八月十七日

「新連載ということで自己紹介でも。16歳の高2だ。で、俺にはちょっとした特技があって……」

(オレ、こいつの部屋の机! あんまり使われてないけどヨロシクゥ!)

(私のこの人に愛用されてるシャーぺンよ。この人のことなら何でも知ってるの。……や、変な意味じゃないわよ?)

(あっしは近所に住んでる働き蟻でやんす。旦那にはいつも世話になって……)

「……という感じで蟻んこから路傍の石ころまで、何とでも会話できるのだ。すんげぇ生きにくい」


八月二十日

「あっ、また折れた」

(またぁ!? あんた力入れすぎなのよ。加減ってものを覚えなさい、加減を!)

「だって単調な英語の単語の書き取りだぜ? ついつい力も入れすぎるってもんだよ」

(人がせっかく忠告してやってるんだから素直に聞きなさいよ)

「お前は人じゃなくてシャーペンだろうが」

(……何よ! その言い方! もう知らないんだから!)

「し、芯が出ない。……分かったよ、俺が悪かったよ。カンベンしてくれよ」

(……ホントに反省した?)

「したした。もうシャーペンの言うことには逆らいません」

(ふふん。じゃあマッサージでもしてもらおうかしら?)

「へいへい。……もみもみっと」

(……って!? ど、どこ触ってんのよ!)

「グリップ握っただけじゃねぇか!」


八月二十一日

(旦那旦那、見てくだせぇ! ……野郎ども行くぞ! ……ほっ! 十段櫓!)

「なぁ」

(……ナスカの地上絵!)

「なぁって」

(ラインダンス!)

「なぁ、蟻んこたちよ」

(つ、次は……)

「芸なんかやらなくてもクッキーの一枚くらい分けてやるって」

(かたじけねぇ、旦那! こんなハシた芸でご馳走頂いちまって)

「いいから大群で部屋まで上がってこないでくれよ。お袋に見つかったら確実に駆除されるぞ」

(今度、姉御が旦那をぜひ屋敷に招待したいと……)

「話を聞け。そしてそのお誘いは丁重にお断りさせて頂くっ」


八月二十三日

(いいか坊主。男は馬鹿な生き物だ。そして馬鹿にならなきゃあいかん。勝ち負けなんてどうでもいいんだ。
自分のやれるようにやるだけだ。そうすればきっとどこかの誰かが、お前のことを認めてくれるさ)

(わかったよ、師匠!)



「どうしたの? いきなりぼーっと立ち止まっちゃって」

「いや……あのチワワ良いこと言うなぁ、と思って。弟子らしきブルドックも素直な奴だし」

「……何言ってるの?」

「何でもないよ委員長」


八月二十五日

「この問題の答えは何だろ?」

「ちゃんと自分でやらなきゃ駄目よぅ」

「……あーそうか。じゃあコレは?」

「?」

「……ふんふん、サンキュー!」

「あ、あれ? 私まだ何も質問に答えてないよ? 何でいきなり宿題すらすら解けてるの?」

「ちゃんと訊いたから大丈夫だって。まったく教えるの上手だなぁ……委員長の眼鏡」

「え、えええ?!」


八月三十日

(いやぁぁ!? 母さん! 母さぁぁん!)

(私はどうなってもかまわん! 子供たちだけは! 子供たちだけは助けてくれ……!)

(……この悪魔! よくも母さんを! あんたなんか地獄に堕ちてしまえばいいのよ!)

「……いただきます」



「ど、どうかな?」

「……委員長の焼いたクッキーは美味しいなぁ」

「そう? ……あはは。ま、まだまだいっぱいあるからたくさん食べてね」

「……おーう」


九月二日

「あ! またキミかっ。新学期早々遅刻してぇ! もう校内には入れないぞっ」

「おはよう! 君ってば相変わらず綺麗だな。久しぶりに顔が見れて嬉しいよ」

「なななな何を馬鹿なことを!?」

「いやお世辞じゃないって。君は俺が見た中じゃかなりの美人だと思うぜ? 夏休みの間はあまり会えなくて寂しかったな」

「そ、そうかな? お世辞でも嬉しいし私も久々に会えて…って! この風紀委員の早坂小雪!
そんな歯の浮くような台詞ではここは開けな……って勝手に門が開いたぁ!?」

「サンキューな! 放課後にでもお礼に磨いてやるぜ!」

「ま、待てぇぇ!」

九月四日

「話し合おうじゃないか、な?」

(黙らんかコラァ!? こちとらシマ荒らされてトサカにキてんだよ!?)

(テメェはすっこんでろや!? ワシらが用があるのはそこのアマじゃけんのぉ!)

(おうよ! オレらに水を引っ掛けるたぁイイ度胸だべ!?)

「働き蜂のダンナ方の言い分は分かる。でもこの娘は花に水やってただけなんだって」

(知るかコラァ! 羽が湿っちまったじぇねーかよ!)

(刺す! 刺しまくる!)

(それこそ蜂の巣にしたらぁ!)

「……良いことを教えよう。ミツバチって一回何か刺したら死んじゃうだぞ」

(((……マジか?)))

「超マジ」

(……やっべ! 知らなかったっつーの! やっべ!)

(しょーもないことで逝っちまうとこだったな!?)

(いやアンタ、命の恩人だわ)

「いえいえ。ダンナ方もお仕事頑張って」

(((おうよー!!)))



「さ、委員長。蜂はもうどっか行ったぞ。いつまでも頭抱えてないで」

「……ホントだ。ど、どうやって追い払ったの?」

「いや、やっぱ何でも話せば分かってくれるもんだって。委員長も今度試してみたら?」

「無茶言わないでよぅ」

九月六日

「なぁなぁ、委員長。今の問題ちょっと分かんなかったんだけど……」

「も、もうちょっと小さな声で、ね? ……えっとソレは」

「そこぉ! 何喋っとるかぁ! 喰らえチョーク投げぃ!」

(ギャー!?)

「きゃあ!?」

「おいでおいで。……ほいキャッチと」

(あ、危ねー! あの馬鹿教師めオイラを殺す気か!)

「お、俺のチョークを受け止めただと!?」

「今凄い軌道でチョークが曲がったような……」









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