十二月二日
「気持ちはわかるけどなぁ」

(だろ? わかるだろ?)

「う、ううむ」

(なら押してくれ。ぐぐっと! ほれ! さあ!)

「いやしかし……そういうワケにもいかんだろ」

(もう我慢できないんだよ! フィーバーしたいんだよ俺は!)

「俺も押してみたいけど……けど!」



「さっきから見てたら、非常ベルの前で何で拳固めてるの? そろそろ授業始まっちゃうよ」


十二月二日
(あははははは!)



(ぐぅぅぅ)

(目が……回るぅぅぅ)

(ひょわぁぁぁ)



(あはっ、あははっ! あーはっはっはっはっは!)



(……)

(まだ終わらないのぉぉ?)

(ひゅえぇぇぇ)



「ちょっ、洗濯機。もう十分だって……」

(あひゃひゃひゃひゃひゃ!)

「洗濯機ー!?」


十二月八日
「いやー。参った参った」

「ねぇ、何で体育の先生にあんなに長い間捕まってたの?」

「今からでも野球部入らんか、だと。とんでもないよな」

「そうかな? さっきの授業見てたけど、守備も投球も凄かったじゃない」

「あー」

「ソフトボール部の子が感心してたよ。速さの緩急だけで三振獲るのは凄いとかって」

「うーん」

「あと守備。自分のところに来た球は全部獲ってたし」

「まーねぇ」

「打撃の方はイマイチみたいだったけど……。それだって練習すれば」

「まぁ俺はスポーツとか興味ないから」

「そっかぁ。なら仕方ないね」

「仕方ない仕方ない」





(いやー旦那のおかげであまり痛い目に合わずに助かったよ)

「いえいえ。お前さんが自力で速度調節したり、グローブに飛び込んだりと頑張ったからだよ」

(しかしバットの野郎、調子に乗りやがって……。殴られる身にもなれと言いたい)

「あいつも仕事熱心だからなぁ。でもグローブは優しいよな?」

(あの子は良い……。いつも優しく受け止めてくれて。癒し系ってああいうタイプのことを言うんだろうな)

「ヘルメットは?」

(あいつもバッターによく投げられて不憫だよなー)


十二月十日
「ばりばりっとな。……ふぅ。今年もあとちょっとだなぁ」

(つまり私の命もあと僅か、ということね……)

「日めくりカレンダー……」

(全て剥がされたとき、私の命も散ってしまう……)

「……一年間、世話になったな」

(貴方の近くだとお喋りできたし楽しかったわ……)

「日めくり……」

(来年のカレンダーにも優しくしてあげてね?)

「ああ、もちろんだ」

(それなら悔いはないわ……)

「そうか。……あ」

(?)

「うっかり三日分も剥がしちまってた」

(ちょ、ちょっとちょっと!?)


十二月十一日
「なぁ風紀委員の早坂小雪よ」

「なんだいっ」

「お前さ、男子らの間で噂されてんの知ってる?」

「ええっ。何だよっ」

「門前払いの小雪。……黙ってりゃ可愛いのに口開くとダメだよなー、だと」

「しっ失礼だなっ。この風紀委員の早坂小雪、頑張って仕事してるだけだよっ」

「でもお前ヘンな子だからなぁ。木刀振り回すし、喋り方ヘンだし」

「喋り方はクセッ。木刀は……別に意味は無いけどさっ。だいたいキミだって十分ヘンだっ」

「えー。俺は普通だろ」

「文芸部員の間じゃ結構ウワサされてるぞっ。よく独り言してるし、鍵とか何故か開けれるしっ」

「失敬だなぁ」

「まぁまぁ二人とも。お互いのそういうところも個性ってことで、ね?」

「……」

「……」

「な、何で二人ともそんな私の顔見るの?」

「いかに俺らがヘンだとしても委員長には……」

「敵わないよっ……」

「「ねー」」

「そ、そこでいきなり仲良くなるのは何故? あと私には敵わないってどういうこと? ……め、目を逸らさないでぇ」


十二月十ニ日
「ふぁぁぁ……」

(ちょっと。寝るならちゃんと布団で寝なさいよ?)

「わかってるよシャーペン……」

(言いながら寝ようとするんじゃないの! ほら! シャキっとする!)

(そうでやんすよ、旦那。ご自愛くだせぇ)

「……ん」

(ってアンタは働き蟻ac…えっと)

「働き蟻6894じゃないか。こんなトコに居てて大丈夫なのか」

(……よく見分けつくわね)

(へへへ。巣の中でじっとしてるのも暇なもんで。ただこの部屋に来る途中は死ぬかと思ったでやんすが)

「無茶するなぁ。まぁクッキーの欠片でもどうだ」

(かたじけねぇ。ありがたく頂きやす)

(これが目当てだったくせに)

(ヘヘっ。バレてやしたか)

「今夜はもう泊まってけ。朝になったら巣まで運んでやるよ。それじゃ。……ぐー」

(だから布団で寝なさいって!)


十二月十三日
「面白い番組やってないなぁ。テレビくん、チャンネル変えて」

(はいはい)

「この局もイマイチか。もういいや。電源切っちゃって」

(はいはい)



(よよよ……)

「……何で泣いてんのリモコンさん」

(この家にいると私の仕事がないよぅ……)

「あー……すまんすまん。ついついテレビくんに直接頼んじゃうんだよ」

(電池も古いまま入れ替えてくれないし……)

「あれ、切れてたのか」

(使わないからそんなことにも気付かないのよぅ……)

「悪かった悪かった。明日は電池も買ってくるから!」









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