「んじゃ、行きますか?」と、春光が言う。

「了解です」とは響。

「うぃ」と、remu。

「いつでも構いませんよ〜」と、ラインが呟く。

「武者震いがしてきました」にやりと笑って玖亜が言った。

「うくっ…OKです」ワイルドターキー(ウイスキー)を一気に飲み干して魅季が言う。

「絶対成功!」

「「「「「「オーッ!!!」」」」」」

酒場のはじっこで円陣を組んで叫ぶ6人。

どう見ても変人の集まりな、シュールな画であった。





酒場のサイドストーリー
〜飲み逃げろ、生き残れ〜
その2




「まずはアケミさんをどうにか…」

「ですね…」

今日も店内中央に陣取って元気に毒針を飛ばす悪夢の生物兵器、アケミさん二世。

ちなみに一世は常連の一人のミスから爆弾を落し穴の底で浴びてウェルダンなステーキにされたため、マスターの自宅で静かに力を蓄えていると専らの噂である。

閑話休題。



とりあえずはシイタケ臭のするカウンターの中に篭って様子を伺う6人。

その中で、ラインが自信ありげに言った。

「俺が行きます」

「ラインさん…解りました、任せましたよ」と春光。

「頑張って、ラインさん」玖亜がガッツポーズをとる。

「武器持ってないのに…まあ大丈夫ですかね」とは魅季。

「風呂に入れば再生するらしいですからねぇ。大丈夫でしょう彼は」響が言った。

「いってらっしゃいませー」remuが手を振った。



ざっ。

「…さあ、勝負だアケミさん二世っ!」

ラインはびっ、とサボテンに人差し指を突きつける。

が、しかし。

シュシュシュシュシュ!

「うわっうわわわっ!」

アケミさん二世は無言のまま針をラインに向けて撃ちまくった。

急いで手近なテーブルの陰に隠れるライン。

「…大丈夫なんでしょうか?」

「まあ、瞬殺されなかっただけ良しとしましょう…」

「いや…彼、なにか手を持っているようですよ?」

玖亜の言葉に、えっ、と、一斉にカウンターから顔をのぞかせる一同。

見ると。

「はぁぁぁ…出でよ、六又狐っ!!」

ラインが、何か…こう、よく分からない術でよく分からない怪物を召喚していた。

ずしん、と、燃え滾る足で酒場に降り立つ、六又狐を。



店内の気温計はこの時セ氏35度を記録したという。なに気に微妙だ。



天井に頭がつくほどに巨大な敵の出現に、アケミさん2世は明らかに怯えたような様子を見せている。

「行け…奴を屠るのだっ!」

「何か、ラインさん…口調が変わってます」と、響が冷静につっこんだ。

そして、六又狐は雄叫びをあげて空気を肺一杯に吸い込み、一気に―――放った。

ゴォッ!!

ものすごい音がして、床を火炎が駆け抜けて。

後には…誘爆して盛大に爆炎を上げる地雷と、無残に消し炭となったアケミさん二世だけが残ったのであった。

「す、すごい…」

「アケミさん二世ばかりか、地雷までも処理するとは…」

「やりますね、ラインさんっ!」

順に春光、魅季、玖亜。 

口々に発せられるメンバーからの賞賛の声に、しかし応える声は無かった。

「よし、よくやった…って、え?こら、もういいんだ、帰っ」

ゴォォォッ!!

強烈な火炎がラインを呑み込んだ。

「・・・。」響は声も出ない。

「…どうしましょう」と、remu。

「コントロールできなかった…というところでしょうか?」と、玖亜。 

「おー暴れてる暴れてる…」汗を拭き拭き、魅季が言った。

見ると、六又狐が、店で屯していた常連達を…まあ、見るも無残な光景に変えていっている所だった。

「…さあ、次は誰が行きます?」

重苦しい沈黙と、シイタケ及び人が焦げた匂いの中、響が口を開いた。



と、それに対しては無言のまま、玖亜がすっと立ち上がった。

「…玖亜さん、まさか…?」

「・・・。」玖亜はまだ何も言わない。

「玖亜さん?」春光が心配そうに彼を見上げる。

「…く、くくくっ……」玖亜が懐に手を入れつつ、笑い始めた。

「…え?ち、ちょっと玖っ…」

「待っていたんです…こんな相手を!!」

静寂。

玖亜の気迫は、まさに武人のそれであった。

そして周囲の人間は、それに呑まれた様に静かになった。



玖亜は続ける。

「そう、フォードさんの様に強すぎて歯が立たない程でもなく、かといって倒し甲斐のない雑魚どもとも違う。丁度いい強さの敵!まさに至高の相手!」



「…た、大変だ―――!!玖亜さんが、玖亜さんが壊れた―――っ!!」



否。

武人にはちょっと程遠かった。



「アーッハッハッハ!さあ勝負だ化物!」

懐に手を入れたまま、不敵に笑いながら六又狐に向かって行く玖亜。

まるで無防備な状態の彼に、怪物の焔が襲い掛かる。

「あ、危ない玖亜さ―――ん!!」

し ゅ っ 。

しかし、次の瞬間には玖亜は、その地点には居なくなっていて、その速さは、まるで――。

「…フォードさん…?いや、まさか、それ以上かも…」

誰かが呟いた。

そう、その時の彼は、この店最強のバーテンダーと見まごう程の速さだったのだ。

「こっちだ、化物」

気がつけば六又狐の頭上に浮いている玖亜。

六又狐がそちらに向き直った時には、彼の放った12本の木刀が、その柔らかい背中に刺さってしまっていた。

ギャアアアア、と怒りの咆哮を上げる六又狐。

しかしそれにも容赦せず玖亜は、

「唸れ…我がハルバート」

この店に通うようになってから扱い始めたとはとても思えないほどに、愛用の槍を強力に振り回し始めた。

対峙する2人の周りには一種のエネルギー力場が展開され、他の者たちが立ち入ることはできないように思われる。



「…どうしましょう」と、春光。

「…とりあえず、私達にはどうすることもできないのでは…?」それに答えてremuが言った。

「というか玖亜さん、ひょっとして本気でフォードさんと戦えば結構互角なんじゃ…?いつもはボロ負けしてますけど」魅季が口を開く。

「精神的に苦手なのかもしれませんよ。なにしろ彼はバーテンダーですから」響が独り言のように言った。

「それもよく分かりませんが…」しばらくしてから、春光が言った。




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