「ヒカルー、帰りに喫茶店でお茶してかねぇ?」

授業も終わり、ざわついている教室にてゴンゾウはいつものようにしつこくヒカルに



アプローチしていた。 「行かない」

ヒカルもいつものように素っ気無い。

「この辺に新しく出来た喫茶店知ってるか?」

「カンロ・ザ・スウィートか?脳に来る甘さと一週間食事抜きでもバランス取れないと

言われる高カロリーが売りの?」

「・・・詳しいな。そこ行こうぜ、奢るからさ」

他の飲食店ならともかく甘党の党首を名乗れるほど甘いもの好きなヒカルとしては、この誘いは

魅力的だ。何しろカンロ・ザ・スウィートは一品一品が結構なお値段だからだ。

「んー。それなら行ってもいいかな」

「ひゃっほう!デートだデート!」

拳を突き出し歓喜するゴンゾウ。ヒカルとしてはデートという表現は勘弁願いたいが、

奢ってくれるのだから大目にみて、傍観していると後ろから声をかけられた。

「白木、今から女子高生と合コンあるんだけど行かね?メンバー一人足りんのよ」

名も無きクラスメートだった。

「行く。超行く」

即答するヒカルにゴンゾウは慌てる。

「ちょっ!今からオレとデート行くんじゃなかったのか!?」

「食欲より性欲ぅ♪」

名も無きクラスメートと肩を組んでヒカルは教室から小躍りしながら出て行く。

「オレがちゃんと性欲も満たしてやるから!」

追いすがるゴンゾウの顔面にヒカルは無言で懐からコショウ入れを取り出し、中身をふり掛けた。

「ぐわぁぁぁ」

のたうち回るゴンゾウ。名も無きクラスメートはヒカルの行為に戦慄した。

「コショウかけるなんてヒデェやつだな・・・!」

「コショウじゃなくて乾燥剤」

「鬼かお前は!」

「うそ。ただの砂糖」

今のやり取りを聞いて転がっていたゴンゾウは立ち上がる。

「あー、びびった。落ち着いてみたら目もどこも別に痛くないじゃねぇか」

「それはともかく。ぼくは合コン行くんでお茶はまたの機会にね」

「オレも合コン行く!ヒカルに悪い虫が付かないようにせねば」

名も無きクラスメートは申し訳なさそうに言った。

「あー悪い、人数がもういっぱいでな」

ゴンゾウは名も無きクラスメートを殴り飛ばした。

「解・決」

慌てて駆け寄るヒカル。

「大丈夫か!しっかり!」

返事が無い。ただの屍のようだ。

ヒカルは名も無き屍の身体を調べた。ヒカルは合コンの会場のメモを手に入れた。

「おし。じゃあ行こうか」

「くれぐれも女子高生になんか浮気すんなよー」

「うるさいよ」

あとには名も無き屍だけが残された。



一方その頃。とある高校にて。


白木ヒロミが帰り支度をしていると、親友のマコが興奮気味に話し掛けてきた。

「ヒロミ!聞いて聞いて!大学生との合コンのセッティングができたの!」

「へぇー」

「ヒロミも行こっ!人数一人足りないから丁度いいわ」

「いや私はバイトがあるからいいわ」

ヒロミの机を殴打するマコ。

「男が出来るチャンスとバイトのどっちが大事なの!?」

「え?バイト・・・」

ヒロミの胸座を掴み上げるマコ。ヒロミは携帯電話を取り出しバイト先に電話する。

「やむを得ない事情が出来まして。今日はお休みさせていただきます」

「それでいいのよ」


会場の居酒屋にはすでに他のメンバーが揃っていた。男の一人がヒカルに尋ねる。

「あれ?あいつは?白木誘うっていってから連絡ないんだけど知らね?」

「彼は急用が出来たからこれないってさ」

いけしゃあしゃあとヒカル。

「で、こいつが代理ね」

「よろしく」

びし、と片手を上げるゴンゾウ。メンバーたちは露骨に嫌な顔をする。

「えぇー、お前美形だからなぁ。せっかくの女子高生獲られちまうじゃねぇか」

「大丈夫。オレはヒカルにしか興味ないから。ただの数合わせだ」

ヒカルの肩を抱いてゴンゾウは真顔で言い放つ。

「で、ぼくは木下には興味ないから。こいつは路傍の石だとでも思ってて」

ヒカルはゴンゾウの手を抓りながら言った。

「そういうことなら・・・まぁいいか」


会場の居酒屋の前で集合したヒロミたちのメンバーの一人が中を覗いてきて、報告してきた。

「すっごい格好いい人いたよ!背も足もすらっとしてて!」

「えー、あたしも見てこようっと」

少しして戻ってくる少女A。

「いたいた!でも何か可愛い女の子といちゃついてたよ?髪の毛後ろでちょろんと結んだ

背の小さい子だった。目も大きいし肌綺麗だったし反則だわ、あの子」

「いいから早くお店に入ろうよ」

さっさと終わらして帰りたいヒロミは皆を急かす。

「それもそうね、いこいこ!」

マコはもうノリノリだ。


「「えー!男の人なんですか!?」」

「ホントよく言われるけどね。こう見えても男の子なのデスヨ」

ヒカルは早速女子高生らに囲まれてオモチャにされていた。

「すごーい。髪とかサラサラだわ」

「肌も凄いすべすべ」

「八重歯かわいー」

「わははは。くすぐったいよ」

べたべたと触られまくっているヒカルをゴンゾウはハンカチを噛み締めながら見つめていた。

「羨ましすぎるぜ女子高生・・・!」

「木下さんは彼女いないんですかぁ?」

ゴンゾウにも女の子たちは群がっているのだが、ゴンゾウはまるで相手にしていない。

「ねぇー木下さーん」

「そいつは放っておいて俺らと話そうぜ」

「もー・・・。そうですね」

残りの男達は内心、作戦が成功したと喜んでいた。オモチャにされやすいが異性としては見られない

ヒカルを会話のきっかけにし、テンポ良く女の子たちと親しくなるというものだ。

ゴンゾウが来たのが計算外だが、ヤツはホモだ。さして問題あるまい。

そんな様子をヒロミは冷めた目で眺めていたが、ふいにヒカルに声をかけた。

「ねぇ兄さん。あんまりはしゃぐと見っとも無いわよ?もう大人なんだから」

「・・・ヒロミ、いたの?」

「ずっといるわよ。まったく兄さんオモチャにされて楽しいの?」

この会話には周りが驚いた。

「えー!姉妹だったの!?」

「姉妹じゃないよ、兄妹ね兄妹」

「白木って妹いたんだな。可愛いってこと以外似てないけど」

「オレは知ってたぞ!気付いてたし!ちゃんと挨拶もした!」

ゴンゾウが手を上げて発言するが特に意味はないので誰も相手にしない。

「ヒロミー、こんな可愛いお兄さんだと嫉妬しちゃうことない?」

「服の貸し合いとかできるわねっ」

「白木、妹さんのが大人っぽいな」

「色気では負けてるから頑張れよ、白木」

一気に場が盛り上がった。しかし蚊帳の外に出され気味なゴンゾウはイマイチ面白くない。

そこでゴンゾウは厨房に行ってリンゴを何個か貰ってくると大声を上げた。

「木下ゴンゾウ!突然ですが一発芸!ふん!」

そういうとゴンゾウは両手に一個ずつ持ったリンゴを握り潰した。

「「おおおーーー!」」

やんやんやとさらに場が盛り上がる。ゴンゾウが満足気に手を拭いていると、ヒカルがリンゴ片手に

立ち上がった。

「白木ヒカル!一発芸いきます!・・・ぱくっ」

と、リンゴを丸ごと口の中に入れた。場が静まり返る。

「もぐもぐもぐ・・・。ぺっ」

ヒカルは皿の上にリンゴの芯を吐き出す。

「どーだ!」

「兄さん。みんな引いちゃってるわよ」

「あれ?おかしいな」

「お、お兄さん凄いですね・・・」

「つーか、今どうやってあの口にリンゴを入れたんだ?」

別の意味で騒然となる場。それから先は今の不可解な現象を議論する場になってしまった。

「きっと顎の間接を一瞬外したんだよ」

「いや!そんな様子はなかったわ。あれは多分手品よ」

「四次元お口なんじゃない?」

「んなわけあるかっ、あれはきっと・・・」


「なんか変な状況になっちゃったなぁ、ヒロミ」

とヒカルはヒロミの座っていた席に声をかけたが、そこにはヒロミの姿はなく、代わりにメモが

置いてあった。

バイト行ってきます。

「・・・帰ろう」

「あ、あ、じゃあカンロ・サ・スウィート行こうぜ!まだ空いてるはず!」

ヒマそうにしていたゴンゾウが寄ってくる。

「・・・そだね、行こっか。せめて食欲だけでも満たしたいよ。あーあ、女子高生とえろい状況に
なりたかったなぁ」 「性欲もオレが満たしてやるってば」

「てやっ」

「うわ、砂糖かけるの止めろよー。べたべたするんだって」

それでも構ってもらえて嬉しいゴンゾウなのであった。




その後。カンロ・ザ・スウィートにて。

「いらっしゃいませー」

「あ、ヒロミ」

「あら兄さん」

「妹さん移動早いな・・・!」






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