゃんはやっぱりいいわ……。眼鏡外してたら相変わらず目付き悪いところなんかも素敵……)
たっぷりと五分ほど見つめ続ける。
その間、豊はタンスを探るのを止めベットに腰掛けてその視線を甘んじて受け止めていた。
しかしいつまで経っても彩は動き出す様子がない。
豊はさすがに耐えかねたのか彼女に声をかけた。
「彩さん」
「何……? ゆー兄ちゃん……」
潤んだ瞳で豊を見つめる彩。
彼女は自分がくらくらしてくるのを感じていた。
「もうどうにでもして……」
「何を言ってるのかな彩さんは」
熱い吐息を吐く彩にも豊はあくまで冷静だ。
「着替えたいから少し部屋から出て欲しいんだけど」
はっ! と我に返る彩。
「ご、ごめんね、ゆー兄ちゃん。すぐに出てくから」
慌てて部屋を出ようとした彩は自分の足に躓いてしまった。
勢いがついていたので華麗にすっ転ぶ。
「――ああっ!?」
動揺していたのと、今ひとつどん臭いところのある彼女は受身をとることが出来ない。
顔面から床に突っ込んでいく。
その様子を見ていた豊は慌てず騒がず手元の枕を掴むと素早く投げた。
床と彩の顔面の間に滑り込んできた豊愛用の羽毛の詰まった枕は彼女を優しく受け止める。
「はぅあっ」
しかし枕だけでは顔しか守れない。
膝などを床に打ち付けてしまった彩は枕に顔を埋めた状態のままで痛みに耐えていた。
彩がふるふると震えている隙に豊はさっさと制服に着替えておく。
これくらいのことは日常茶飯事なので紳士的と評判の豊と言えども、いちいち反応していられないのだ。
きっちり制服を着込むとまだうつ伏せになっている彩に歩みよる。
「大丈夫? 彩さん」
豊が声をかけるが返事がない。
枕に顔を押し付けてぐったりとしている。
豊は少し眉を顰める。
彩の肩に手をかけ、ころんとひっくり返す。
「……うぅ」
彩は赤い顔で目をぐるぐるさせていた。
「何か身体に力が入らないよ……」
豊は屈みこむと、彩の額に手を乗せた。
もう片方の手を自分の額に当てている。
「気持ちいい……」
彩はひんやりとした豊の手の感触に目を細めた。
しかし豊はすぐに手を離してしまう。
「熱があるね」
そう言うと彩の身体の下に手を差し込み、すっと抱き上げた。
「ゆゆゆ、ゆー兄ちゃん!?」
赤い顔をさらに赤くさせて声を裏返させる彩。
そんな彩には構わず、いわゆるお姫様抱きの状態のまま部屋を出て階段を下りる。
「昔からまったく彩さんは……。どうして自分が風邪ひいてることに気がつかないのかな」
「な、何かどきどきするなー、とは思ってたんだけどねっ。久しぶりだったしねっ」
今はもう別の理由で心臓がはちきれそうな彩は何とか声を絞り出して返事する。
彩の動揺に気付いているのかいないのか。
豊はいつも通りの表情で彩を抱きかかえたまま器用に靴を履き、家を出る。
そして素早く彩の家に入って彼女の部屋を目指す。
とりあえず豊は部屋まで運んで寝かせるつもりのようだ。
淡々と運ばれている彩はその間、幸せそうに目を閉じて豊に身を任せきっていた。
なので豊の首筋に浮かんだ汗には気がついていない。
普段大した運動をしているわけでもない上に喫煙の習慣のある彼には女の子を抱きかかえて歩くのはなかなか辛いものがあるのだ。
しかしそんな様子は微塵も見せずに二階の彼女の部屋に向かって歩いていく。
階段を上りかけたところで、彩の父親である鬼頭大介に出くわした。
自分の娘を抱きかかえている少年を見ると、大介は素晴らしく大きな声で挨拶してきた。
「おはよう! じぇんとる君!」
びりびりと辺りの空気が震える。
「おはようございます。店長」
「家ではお義父さんと呼んでくれて構わんぞ!」
「遠慮させて頂きます」
そんなことより、と豊は話を切る。
「彩さんがどうやら風邪をひいたようなので、あとで学校に連絡してあげてください」
「なんだ彩! お前風邪ひいたのか!」
「パパ……! 頭に響く……!」
大介の怒号にも似たどら声に彩は顔をしかめて耳を抑える。
両手を塞がれている豊は黙って耐えるのみだ。
大介はすまんすまん、と謝ると豊に向かって言った。
「悪いなじぇんとる君! もう急がないと学校に遅刻するだろう!? あとは俺に任しときな!」
そう言ってガバっと豊の手からむしり取るように彩を引き離す。
巨漢な彼は軽々と彩を抱きかかえて階段を上がっていった。
彩はちょっとだけ残念だったので、こっそり口を尖らせた。
豊は実はそろそろ限界だったので、こっそりため息を吐きながら自分の腕を揉んでいた。
大介は彩を彼女の部屋まで運ぶと、さっさと布団を敷いてやった。
彩は大介に礼を言い、彼が部屋を出たあとにとりあえず制服からパジャマに着替え布団に潜り込む。
布団の中で、大きく嘆息を吐く。
「風邪は嫌だなぁ……」
彼女の家庭は父一人娘一人の父子家庭。
昼間はもちろん父は店に出なければいけないので、風邪をひいても自分の面倒は自分で見なければならない。
風邪をひくのは随分と久しぶりだなので結構辛かった。
とりあえず横にはなったが、清涼飲料や氷枕などが欲しい。
本格的に寝込むならそれを用意してから……。
朦朧としてきた頭でつらつら考えていると、ドアが軽くノックされた。
「どーぞー」
反射的に答えるが、大介は娘の部屋のドアをノックするデリカシーのある男ではない。
しかし頭が熱で茹だってきている彩にはそのことには気がつかなかった。
「入るよ」
豊が入ってきた。
両手にはペットボトルの清涼飲料や薬などを乗せたトレイを持っている。
脇には氷枕を抱えていた。
「ゆー兄ちゃん……? 学校は?」
「休むことにした」
言いながら彩の枕元にペットボトルを置き、体温計を手渡す。
「一回熱測って。あと頭上げて……そうそう」
枕を氷枕に取り替えると、豊はペットボトルにストローを差し込んで飲みやすくしたりなどし始めた。
彩は感動して震える声で豊に言った。
「あたしの看病のために学校休んでくれたの……?」
「いかにも」
豊は何でもないような口調で答える。
「彩さんには普段から世話になってるからね。恩は返さないと」
「ゆー兄ちゃん……」
彩はうっとりと枕元でごそごそと作業している豊の手を握ろうとした。
かなり良い雰囲気だと思ったからだ。
しかし彩の手は空ぶった。
豊はすっと立ち上がると彩を見下ろして言った。
「じゃ。僕は部屋の外に出てるから。何かあったら枕元のベル鳴らして」
言われて枕元を見る。
どこから用意したのか手の届く位置に高めのホテルのカウンターにありそうなベルが置いてあった。
「一緒に居てくれるんじゃないの?」
すがるような声色の彩に対して豊は平然と答える。
「伝染ったら意味ないからね」
それじゃお大事に、と言い残して彼はさっさと部屋を出て行ってしまった。
ぽつんと部屋に取り残された彩。
何だか凄く寂寥感を感じていた。
彩は枕元のペットボトルを引っつかみ、ごきゅごきゅ薬と一緒に中身を飲むと頭から布団を被った。
ちょっとだけ豊に怒りを感じる。
彼はいつもこうなのだ。
優しいんだけど、一線引かれてしまってるというか何と言うか。
物足りない。
実に物足りない。
布団の中で頬を膨らませていた彼女だが、昔の彼をふと思い出した。
昔はもっと酷かったような気がする。
豊は「じぇんとる」などと呼ばれるくらい紳士的と評判の男だが、それはわりとここ数年の話。
それまでは結構荒っぽかったような気がする。
彩は薬を飲んだせいか、うとうとしてきた頭でぼんやり幼い頃のことを思い出していた。
豊があまり笑わないのは今と一緒だが、常に不機嫌そうな顔をしてぶすっと黙り込んでいた。
彩もあの頃は怖くて話しかけられなかったものだ。
そしてしょっちゅう喧嘩をしていた。
小学校の上級生などから生意気だ、などと因縁をつけられ殴られる。
しかし、豊は黙って殴られているような大人しい子供でもなかった。
むしろ悪魔のような子供だった。
顔を殴られれば、相手の喉を殴りつける。
後ろから蹴りつけられたら、相手を窓ガラスに叩きつける。
石を投げられれば、ベランダから花瓶を落とす。
よく今まで相手に死人が出なかったものだと思う。
(ゆー兄ちゃんっていつから今みたいになったんだっけ)
ふと彩は疑問に思う。
(何かきっかけがあったと思うんだけど……。何だったかなぁ……)
(……あれ? あたし寝てた?)
考えているうちに眠り込んでいたらしい。
ふと顔を上げて、壁の時計を見ると針が二時間ほど進んでいた。
二時間寝てもまだ調子が悪い。
頭がぼーっとする。
ぼんやりとしながら寝返りを打ってうつ伏せになったとき、枕元のトレイの上に皿が増えているのに気がついた。
寝る前まではなかった皿だ。
少し身を起こして見てみると、小さく切られたリンゴが盛られていた。
兎まで何匹か混じっている。
こんな気が利いたこと、器用なことは大介にはできない。
豊が彩が寝ている隙に置いていったのだろう。
彩はそんな豊の心遣いに感謝……すべきなのだが、今日はそう思えなかった。
何となく腹が立ってきたのだ。
(こそこそリンゴなんか置いてくれなくていいから枕元にでも座ってくれてたらいいのにっ)
頭がぼやけているせいか、理不尽な考えに走っている彩。
彼女は枕元のベルを引っつかむと力いっぱい振り回した。
鈴の音が大音量で部屋中に響き渡る。
ベルを鳴らした本人の彩があまりの音の大きさに頭を抱えていると、すぐにドアがノックされた。
「どーぞ!」
「失礼するよ」
制服姿のままの豊が部屋に入ってきた。
彩は寝ている体勢のまま強い口調で豊に言う。
「そこに座ってっ」
ばしばしと自分の右隣の畳を叩く。
豊が注文通りそこに座るのを見ると、彩は次にリンゴを指差した。
「食べさせてっ」
ほんの少しだけ豊は怪訝そうな顔をした。
しかし自分が理不尽な理由で腹を立てられていることに豊は不愉快な様子は微塵も見せない。
文句も言わずに爪楊枝でリンゴを刺すと、左手を添えながら彩の口元へと運んでいく。
「どうぞ」
「いただきますっ」
もしゃもしゃとリンゴに齧り付く彩の姿はあまり行儀がいいとは言えないが、見ていて微笑ましい様子ではあった。
リンゴを咀嚼しながら彩は豊に説教でもしているような口調でぼやき始めた。
「前々から思ってたんだけどっ。ゆー兄ちゃんは優しさが半端なの。……っ」
途中でリンゴを口に運ばれ台詞が途切れる。
「……んん。で、でね? 幼馴染、それも女の子が弱ってるっていうんだから横で手でも握ってくれててもいいと思っ」
またリンゴを口に運ばれて台詞が途切れる。
しかし普通は幼馴染で尚且つ女の子だからと言ってもそんなことはしないであろう。
だが、豊は別に何も言わない。
黙って次のリンゴを爪楊枝に刺すのみだ。
「……んっ。それにゆー兄ちゃんって夜に出かけること多いけど! いつも何してるの!?」
頭がぼやけているせいか、日ごろの不満をぶちまける彩。
さすがにそんなことまで言う義理はないはずの豊だが、律儀に答える。
「友達と遊んでるだけ」
「友達って誰! まさか向井さんとか佐藤さんとかと会ってるんぢゃ……」
熱と興奮のせいで彩は少々ろれつが怪しくなっている。
豊は根気良く対応を続ける。
「だいたいダーティと遊んでることが多いかな」
「だーてぃぃぃ?」
素直に答えた豊に彩は露骨に嫌そうな視線を向けた。
「あたしあの人きらーい」
何か悪そうだし、と口を尖らせる彩に豊は珍しく困った顔をした。
「嫌いなのは無理もないし悪い奴なのは確かなんだけどね」
しかし別にフォローはしなかった。
「まぁダーティのことはいいじゃないか」
それよりリンゴもっと食べなよ、と彩の口にまたまたリンゴを押し込む。
押し込まれた彩は仕方なく口を動かす。
飲み込んだ頃に豊が次のリンゴの準備をしているのを見て慌てて止めた。
「リンゴはもういいよっ」
「そうかい」
豊は言うと自分の口にリンゴを放り込んだ。
さっさと飲み込むと立ち上がった。
「じゃ、また何かあったら呼んで」
そう言って部屋を出ようとする豊。
その背中を見つめる彩。
(引き止めたいけどしつこい女だと思われるのもヤダしなぁ……)
さっきまで上がっていたテンションも何だか下がってしまった彩は悲しげに溜息をもらした。
仕方なく布団を被りなおして寝ようとすると畳の上に黒っぽい何かが落ちているのが目に入った。
手を伸ばして手にとってみれば、それは豊の生徒手帳だった。
何となく開いてみると写真が挟んであった。
非常に笑顔の美しい、髪の長い女の子が写っていた。
彩は一瞬黙り込んだが、すぐにピンときて叫んだ。
「あー!!」
今まさに部屋を出ようとドアノブに手をかけていた豊がゆっくりとした動作で振り向いた。
「どうしたの?」
彩はがばっと半身を起こす。
少々パジャマが着崩れているが、この場にそれを気にする人は誰もいない。
「これ! この写真!」
手帳を広げて豊に突きつける。
「井上さんのことまだ諦めてなかったの!?」
責めるような口調の彩に豊は天井を仰いだ。
「心機一転頑張るとか言ってたのに……」
豊は顔を下ろして彩の目を見つめた。
表情はあまり変わっていなかったが、疲れたような様子で豊は言った。
「彩さん……」
そっと彩に近寄っていく。
肩に手を当て、静かに彩を布団に倒す。
「僕はもう彼女のことは諦めてる」
押し倒されるような格好になっている彩は顔が熱くなってしまって何も言えない。
でも、と一度豊は言葉を切った。
「高嶺の花は見ていて飽きないだろ?」
そこで豊は軽く微笑んだ。
普段はあまり見せない、悪戯っぽい笑いだった。
見とれてしまって黙り込んでいる彩の頭を軽く撫でる豊。
「つまりそういうこと。いいからもう寝てな」
そう言って身を離し掛ける豊の腕を彩は掴む。
彩は一度大きく深呼吸すると真っ赤な顔で、しかし豊の瞳を見据えてはっきりと言った。
「でも……でもたまには足元の花も見て欲しいな」
告白、というわけではないが。
彩の精一杯の勇気だった。
豊は笑みを消すと真剣な表情で彩の視線を受け止める。
二人の間に沈黙が生まれる。
豊は言葉を捜しているのか、口を開かずに彩の瞳を見つめている。
彩はそんな豊の瞳から目を逸らさないまま。
(うわぁぁぁぁ。熱と勢いのせいで何だか際どいこと言っちゃったぁぁぁぁ。真剣に受け止められすぎて振られたらどうしよう……!
今のうちに笑って誤魔化して冗談にしちゃおうかな……!)
心の中で激しく絶叫と葛藤を繰り広げていた。
そんな彩の胸の内を知ってか知らずか。
豊は口を開きかけた。
「彩さん僕は……」
「どぉぉぉっだ! 調子のほうは!! 佐藤君が来たからちょっと様子見に来たぞ!!」
ドアが吹っ飛びかねない勢いで開き、大介がエプロンを着けたまま部屋に乱入してきた。
まるでデリカシーのない父親だが、今回ばかりは彩は父に感謝した。
見事空気をぶち壊した大介は彩に覆いかぶさる体勢になっている豊を見て、口元に下品な笑みを浮かべた。
「おお! すまんかったな! これからってときに!」
何かを勘違いしているようだった。
彩も豊もそれが分からないほど幼くないので、それぞれの反応を見せた。
「やだもうパパったら……」
内心かなりほっとしている彩は頬に手を当てて大げさに身をくねらせ。
豊はいつもの平坦な表情に戻ってさっさと身を起こす。
「じぇんとる君! 孫の顔を楽しみにしとるぞ!」
「分かりましたから店に戻りましょう。佐藤さんに任せっぱなしじゃ可哀想じゃないですか」
ガハガハと笑う大介の背中を押しながら豊も一緒に部屋を出て行こうとする。
さっきまでの微妙な空気はもはや微塵も残っていなかったので、彩は安心しながら布団の中に潜り込んだ。
(でも変な汗いっぱいかいちゃったからあとで着替えないと……)
そんなことを考えていると、部屋を出て行く際に豊がこちらを振り向いた。
「明日は学校行けるといいな」
にっこりと微笑む。
何の含みも感じられない、綺麗な笑顔だった。
彩はたまに見せるこの豊の笑顔が大好きなのだ。
なので彩も満面の笑みで布団の中から返事をした。
「――うんっ!」
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