飲み逃げ伝説 第二部
本来、ひとつの事象に対する選択肢はひとつでない。先に進むまでには幾つもの選択肢があり、様々な未来へと進む可能性がある。
しかし、物事には有り得ない可能性というのも存在する。本来有り得ない選択肢、もしそれが選択されたならば・・・・・・
誰かに、物語を改変させられてる?まあ、そんな可能性も捨てきれないだろうな。最も、そんな奴を見つけたときはタタじゃ済まさないが。
《フォード・ノックスの手記》
「・・・・・・ふぅ、やれやれですね」
途中まで手を振り下ろしたまま、トンプソンはため息をついた。命令を下すべきメタルギアは全機が紅香達のほうに向かっており、残るは彼一人。
「ハッ。大言吐いといて結局全機いなくなるとはな。とんだ笑い話だ」
銃口を向けたまま、さもおかしそうに笑うフォード。しかし、トンプソンはそんな光景に怒るでもなく、ただ哀れみを込めた目で見つめた。
「ええ。とんだ笑い話ですが、これであなたにとって最悪のシナリオになりました。これで、あなたは私と戦わなければならなくなった」
「で、俺は敢え無く殺される・・・・・・そう言いたいのか?」
「ご名答」
同時に、トンプソンの両手に銃が出現する。銃口は、まっすぐフォードの元へ。
「全く・・・・・・懐かしいもんだ。前にも、こうやってあんたに銃を向けられたことがあったな」
「ええ、そうでしたね。私のシマに入り込んで勝手に武器売買をしていた鼠・・・・・・逃げ足が速くて追いかけるのに苦労しましたよ」
「窮鼠猫を噛む、って諺知ってるか?今からあんたが体験することだ。よく覚えておけよ?」
「口だけは相変わらず達者なことですね・・・・・・そろそろ時間です、いい加減始めませんか?」
「いつでも来いよ、おっさん」
戦いの準備が整い・・・・・・その言葉が終わると同時に、4つの銃口は火を噴いた。
「ククク・・・・・・機械の化け物か。面白い、面白いよ全く!」
月夜の下に、舞う影一つ。黒き衣を纏いし死神、そこにあり。
「はぁぁっ!」
全長10メートルはあろうかというメタルギア。その頭部から発射される二挺の重機関銃が、玖亜に向けて放たれる。一発でも身体に浴びれば、人間など粉々に吹き飛ぶだろうが――しかし。
裂帛の叫び声とともに、空へと飛び上がる玖亜。一瞬遅れて、地面に向けて銃弾が放たれる。虚しく地面をえぐる銃弾を尻目に、玖亜はメタルギアの目の前に。メタルギアが顔を向ける前に、そのハルバートが唸る。
「何だ・・・・・・遅いな。アンタじゃ、せいぜい豚殺しが精一杯だよ」
飛び上がり、肩に乗って一振り。折りたたんだ翼にも見える鋼鉄の腕が、ただ一振りで切り落とされる。続けて、もう一振り。
たったそれだけで、Rayは崩れ落ちる。安定翼である両手を失い、ゆっくりと前のめりに倒れていく。
その光景に、勝利を確信する玖亜。そのまま、地面に降り、次のRayに向かおうとした、刹那。
「え?」
死ぬ間際の、最後の悪あがきか。Rayから発射され、炸裂するミサイル。周囲を覆う爆炎が、彼の姿を跡形もなく消し去ったのだった。
「何でこんなに硬いのよ・・・・・・コノッ!」
再装填、そして発射。しかし、機械の弱点である間接部分を狙った攻撃すらも、Rayの装甲を貫くことは出来なかった。RPGを持ち、一番楽に戦えそうな紅香。しかし、彼女自身ここまで苦戦を強いられるとは、思っても見なかったのだ。
「ヤバイですね・・・・・・何処かに遮蔽物はありませんか?そろそろ、力も限界が・・・・・・うっ!」
怨パワーと呼ばれる超能力を使い、銃弾を防ぐ春光。飛来するミサイルを薙刀で切り払い、怨パワー障壁を張り巡らせて銃弾を防ぐ。しかし、絶え間なく繰り出される銃弾の雨を相手にしては、どうやらその力が尽きる方が先のようである。
「こんな通りで遮蔽物なんかあるわけ無いじゃない・・・・・・ああもう、どうすれば・・・・・・」
鈍い音とともに、障壁が一気にへこむ。力を放出する春光の顔にも焦りが見え始め、障壁は次々とへこんでいく。
「一か八かです。機銃だけでも何とか潰すので、その間逃げていてください」
「え!?無理無理無理・・・・・・」
「では、ご武運を」
叫ぶ紅香を無視し、障壁を展開したまま走る春光。銃弾の洗礼はますます酷くなり、障壁はますます抉られていく。
「後5発、4、3、2、1・・・・・・力場、消滅」
消滅する障壁。同時に、急激に量を増す銃弾。
「さて・・・・・・本気を出しますか」
左手に、薙刀を。そして、右手に刀を。酒場の復旧を終えた刀を呼び寄せたおかげで、彼は全ての力を目の前に集中できるのである。
加速――同時に刀を振り、銃弾を切り裂く。一発、二発、三発、四発、五発・・・・・・中央から真っ二つに切り裂かれた銃弾は左右に分かれ、春光の脇を音速で通過。力を失い、地面に落ちていく。
金属と金属が高速でぶつかり合い、火花を上げながら散っていく。銃弾を切り裂き、春光はRayの目の前へ。
「これで・・・・・・」
『オワリダ』
突如、機械音声を発するRay。驚いた春光が一瞬動きを止めた瞬間、メタルギアの口内が青く光る。
「な――」
薙刀を放し、両手で刀を構える春光。超高密度に圧縮された水圧カッターが、その体を押しつぶそうと唸りを挙げて飛び出したその時――獄炎が、迸る。
「屠れ・・・・・・そして焼き払え、焔花!」
一瞬にして蒸発する水圧。唖然とした春光が見た先にいるのは、ライン。そして、傍らに焔花。
「今日は焔花も機嫌がいいみたいですね・・・・・・お手伝いしますよ、春光さん」
残り、6体。
「いや・・・・・・ねえ」
「どうなってるんですかね、これ・・・・・・」
同時期、元死骸置き場。そこには、復活した魅季とremuが4機のRayに包囲されていた。
片や、学生にしてスリである男、remu。もう一人は、こそ泥として活躍中の魅季。remuは武器無し、魅季はスコップのみ。機銃とミサイル、水圧カッターで武装するRayと戦うにはあまりにも非力だ。
「どうしましょう・・・・・・魅季さん」
「逃げるわけには、行かないですよねぇ・・・・・・しょうがない。やったりますか!」
「ええええ!?冗談でしょう!?」
「こっちが冗談のつもりでも、あっちは本気ですよ」
ゆっくりと、機銃の銃口がこちらを向く。身構えるremuと魅季。
瞬間、8つの銃口から吐き出される銃弾。銃弾が地面を二人、音速で二人に振り注ぐ。
「ああ、今度こそ・・・・・・」
ダメかもしれない。
「くそっ・・・・・・相変わらずちょこまかと動くなぁ、トンプソン!」
二発、四発、六発、八発、十発、十二発。銃弾は十二発、銃声は6発分。一瞬にして全弾を撃ち切ったフォードは、直ぐに物陰に身を隠す。
直後、数倍になって飛来する弾丸。銃弾が壁を抉り、額から冷や汗が垂れる。
「鼠はそっちでしょう、フォード公?」
通りの反対側で叫びながら、マシンピストルのマガジンを交換するトンプソン。お互いが銃を打ち合っている状況では、僅かな動きも致命的。先ほどからお互い接近できずに、こうして撃ち合うしかないのであった。
「後ろに回りこんで奇襲するか・・・・・・・?」
いや、ダメだ。トンプソンのこと、それくらいは確実に予期しているだろう。地雷か爆弾か・・・・・・何が待ち受けていることやら。
「正面から撃ち合いか・・・・・・畜生」
トンプソンの持つ銃は、新型の自動拳銃。装填されている銃弾は、合計40発。対して、こちらのリボルバーは合わせて12発。ファイアパワーが圧倒的に足りない。
「あーあ、どうしたもんかなぁ・・・・・・」
至近距離で、一発だけ。一発当てれば、この銃の威力ならば十分だ。
・・・・・・やるしか、ないか。
再び、トンプソンから吐き出される銃弾。それが途切れた瞬間を狙い、一気に物陰から飛び出すフォード。
だが――しかし。目の前に飛び込んできた思いもしない光景に、飛び出したフォードは、そしてマガジンを交換していたトンプソンは、一瞬その動きを停止させた。
「いい夜ですね、お二人方」
「・・・・・・マスター?」
銃を構えたまま、疑問の言葉を投げかけるフォード。何故、マスターはここにいるのか。
その答えは、本人が出してくれた。
「少々暴れすぎですよ、あなた方は・・・・・・お仕置きです」
にっこりと笑ったまま、本を取り出すマスター。訳が分からないといった表情の二人が見守る中、マスターはゆっくりとペンを走らせる。
《二人はおもむろに銃口を自分に向ける。そして、その引き金を引くのである・・・・・・自らの胸に向けたまま》
「え?」
同時に、響く銃声。視線を下に向けたフォードは、自分の手が、そして銃口が自分の胸に向けられているのを見た。銃口からは硝煙がもれ、そして胸からはどくどくと血が溢れ出している。
「なん・・・・・・で・・・・・・?」
呟くと同時に、足から力が抜ける。同時に、視線はトンプソンへ。彼も同様に崩れ落ち、信じられないといった顔でマスターを見上げる。
「マスター・・・・・・何を・・・・・・」
その言葉に答えず、ただ冷たい目で見下ろすマスター。やがて空からは雪が降り注ぎ、倒れた二人の側にゆっくりと積もってゆくのであった・・・・・・。
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