第二章
物事は、時に予想もしない事態を招く。予め定められていたはずの事象がなぜか変わってしまったその時、あなたは疑うべきかもしれない。《改変者》の存在を・・・・・・
「やあ、フォードさん。こんにちは」
酒場を出て、トンプソンの行方を追おうと駆けるフォード。しかし、探すべき相手は既に目の前に存在した。
「どっから出てきやがった?さっきまでは居なかったはずだ」
「さあ?どうしてでしょうねぇ?」
低い声で、楽しそうに笑うトンプソン。その背後に控えるのは、護衛代わりのメタルギアRAYが8機。何時からいたのか分からないが、ご丁寧に完全武装している有様だ。
「ちっ・・・・・・厄介だな」
「新開発した護衛用のメタルギアです。ご希望ならREXも出しますが、どうですか?」
「結構だ。手前の首なら欲しいがな」
両手に銃把を握り、獰猛な笑みを見せるフォード。既に背後のメタルギアは眼中になく、狙うはトンプソンただ一人。
「やれやれ・・・・・・相変わらず好戦的ですね。私は無益な争いは好みません。金なら出しましょう、だから手を引いていただけませんか?」
「断る。こんなおいしい仕事、みすみす見過ごせるわけないだろう?」
そして、銃口はトンプソンへ。同時に背後のメタルギアが起動し、全ての機銃がフォードをロックした。
「じゃあ、しょうがないですね」
ゆっくりと手を挙げるトンプソン。時期は間もなくクリスマス。吐く息は白く、その思いは氷の如し。謳うように、彼は呟く。
「我に刃向かう者には死を。幾度の戦場を駆け抜け無敗、幾度の夜を切り抜け不敗、彼の名はフォード・ノックス。今ここに、我が手によって死を齎さん」
そして、ゆっくりと手を振り下ろす。その姿は神か、悪魔か。闇の世界の帝王となりし者は、今ここに裁きを下す。
「我が名は、ウィリアム・ヘル・トンプソン。今ここに失われる命に敬意を捧げ、ここに彼の者の死を宣言せり。さあ・・・・・・白き雪に抱かれ、その身に鉛を浴びて死ね」
「じょ、冗談じゃないわ・・・・・・」
「・・・・・・これが冗談に見えますか?」
同時刻。突如として現れたトンプソンを、草葉の影から観察する三人の姿があった。
いや、正確には三人ではない。ペシャンコに潰された上、現在は半身が分離中の超能力者、春光。火達磨になった末、現在は黒焦げ状態のライン。胴体に大口径の銃弾をめり込ませ、ピクピク痙攣している自称平和主義者、魅季。落とし穴で串刺しになったのを引き上げられてきた、remu。以上4名も一緒だが、半死人状態なので割愛させていただく。
というわけで、現在無事に生存しているのは響、玖亜、紅香の三人である。このうち不幸な何人かはフォードとともに特攻チームに送られる予定だったが、トンプソンの方から現れるという思いもしなかった事態により、こうして全員が観察に回ったわけである。
「しっかしあれよね・・・・・・特攻チームとか分類分けしといて結局こういう落ちになるのが作者の無計画振りを表してるわよね」
とか何とか、生意気なことを言う紅香。そんなことを言ってるので、全員を戦わせてやることにしたのは内緒である。
「え・・・・・・嘘っ!?何すんのよ、この外道!」
「あの紅香さん・・・・・・何言ってるんですか?っていうかそんな大声出したら気づかれますって・・・・・・」
が、しかし。もう遅かったりする。
《新タニ生体反応。数・・・・・・7》
「・・・・・・げ」
大声に気づいたのか、振り返るメタルギア。機銃の銃口がこちらを向き、正確にロックした。
「ヤバイですね・・・・・・どうしますか?」
笑みを引きつらせながら、尋ねる響。彼女には使える武器は殆どなく、唯一の武器といえばスコップくらいなものである。さすがにスコップでメタルギアに挑もうとは思わないらしい。
「決まってるじゃないですか。戦いましょう」
手にハルバートを持ち、黒い服装に身を包んだ玖亜。確かに、彼のスピードならメタルギアにも対抗できるかもしれないが・・・・・・
「やるしかないのかな・・・・・・やっぱり」
RPGを構えながら、紅香。しかし、この人数で相手をすると一人二体以上・・・・・・流石にキツイと思われた時。
「逃げるしかないのなら・・・・・・やるしかないのでしょう?加勢・・・・・・しますよ」
ゆっくりと立ち上がったのは、いつの間にか復活していた春光。薙刀を構え、半身状態でありながらも目は闘志に輝いている。
「これで4人か・・・・・・やるしかないですよね、やっぱり・・・・・・」
諦めたように、呟く響。彼女はスコップを、玖亜はハルバートを、春光は薙刀を、紅香はRPGを。
「じゃあ、一人二体って事でお願いします・・・・・・さあ、行きますよ!」
そして、4人は駆け出した。相手は、地上最強の機械兵器、メタルギア。
同時刻、酒場店内。
「あー、Weekend in my roomってここであってます?」
そこは、無機物の刀が修復する店内。偶然か、はたまた故意か、山伏のような三十代前半の男が一人、迷い込んでいた。
「ええ、そうですよ。いらっしゃいませ・・・・・・といいたいところですが。現在少々立て込んでまして、少しばかりお時間をいただけますか?」
「え・・・・・・はい。じゃあ、失礼しますね」
そういって、店内の自動販売機で野菜ジュースを買うと、カウンターに座って飲み始める新顔の客であった。
その姿を眺めながら、マスターはカウンターの奥から一冊の本とペンを取り出す。そして、大事そうにそれを抱えると、ゆっくりと酒場から出て行くのであった。
「フォードさん、トンプソンさん・・・・・・一つだけ教えてあげましょう。この世界における全ての物語は、私の支配下にあるということを」
白い雪の降る、真っ黒な空。何もかも吸い込んでしまうような黒い空を見上げ、マスターは静かに、呟いた。
「私はマスター。全ての物語を、我が支配下に・・・・・・」
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