普段は人気のまったくない、自然公園の奥の林の中で。

人影が二つ、対峙していた。

二人とも少々変わった出で立ちである。

片方の男は、肌を一切露出しておらず、フードを深く被ったその顔を見ることはできない。

ばりばりと破裂音を響かせて、両腕に雷光を纏わせていた。

もう片方の少年も、また別の意味で変わっている。

肩の上には子猫を乗せ、胸元のポケットにはシャーペンが一本。

腰には美しい装飾が施された日本刀を差している、アロハシャツ姿。

何を目的にしている格好なのかまるでわからない。







二人はしばらくの間、無言で互いを見詰め合っていたが。

「……アンタも異能者カ」

フードを被った男、ライデンが口を開いた。

「まぁね」

それにアロハシャツの少年、ツクモガタリは即答する。

「何を使うんダ?」

興味深そうにライデンは問う。

純粋な好奇心から来ているその質問に、軽い調子でツクモガタリは答えた。

「使うっていうか何と言うか。まぁこんな感じ」

言いながらシャーペンを胸元から引き抜き、後ろに放り投げる。

それが何かの合図だったのか、肩の上に乗っていた子猫も飛び降りた。

投げられたシャーペンと猫が、一瞬光に包まれる。

「……ナ!?」

驚愕するライデン。

無理もないことであろう。

何故ならシャーペンと猫は、輝きに包まれたかと思った次の瞬間、少女の姿に変わってしまったからだ。

「ヒメちゃんたちを頼む」

ツクモガタリは振り向かないまま、少女たちに指示を出す。

子猫から変化したくりくりとした瞳の少女は、びしりと敬礼でそれに答えた。

「お任せ下さいなのにゃあ!」

やる気まんまんな様子である。

「任されたけど……」

一方、シャーペンから変化した鋭い目つきの少女はあまり気が乗らないようだった。

「……気を付けなさいよ」

どうも少年のことを心配しているらしい。

ツクモガタリはそれに片手をひらひらと掲げて答えた。

元シャーペンはまだ不安な顔を見せていたが、猫娘と共にヒメたちを抱えると林の奥へと消えていった。

「な、何なんダ。今のハ」

「世の中広いよなって話だよ」

先ほどから驚きっぱなしのライデンに、ツクモガタリは説明してやるつもりはまるで無いようであった。

「それより、俺はそろそろお前の技が見たいかなぁ」

何となく楽しげな様子で、ツクモガタリはとんとんと爪先で地面を叩く。

すると、まるで波が引くように周囲に生えている草が、木々が、花々が。

「……何てこっタ」

ツクモガタリを中心に遠ざかっていき、辺り一面、草一本ない荒野になってしまった。

「さぁ、舞台は整ったぜぃ」

唖然としているライデンにツクモガタリは語りかける。

「周りのナマモノには避難してもらった。ちょっとくらい暴れても大丈夫だ」

「つくづく何者なんだヨ。お前ハ」

くつくつと笑いを噛み殺しながら、ライデンは腕に纏わせた雷光の輝きを強める。

もうその声に戸惑いはない。

驚きに驚かされた彼だったが。

「お前は最高だナ?」

もはやそれが楽しみに変わっていた。

ツクモガタリの底がまるで読めない。

武道を嗜んでいる気配はないが、全身にみなぎる自信は恐ろしいものがある。

それに、まるでライデンを恐れている様子がない。

そのことが、ライデンには何よりも嬉しかった。

対峙しているツクモガタリは、先ほどから口の中でぼそぼそと小さく言葉を紡いでいたが、それを止めると。

「お前も、案外悪い奴でもなさそうだ」

こんなことを言い出した。

何を言っているのか、とライデンが怪訝に思っているのを尻目に少年は続ける。

「いや、お前がただの悪人なら」

やれやれと肩をすくめる。

「戦うまでもなく、終わってたんだよ」

ライデンにはツクモガタリの言葉の意味はわからなかった。

しかし、ライデンは彼と戦ってみたいし、少年もなかなか満更でもなさそうだ。

「そうかイ。でもオレはお前とこんなことが出来て……幸せだヨ!!」

叫びながら、ライデンは両腕をツクモガタリに突きつける。



それが合図になった。





ツクモガタリは、ついっと指揮を執るような仕草で右手を掲げる。

すると足元の砂利がさぁぁぁぁっと、それに合わせて集まり、高々と盛り上がり。

「頼む」

掲げた腕を、振り下ろす。

足元が抉れるほどの量の砂利が竜巻のごとく渦巻いて、ツクモガタリを完全に覆い尽くしてしまう。

「喰らエッ!」

そこに、ライデンの電撃が炸裂する。

放たれた雷光は砂利の嵐に遮られ、ツクモガタリにまで届いた様子はない。

「ハッハッハァッ! そんなこともできんのカ!? 次はそいつを飛ばしてでもくれるのカ!?」

攻撃を防がれたライデンは嬉しげな声でツクモガタリに問いかける。

「公園内での騒ぎは早く収まってほしいけど、そこまでは手伝いたくないってさ」

砂利の嵐の向こうから、残念そうな声が返ってきた。

「ハハッ。意味わかんねぇっつーノ!!」

ライデンは続けざまに雷撃を放ちながら、竜巻に向かって突進していく。

接近して直接叩き込むつもりらしい。

迷わずに突き進んでいったライデンだが、竜巻の中に不自然な輝きを感じた。

違和感を感じた彼は、軽く横にステップを踏み軌道を変える。

砂利に突き立つ大太刀小太刀。

じゃりっと音を立てて、先ほどまでライデンが居た場所に日本刀が一組、突き刺さる。

「投げてどーすんだヨ、投げてヨォ!」

気にせず駆け出そうとしたライデンの脇で、怪しい光が瞬いた。

思わず足を止めてしまう。

まさか、と思いながら振り向くとそこには。

「確かにの。投げられるのはあまり気分は良くないの」

一人の女性が笑みを浮かべて立っていた。

先ほどの少女たちより少々年上の面立ちの、着流しを着た美しい女性。

少女の面影を残しつつも、大人の女の色気を感じさせる流し目をライデンに送る。

「で、どこまでやっていいのかの」

ファミレスに行って、何円以内のメニューなら頼んでいいのか確認しているような口調だ。

竜巻の中にいて、今は影しか見えないツクモガタリは一言のみで答える。

「どこまでも」

その言葉に、女性は瞳を輝かせながら跳躍すると、竜巻とライデンの間に立ちふさがった。

「というわけでの。お前の相手はワシじゃ」

「姉ちゃんヨ。オレはアイツを戦いたいんだガ」

「何を言うか。ワシはお前の放つ雷撃のようなもの。ワシと戦うことはツクモガタリと戦うのと同じ」

「……なるほドォ?」

何となくツクモガタリの戦い方がわかってきたライデンは、戦う姿勢をとる。

「つまり姉ちゃんみたいな使い魔を全部倒せば、オレの勝ちってことだナ」

「使い魔ではない。妖刀と呼べぃ」

言いながら女性……妖刀は大きく両腕を広げる。

「――抜ッ刀!!」

掛け声に合わせて両手から怪しい光が生まれた。

右手に大太刀、左手に小太刀。

左右の手には美麗な抜き身の日本刀が現れていた。

「……格好いいナ」

思わず呟いてしまいながらも、ライデンは腕に雷光を貯めていく。

「じゃろ? でもツクモガタリは全然褒めてくれんからのぅ」

気軽な掛け合いから、戦いの火蓋は切って落とされた。





掛け声もあげずに、無言のまま妖刀は駆ける。

不自然な速さで接近してくる彼女から距離を取るために、ライデンも同じく異様な速度で足を動かす。

大きく踏み込み、豪速で振り下ろされる大太刀を身を捻ってかわすライデン。

カウンターとして放たれた雷撃を、小太刀で切り払う妖刀。

人間離れした動きで斬撃を避けられる者と、そもそも生き物ではないので雷撃があまり効かない物。

二人の戦いはなかなか切りが無いものだった。





「当たらんのぅ! ぴょんぴょん跳び回りおってからにー」

少し苛付いた様子で、妖刀は刀を振るう。

それをぎりぎり避けながら、ライデンは楽しそうに言い返す。

「電撃あんまり効かないヤツに言われたくねぇヨ! ったく、アンタを倒すには火力が足りないナァ!」

続けざまに二、三発ほど雷光を放つ。

最初はそれを切り払っていた妖刀だが、もう面倒になってきたのか避けようともしない。

身体の表面からぶすぶすと薄い煙を吹きつつ、ひたすら剣を振るってくる。

「全ッ然効かないのナ!?」

「あーたーらーぬー!」

ぶんぶんと両手の刀を振り回し、妖刀はムキになってきているようだ。

付け入る隙はそこにありそうだ、と思いつつ、顔面に迫る横薙ぎの一撃を頭を下げて避ける。

「――なんてなっ!」

「……ゲ」

視界一杯に、妖刀の足が広がっていた。

今の斬撃はフェイントだったらしい。

「はぁっ!!」

思いっきり顔面を蹴り飛ばす。

首から上が無くなりそうな衝撃をもろに喰らい、ライデンは大きく吹き飛ばされる。

普通の人間なら即死であろう一撃だったが、軽々と空中で回転し、悠々と足から着地した。

だが、首があらぬ方向に曲がっている。

「ククク……」

ライデンは楽しげな笑いを噛み殺しながら、無事な左腕で曲がった右腕を無理矢理引き戻す。

続いてひん曲がった首を元の位置に直すと、きっぱりと言い切った。

「アンタにゃ勝てんナ」

「ふん。さすがのワシも今のお前に勝ってもあまり嬉しくはないんでの。さっさと終わらさせてもらうぞ」

不満げな様子の妖刀は、両手を交差させ、低い構えを取る。

そろそろ決着をつけてしまうつもりらしい。

「もしかして正体バレてるカ?」

妖刀の態度に、ライデンは急に決まり悪げな様子になる。

「バレてないとでも思ってか、馬鹿にするでない」

鼻を鳴らしながら、妖刀はさらに身を深く沈めていく。

「そうカ……。じゃあオレも本気出すカ」

言いながら、ふと空を仰ぐ。

先ほどまで晴れていた空を、暗澹とした黒い雲が覆い始めていた。

「天気も悪くなってきたことだし、ナ」

そう言うとライデンは、妖刀とは対照的に全身から力を抜いた。

両手をだらりと垂らし、完全に脱力している。

しかし、妖刀はそれを見てさらに四肢に力を込めていく。

「……やばいな。先生、早めに仕留めるんだ」

「了解だの……!」

今まで黙って戦いを眺めていたツクモガタリまでが口を開いた。

彼にはライデンが何をする気か、だいたい見当が付いているらしい。

ぼんやりと妖刀を眺めているライデン。

それから視線を外し、地を睨みつける妖刀。

全身を弓のように引き絞り、叫ぶ。

「――突ッ撃ィ!!」

地面を抉り飛ばすような勢いで踏み込むと、妖刀は己の影に向かって突入した。

水に沈むように、闇の中へ消え失せる。

「ム?」

気の抜けたライデンの声。

突然視界から消えたので驚いているようだ。

急いで首を巡らし、姿を探そうとした瞬間。

ばぢぢぢ! と耳障りな音が辺りに響き渡る。

その音と共に、ライデンの身体は切り裂かれていた。

右手の大太刀で股から右肩にかけてを完全に両断され、左の小太刀で首を刎ねられる。

「くはー。どれだけ力を込めとったんじゃ。さすがに痺れたの……!」

身体を分断され、地に散らばったライデンの代わりにそこにあるのは妖刀の姿。

自分の影に潜った後、ライデンの足元の影から直接現れ、真下から切り裂いたのだった。

もう剣術を使えないことを認めた妖刀の、力押しの技である。

「びっくりしたゼー。テレポート斬りかヨ」

転がっているライデンの首が笑う。

断面からは血は流れておらず、そこに見えるのはただの太い針金の束。

胴体の方も同じだ。

だぼついた服の包まれていたライデンの身体は、針金で組み上げられたものだったである。

そしてその断面で、ばぢばぢと耳障りな音を立てて雷光が爆ぜていた。

「針金の束に電気を込めまくって、それを遠隔操作」

とんでないよな、と竜巻を解除しつつツクモガタリは肩を竦める。

「でも針金にここまで電気は溜まらんじゃろ。どうなっとるのかの」

妖刀はライデンの頭を剣先で突付く。

「こいつは『電気のような何か』を操ってるからな。その辺の常識は通じないだろ」

「良く分かってるじゃねぇカ」

首だけになりながらもライデンはまだまだ楽しそうだ。

そもそも本体は別の場所に居るので身の危険はないし、気楽なものである。

「電気の声なら聞けるからなー」

「……もしかしてオレの正体最初っからバレてタ?」

無言で頷くツクモガタリ。

「や。正直言えば切り結ぶまでワシはちょっと分からんかったの」

と、妖刀。

「それはちっとばかし格好悪ぃナ。早めに言って置けばよかっタ」

妖刀に突付き転がせられながら、ライデンは呵呵と笑う。

フートがめくれ、そこからケータイがごろごろと幾つか出てきた。

これのテレビ電話機能を使い、視界を確保していたらしい。

「よくこんな視界で戦えてたな」

「その分、胴体にもたくさん仕込んでおいたからナ。視点の多さでカバーしたゼ」

ケータイの一つを手にとって、ツクモガタリは耳に当てる。

「で、ケータイには影響ないように『電気』を流してたんだと。どれだけ細かく操れるんだよ」

「修行の成果ダ。ただまぁおかげで腕からしか雷撃が撃てなかったがナ」

「お前とは仲良くなれると思うんだけどなぁ」

ため息交じりにツクモガタリは呟く。

「奇遇だナ。オレもお前とは気が合いそうな……そんな気がするぜ」

電子音を使うのを止め、ライデンもそれに同意した。

「……俺の名前を教えておこう」

ツクモガタリはそう言うと、電話の先の相手に名を名乗った。

「オレも名乗っておく」

ライデンも同じように名前を伝えてきた。

一瞬、黙り込む二人。

そしてほぼ同時に互いの名を呼んだ。

その光景を見て目を丸くする妖刀。

「おおおお! すごい、俺の名前呼べる人間は初めてだよ!」

「オレなんか名前呼ばれたこと自体初体験だっつの!」

ほぉぉ、と妖刀は感心しきった様子で吐息を漏らす。

「ツクモガタリの名を呼べるとはのぉ。ということはツクモガタリとライデンは同格か?」



ケータイを通して楽しげに談笑する二人。

まるで昔からの知り合いのように、仲の良い友達のように語り合う。

しばらくの間、二人はそうやって会話を楽しんでいた。



しかしそれもやがて終わり。

「あはは。……さて、そろそろやるか」

「だな。じゃあこっちからいくぜ?」

ふと会話を切り上げると、ツクモガタリはケータイを投げ捨てた。

「さぁ、覚悟を決めろ」

ケータイに向かって言い放つと、妖刀に向かって手招きをする。

「よ? なんだの?」

「先生、逃げないとやばい。来るぞ」

言いながらツクモガタリは天を仰ぎ、ぶつぶつと何事か呟きながらケータイから距離を取っていく。

まるで呪文を唱えているかのような仕草だ。

妖刀は事情はわからないままに、とりあえずツクモガタリの言うままにその場から離れる。

「一つ一つケータイを潰してる暇はもうないし、ライデンももう準備は出来てるだろうからな……!」

戦いのために生まれた荒野の端まで来ると、ツクモガタリは大きく腕を掲げた。

砂利の嵐を作り上げた時のように、ついっと彼は指揮を執る。

するとそれに合わせて、遥か上空に浮かぶ黒雲を光が切り裂いた。

「頼む……ぜ!」

声と共に、腕を振り下ろす。

「……むお!?」

一瞬、辺りが光に照らされ、その眩しさに思わず目を閉じる妖刀先生。

それに続いて轟音が鳴り響く。

「お、おおお」

腹の底に響くような音。

ツクモガタリは雷を呼び寄せたのだ。

荒野の中心辺り、ライデンの針金人形の残骸が散らばっていた場所。

ちょうどそこに雷は落ちた。

そこの辺りの地面は黒く焼け、ぶすぶすと煙を立てている。

ケータイや針金などは木っ端微塵に壊れ、熱で溶けてしまっていた。

「なぜこのようなことを? ケータイどもが不憫ではないか」

目の前の光景に眉をひそめる妖刀。

同じモノとして、あまり無下に扱われている様子は見てて気分の良いものではない。

「あいつらはライデンのモノとして最後まで仕事したい、って言ってたよ」

「ふむ?」

「すぐに壊したから大丈夫とは思うが……まだ不安だな。もっと離れよう」

「どこに行くんだの」

ツクモガタリは妖刀の手を牽いて、先ほど雷を落とした地点からさらに距離をとっていく。

事情がわからない妖刀は後ろを振り向きつつ、戸惑っている。

少し歩いたところで、ふと背後がぱっと明るくなった。

「なんじゃ?」

「――伏せろ!」

後ろの様子を見ようとした妖刀をツクモガタリが押し倒す。

それと同時に、辺り一帯が光に包まれた。

目を開けていれば、眼球が焼かれてしまいそうな程の眩さ。

衝撃が、背後から襲ってきた。

「……おおおお!?」

「くぅ……」

続いて、先ほどの落雷の比ではない轟音が響き渡る。

鼓膜が破れそうな痛みにツクモガタリは顔をしかめる。

妖刀には鼓膜はないのでそれは大丈夫だが、突然のことに目を白黒させていた。

吹き飛ばされた二人は、ごろごろと回転しながら何とか受身を取る。

「あたたた……」

「何事……な、何事だの!?」

やれやれといった様子で立ち上がり振り返った妖刀が、背後の光景を見て素っ頓狂な声を上げた。

先ほどまでの戦場だった荒地が、そっくりそのままクレーターと化していた。

深く抉られた地面の表面は熱で溶けて、ガラス状になってしまっている。

もう少し逃げるのが遅かったら、と妖刀は身を奮わせた。

「妖刀先生とかあんなの喰らったら蒸発してたよな、金属製だし」

「何なんじゃアレは……」

「ライデンの遠距離攻撃だな。ケータイのGPS機能を利用して大体の位置を掴んで」

ツクモガタリはばっと両腕を広げてみせる。

「どーん! と大雑把にぶっとい光線撃ってきたんだ。見ろアレを」

言いながら空を指す。

妖刀がその方向に顔を向けると、黒々とした雲に大穴が空いていた。

ここまで来ると驚きを通り越して呆れすら感じてくる妖刀。

「とんでもないの」

「だな」

何故かにやにやしているツクモガタリを妖刀は横目で見る。

「なーんか嬉しそうだのー」

「え? ああ、まぁな」

あっさりと認めた。

「でもちょっと大雑把すぎるよな。関係ない人巻き込んだらどうするつもりだったんだか……」

しみじみと目を閉じていたツクモガタリだったが、やがてため息を一つ吐いて伸びをする。

「さて。そろそろヒメちゃんたちを迎えに行くとするにしますかね」

「うんむ」

てくてくと妖刀と並んで林の奥に向かって歩いていく。

「これに懲りてもう少し気をつけて能力使ってくれるといいんだけどな」

「個人的には行くとこまで行って欲しいがのぉ」

「それはかなり大変だからなー。有効に活用しようなんて考えないのが一番だと思うんだが……」

などと話すツクモガタリは、何か嫌なことでも思い出したか、妙に渋い表情を浮かべていた。









後日。

とある人気のない喫茶店にて、異能者同盟のメンバーは集合していた。

「今日は前回の反省会の日やでー……」

「おー……」

「おーッス……」

ぐったりとした様子で頷くモリくん。

今回は、メンバー全員のテンションが非常に低かった。

「こないだはエライ目にあったなー。おっちゃんはしばらく吐き気とか大変だったわ」

「同じくッス。気分悪かったッスよー」

こくこくとモリくんも同意する。

「私はミっちゃんにちょっと怒られた……」

無闇に能力をひけらかすと酷い目に合う、ということについて少し説教されたヒメであった。

「結局あの後どうなったんやろなぁ。クレーターとか出来ててビビったけども」

フユさんは目が覚めた時のことを思い出す。

見知らぬ女子高生たちに介抱されたかと思いきや、すぐに彼女らはどこか消え。

助けてくれた『ミっちゃん』とやらの姿ももう無かった。

ふらつく身体を引きずって辺りの様子を確認すると、大穴が出来ていた。

「どういう戦いしたんやろなぁ。恐ろしいコやで……」

「手も足も出なかった身としてはあんまり考えたくないッスよー」

テーブルに突っ伏すホムラバシリ。

自分たちをあっさりと叩きのめしたライデンを追い払ったのだ。

素人の彼女にはどうやったのかまるで想像ができない。

「詳しいことはミっちゃん話してくれなかった。ていうかライデンには手を出すなって」

「そうかー」

「その代わり多分もう異能者同盟にはちょっかいかけてこないだろうから、とは言ってた」

それだけはまぁ、安心だよねと目の前のジュースを啜るヒメ。

モリくんはもうこの話題には興味がないのか、ケーキのメニューをじっくり眺めている。

「しかしアレやな。これからどーする?」

ふと真面目な顔になり、フユは口を開いた。

「異能者にも物騒なヤツがおるワケやし、今後のことちょっと考えた方がええやろ」

渋い顔でホムラも同意する。

「そッスね。また今回みたいなことがあったらやってらんねぇッスからね」

「電話で面接しよっか? また新しい人来たら」

「ヒメちゃん、あんまり懲りてないッスねぇ……」

嬉々として意見を出すヒメにホムラは少し呆れた様子だ。

「じっくり考えたけど、やっぱり勿体無いもん。せっかくのチカラ、使わないと」

ぐっ! と拳を固め、ヒメは立ち上がる。

「前はヘタレちゃったけど、けど! 私はがんばりたい!」

「そうは言うけどな。危ないこともあるんやで」

「だからこそっ」

顔を引き締め、フユに向き直る。

「私はライデンみたいな人は許せないもん! ……ぎゃふんと言わせてやるー!」

「ぎゃふんて……」

「ぎゃふんッスか……」

そしてモリくんは何も言ってくれない。

「修行してでも強くなってやるんだーっ」

立ち上がり、一人気合を入れるヒメ。

それを複雑な表情で見守るフユとホムラ。

モリだけは何を考えているのか良く分からないが、何故だかぱちぱちと拍手をしてくれた。

「私はやるよー!」

その誓いが本当のものになるかどうかはまだ誰にもわからないが、今だけはどこまでも本気なヒメであった。








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