警備ロボに確認を取らしてみたところ、その辺りを歩いていたサポートロボを捕まえて、どうも島内の電子図書館にいる模様。

何のためにあんな虫なんぞ捕まえたかは存じませんが、特に隠れる気もないらしいのでとりあえずわたくしが様子を見に行こうじゃありませんか。

水抜きしていない秋ごろのプールのように淀んだ顔をしているご主人はひとまずラボに待機して頂くことにしますかね。







「……なるほど……なるほど……なるほど……」

わたくしが電子図書館で発見したミオは、データベースから情報を引き出しまくっておいででした。

しかも回路を直接弄くって制御を乗っ取ったらしい虫を使って、何か手じかな材料で機械を作っては分解してを繰り返しておりました。

まぁこの島の施設内はまるごとご主人様のラボと言ってもいいですから?

わりとその辺に色んな機械やパーツが転がっておりますけども、それを使ってメカ作りとは生意気ですねぇ。

……いや、わたくしが掃除をしていないとかそういう話で今は宜しいのでございます。

とにかくこの夢中で工作している娘さんに声をかけてみるとしますかね。

もしもし、そちらのお嬢さん? 

そちらのデータベースはいちおう世界遺産扱いなのであまり情報を引き出さないで頂きたいのですが。

「ああ……それは、ごめんなさい」

作業の手を止めて、ゆぅるりとした動作で振り向いてくるミオ。

その拍子に豪奢な金髪がきらめく様がまた憎らしい。

むむむ、こういうがご主人様のタイプなのでございますね。

「私、さっき生まれたばかりなんだけど」

それは百も承知でございます。

「生まれたときから何だか頭の中に知識がいっぱいあるから……」

はぁ。

「……とりあえず実際に試してみようかなぁ、と」

左様でございますか。

「試してみないと納得できない、よね?」

知りませんよ。

とにかく一度ご主人様のところに戻りませんか? だだ凹みなさっているのですが。貴女のアナタのあなた様のせいで。

そもそも何故貴女はいきなりご主人様をど突き回したのでございますか?

「何か、変だな、と思ったから、かな?」

だからって暴行はご遠慮下さいまし。

「あの人……」

腕を組んで眉をひそめ、

「納得できない」

とか仰ってもどうでも良いことでございますよ。というか色々と納得できないのはわたくしの方でございます。

いいからご主人様のところに戻りましょう。

「何で?」

貴女はご主人様の創作物で、今のところ腹立だしいことにご主人様の最高傑作のご様子だからですよ。

見たところ相当な知識を貴女に与えているようでございますからね。

ご主人様は貴女を秘書や助手としても期待しているんでしょうよ。

……と、多少拗ねたような言い方になってしまいましたが、つまりはそういうことです。

わかって頂けましたか?

「なるほど」

こくんと頷き、

「納得」

それは結構。では戻ると致しましょうか。









ご主人様、ご主人様。

貴方の可愛いメイドロボが、貴方の愛しのミオを連れて帰ってきましたよ。

「……む」

わたくしの声に反応して、ラボでぐったりとなさっていたご主人様がよろよろとこちらに寄ってきます。

ちょっと腰が引けてるところが大変可愛らしゅうございますよ。

「うるせぇ」

「さっきはごめんなさい」

わたくしの後ろを無言で付いてきていたミオ。

ご主人様の前に立つなり、深々と頭を下げました。

何ですか素直ですね。もうちょっとゴネるならゴネれば宜しいのに。それはそれで腹が立ちますけど。

「い、いや。いいんだ。目が覚めたばっかりだったしな。きっと寝ぼけてたんだろ」

なーんですかー。自分で作ったクセに顔を真っ赤にしないで下さいよーぅ。

「寝ぼけてたというか」

すっとミオは両手を伸ばし、ご主人様のリンゴのようになっている頬を手のひらで挟み込む。

「な、何かな?」

「何だか、貴方が納得できなくて」

そう、ぺたぺたとご主人様の頬を触りながらミオは小首を傾げます。

……納得できないのはわたくしの方でございますよ。

もしわたくしが同じことをすれば絶対振り払われますのに。そもそも背も届きませんのに。

「納得できないって何が……」

「納得できない。けど、私を作ってくれたのは貴方、よね?」

ミオはじっとご主人様を見つめたまま。

「……おう」

何も言えないでいるご主人様から身を離し、再びぺこりと頭を下げて。

「これから、色々と、教えてね」

礼儀正しくご挨拶するのでした。

「よろしく、お願いします」

「……はい」

……はぁ。

そしてそんな二人の脇で特に何もできず見てるだけのわたくし。

ま、これから先も見ているだけのつもりはさらさらございませんがね。

メイドロボとして、わたくしは全力を出させて頂く所存でありますよ、とここでこっそり誓おうではありませんか。

そう、全力で。

というわけでご主人様ご主人様。

「何だよ」

うわ、何ですかそのあからさまに邪魔者を見るような目は。

ちょっと女の子と仲良く出来そうだからって調子乗らないで下さいまし。

「う、うるせぇ。調子なんか乗ってないっての。……で、何だよ」

お伝えするタイミングを逃してしまっていたのですが、実はわたくし。ご主人様にお誕生日のプレゼントを用意しておりまして。

……なんです? ぽかんとしか顔をなさって。

「……マジか?」

マジですとも。

「やっべ。素で嬉しいかもしれん……」

渡す前からそんなに喜ばないで下さいよ。こっちが照れてしまうではありませんか。

それではプレゼント、受け取って頂けますね?

「ああ。……って何故脱ぐ?」

ご主人様もそろそろ性欲真っ盛りのお年頃。

ならばわたくし、忠実なるメイドロボとしてこの身を捧げようと。

「だからお前にそういう機能はないだろ……。しかも外見ガキだし」

そう仰らずに。

ご主人様の秘蔵のデータを参考に、わたくしに備えられた機能で出来うる限りのご奉仕をば。

「結構だ。……どうしたミオ? こっちをじっと見て」

わたくしとご主人のやり取りを黙って見ていたミオはぽつりと呟く。

「貴方は幼い女児に性的奉仕させる趣味がある」

ぱん、と両手を当てて小さく頷いた。

「納得」

「いやいや納得しないでくれよ! これはこいつが勝手に言い出しただけなんだって!」

慌てふためくご主人様にミオは優しく微笑みます。

「大丈夫。貴方に超法規特権があるのは知ってる。何をやっても犯罪にはならない」

「ちーがーうー!」

わたくしはほくそ笑みながら服を再び着込みます。

うふふ、作戦成功でございますね。

ミオは何も気にしていないようですが、ご主人様の方がこれでちょっとした溝が出来たと勝手に勘違いなさることでしょう。

やはり多少障害がある方が愛は燃え上がるものでございますから。

我ながらナイスアシストでございます。

……いえ? 他意はございませんよ?

「違うんだ。俺はロリコンじゃなくて」

「大丈夫。納得してる」

「だからー……」

なーんてやり取りを背中に聞きつつ、わたくしはそろそろ夕食の支度を始めるとしましょうかね。

今日はご主人様もたくさん騒いでお腹も空いたことでしょう。

それに何よりお誕生日なのですから。ご馳走を用意しませんと。

……一応、ミオの歓迎の意味も込めて、ね。

というわけでこっそりとご主人様の作業台の上に本物のプレゼント、わたくしお手製のシルバーアクセサリーを置いてから。

そそくさと食堂に向かうと致しましょう。






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