「おじゃましまーす」

「ま、誰もいないけどね。上がって上がって」


明日から土日で連休なのでヒロミの家に泊まりに来たマコ。

白木家の両親は二人とも仕事で出張、ノボルは合宿で不在、ヒカルは今日は飲み会で遅くなる
ということ。お泊りには絶好のコンディションと言えよう。


「何かヒロミと遊ぶのも久しぶりな感じ。合コン以来?」

「いやーバイトが忙しくって」

「何でそんなバイトしてるの?何か欲しいものでもあるとか」

「別にないけど。働くこと自体が趣味って感じかしら」

「ふーん、わーかほりっくってヤツ?」

「うーん・・・」

リビングでだらだらと話す二人。ヒロミはこうやってゆっくりするのは珍しいので穏やかな顔を
している。しばらく二人でゲームをしたりテレビを見たりしていたが、夜も更けてきてやることが
無くなってきた頃、マコが急にいいことを思いついたという様子でにヒロミに言ってきた。

「ねぇねぇヒロミ。ノボルくんの部屋見せてくんない?同じ年の男の部屋って入ったことなくてさ」

「えー・・・。勝手に部屋に入れたらノっくん怒ら・・・ないか、別に。まぁいいよ」

一瞬迷う素振りをしただけであっさりOKしたヒロミはマコをノボルの部屋に案内する。

「ここがノっくんの部屋ね」

「おぉー、これが男の部屋かー・・・」

感慨深げに部屋を見渡すマコ。

「殺風景ねー!」

「ノっくんは水泳以外は無趣味な人だから・・・」

見事なくらいに何もない部屋であった。水泳でとったのであろうトロフィーが適当に並べられている
他はベットなどの生活用品しかない。マコは本棚を覗いてみたが水泳雑誌以外は漫画すらなかった。

「あ、でもこういうとこにえっちぃ本とかあったりして・・・」

マコは妙に嬉しそうにベットの下をまさぐるが、出てくるものはホコリばかり。

「・・・つまんない」

「何を期待してたのよ・・・」

ヒロミは呆れ顔だ。

「じゃあ、次!ヒカルさんの部屋見てみたい!」

「兄さんの部屋?あんまりオススメできないけど・・・まぁいいか」


「・・・ここが兄さんの部屋」

「へー、何かネズミックランドのヌイグルミがいっぱいあるわね」

「兄さんネズミックランドの大ファンだから。年間パス持ってるし」

「それは筋金入りね。・・・さってと。えっちぃ本はないかなっと」

嬉々としてベットの下などを探り始めるマコ。

「マコ、さっきから何なのよ・・・。そんなにそれ系の本が見たいの?」

「いや、ただ単に人が隠しているものを探るのが大好きなだけ」

「まぁ素敵な趣味だこと」

「でしょ?さって何か無いかなー」

「うちの家では秘密なんかお互い持たないから多分何も出ないと思うわ」

断言するヒロミ。

「な、仲良いのね・・・」

「ええ、最低でも私は兄さんには秘密なんか何一つ無いわ。兄さんだって私には何でも明け透けに
いってくれるし。ノっくんは・・・秘密なんか作るような人生は送ってないわ」

「・・・」

言いのけるヒロミに少し引いてしまうマコ。こんな強い口調で語るヒロミは珍しい。

「というわけで。えっちぃのならそこの棚に綺麗に並べてあるわよ」

び、と手近の棚を指すヒロミ。

どれどれ、とマコが見てみるとそこにはきちんと整理されたビデオの群れがあった。

「うわー、普通に並べてるから全然わからなかったわ・・・え、これ全部?」

「全部よ」

「・・・ヒカルさんって嫌になるくらい明け透けなのね」

「それが兄さんの美点で欠点ね」

「はー・・・しかし、これ全部かぁ。うーん」

ヒカルのコレクションの量に感心してしまうマコ。

「もういいでしょ、出るわよ」

「はいはい」


「たっだいま〜っとぉ♪」


玄関から馬鹿に陽気な声が響いてきた。ヒカルが帰ってきたようだった。

「おや〜?誰か来てるのかなぁ〜♪」

ヒカルとマコが玄関にいくと、締まりのない顔をしたヒカルがベタなことに寿司をお土産に持って
苦労しながら靴を脱いでいた。

「もぅ、兄さんそんなに酔っ払って。木下さんに襲われたらどうするのよ」

そんなヒカルにヒロミは呆れながら近づいて荷物などを受け取る。

「ヒカルさん、お邪魔してまーす」

「おーう、・・・えーとぉ?・・・そうそうマっちゃんだっけ?」

「そうです、今日はお泊りに来てるんですよ」

「そうなの〜。ゆっくりしていってねぇ〜」

「兄さん晩御飯は?」

「いらな〜い。風呂入って寝る〜」

ヒカルはふらふらしながら自分の部屋に向っていった。

「ヒカルさんって酔っ払って歩いてたら補導されちゃいそうな感じよね」

マコはヒカルの後ろ姿を眺めながら失礼なことを言う。

「警察の人にはよく声は掛けられるみたいよ。こんな夜中にうろついてちゃ駄目じゃないか!とか」

「やっぱり・・・」

「だから兄さんは身分証明できるものは、いつも持ち歩くことにしてるみたい」

「気の毒に」

二十歳なのに可哀相だと本気で哀れむマコであった。


リニングでだらだらと深夜番組を見ていると、オカマバー特集をやっている番組があった。

「へー、最近のオカマってレベル高いのね」

「並の女よりは自分に投資してるし。ある意味では当然かもしれないわね」

感心する二人。

「ところでヒカルさんって何もしなくてもオカマバーで指名ナンバー1になれそうよね。
すっごい可愛いし」

「・・・兄さん去年1ヶ月だけホステスのバイトしてたわ。収入いいからって」

「オカマバーどころかホステス!よくバレ・・・、バレなさそうね。ヒカルさんなら」

「バレなかったけど男にベタベタ触られるのは気持ち悪いって辞めちゃったわ」

「ふー♪さっぱり〜」

ヒカルが風呂から出てきた。タオルを肩にかけて、まだ明らかに酔っ払っていて踊るような足取りだ。

「に、兄さん!裸で出てきちゃ駄目でしょ!?マコもいるのに!」

「い〜じゃん」

「ヒ、ヒカルさん・・・」

マコはヒカルの裸体に釘付けになった。普段は後ろでちょろんと結んだ髪は解かれ、さらさらと肩に
かかっている。小振りだが形のいい乳房、すらりとした腰・・・。

「やっぱり女の人だったんですか!」

何故か凄く嬉しそうにマコは叫んだ。隣りでヒロミはあちゃー、という顔をしている。

「違うよー。男だよー」

ヒカルはへらへらと笑いながら否定した。

「胸膨らんでるじゃないですか!」

「んー、それはそうなんだけど。下半身見てみ」

び!と親指で自分の下半身を指すヒカル。マコは怪訝な顔をしながらも視線を下ろし、仰天した。

「な、何かついてる!」

「何かっていうか男性器ね。小さすぎて役には立たないんだけどさ」

「兄さんはね・・・。真性半陰陽って体質なの」

ヒロミが淡々と説明を始めた。

「男性でも女性でもある身体で、兄さんの場合はとくに珍しい身体で・・・」

「子供を産ませることも産むことも出来るんだよん」

ヒカルは自慢げな様子だ。

「男性器はほとんど体内に入っちゃってるから精子取り出すのは大変なんだけどね」

「はぁ〜」

マコはどういう反応をしていいか戸惑っていたが、ふと気になってヒカルに尋ねた。

「え、でも見た目ほとんど女の子じゃないですか。だ、男性器もよく見ないとわからないし
何で男として暮らしてるんですか?」

「赤ちゃんのときは男に見えたから男に育てられたの。だんだん胸とか膨らんできたけど・・・。
そんな急に女になれないじゃん?だから男でいいかなって」

肩をすくめるヒカル。

「まぁホルモンの関係で陰毛が生えないのが悲しいんだけど他に別に困ることはないからいいの」

「ご覧の通り、兄さんは明るく生きてるわよ・・・」

「ぼくは幸せですよん♪」

今だ全裸のまま何故かポーズを決めるヒカルにマコを背中にぞくっとくるものを感じた。

普段のヒカルは男の仕草をしているせいか分かりにくいが・・・。

ヒカルは物凄く美人なような気がする。

うっとりとヒカルを眺めてしまっているマコの耳元でヒロミは囁いた。

「両性具有者。性的分化の異常で起きる特異体質。相反する要素が体内で拮抗しているために、
早死に至る例が多いという究極の性的奇形」

「・・・!」

「しかし。その抱えた宿命の故か、両性具有者は魔的なまでに美しいという・・・」

「冷えてきたからそろそろ寝る〜♪おやすみぃ」

魔的なまでに美しいとか言われている本人は、へらへら笑いながら部屋に戻っていってしまった。

「ヒカルさん・・・可愛いぃ・・・!」

「マコ・・・」

ヒカルに悶えるマコの肩をぐっ、とヒロミは掴んだ。

「な、なに?」

妙な迫力を感じる。漫画的に言うならば背中に炎を背負ってる感じだ。

「今日のことは他言無用とは言わないわ・・・。でも」

「で、でも?」

「木下さんにだけは言わないで・・・!あの人にバレたら大変なことに・・・!」

マコは合コンのときのゴンゾウの様子を思い出した。確かにヒカルのことを普通の男だと

思っている今でもあの勢いなのに、両性具有ということが分かったら・・・さらに遠慮が
なくなるだろう。

「わかるわね・・・?」

マコの肩を掴むヒロミの手に力が入る。

「わ、わかるわ。言わない、言わないって」

ヒロミに脅されなくてもヒロミの気持ちは十分わかる。あのヒカルがゴンゾウに汚されるのは
忍びない。

「ていうか誰にも言わないわ。私の胸の中にしまっておく!」

「マコ・・・!」

堅く手を握り合う二人。後にお泊りの誓いを言われる同盟の誕生であった。



「でもヒカルさん可愛かったなー。今度ネズミックランドに誘っちゃおうかしら」

「兄さんに手を出したら食べられちゃうわよ?」

「え?」

「あのビデオの量見たでしょ?兄さんってえろえろよ?」

「・・・ヒカルさんは観賞用ってわけか」

「そうそう、見るだけにしときなさい」




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