色んな店から軽快な音楽が流れている。

恋人たちをいつもより多く見かけるような気がする。

どこもかしこも飾り立てられてきらきらしている。

街中が浮かれた雰囲気。



今夜はクリスマス。

聖なる夜だ。



この日に自分は仏教徒だと主張する人がいたら、そっとしておいてあげたいところである。



そんな街中でしっかりと買出しと済ませたヒロミとノボル。

二人は両手いっぱいに抱えたクリスマスのごちそうをひとまず居間のテーブルに置く。

クリスマスには兄妹揃ってホームパーティーというのが毎年の白木兄妹の楽しみであった。

いそいそと準備をする二人の表情は見るからにうきうきとした様子だ。

「今年はノっくんは参加しないのかと思ってたわ」

いつもより機嫌がいいヒロミは嬉しそうにノボルの顔を見上げる。

どうしてさ、というノボルにヒロミは言った。

「だってノっくんってば毎日毎日水泳でしょ?今夜も部活で遅くなるんじゃないかと心配だったの」

「大丈夫だって。うちのコーチはかなりの子煩悩だから昨日と今日は部活すらなかったしな」

それに、とノボルは付け加える。

「今日は特別な日だしな。・・・なぁ兄妹?」

そう言って笑いかけるノボル。

ヒロミは少しノボルに甘えるように擦りついた。

「・・・ノっくぅん」

「馬鹿やめろよ」

「ノっくんは結婚記念日とか忘れない旦那さんになるタイプだと思うわ」

ノボルは少し斜め上にそっぽを向いた。

少し照れているらしい。

「それにしても兄さん遅いよな・・・」

照れ隠しに話題を変えるノボル。

ヒロミも特にノボルをからかう気もないのでその話題に移る。

「昨日の夜に西園寺の家に木下さんと泊まるってメールきてからずっと帰ってこないわよね・・」

ヒロミは少し心配になる。

やはり西園寺みたいなお金持ちの家でのパーティーのほうが楽しくて帰らないつもりなのだろうか。

ヒカルの好きにすればいいとは思うが、今日だけは家にいて欲しかった。

ヒロミの表情が少し翳ったのを見て、ノボルは励ますように言った。

「兄さんのことだからそろそろ酔っ払いながら帰ってくるって。兄さんも記念日にはうるさい人だし」

ノボルの言葉にヒロミは笑みを浮かべた。

「そうよね。・・・何たって今日は」

ヒロミが窓の外に目をやると、ちらほらと雪が降り始めていた。

「―――私が兄さんに拾ってもらった日だものね」

毎年、この日が来る度に思い出す。

あの寒い雪の日のことを。

橋の下で出会った天使のことを。







ここは東北に位置する閑散とした小さな温泉街。

ヒロミは町中にある大きな橋の下で、寒さを凌いでいた。

雪も降ってきていて、とても寒い。

彼女は膝を抱えて震えていた。




ある日、ヒロミが自宅である古ぼけたアパートの一室に学校から帰ると両親はいなかった。

家具も何もない、空っぽだった。

置手紙だけが残されていた。




ごめんなさい。




そう一言だけ母の字で書かれていた。

どこかに行き先などがないか部屋の中を必死で探したが、髪の毛一本残されていない。

捨てられた。

そう自覚するまでは時間がかかった。

夜中に両親が喧嘩をしている声が聞こえていたので、家に借金があるのは知っていた。

でも、だからって、そんな。

まさか自分が置いていかれるとは思いもしなかった。

ヒロミはしばらく部屋の隅にうずくまって泣いていたが、ここにいると危ないことに気が付いた。

急に逃げ出したくらいだ。借金取りが来るのかもしれない。

自分が見つかったら何をされるか分からない。

ヒロミはぐしぐしと泣きながら家を出た。

頼れるものなど何もなかった。



あれから三日。

行くあてのないヒロミはこの橋の下で寝起きしていた。

寒いし汚いが、雨が凌げるだけまだマシだった。

ここでずっと泣いて過ごしていたが、そろそろ限界を感じていた。

ダンボールなどをかき集めて寝床を作っていたが、雪まで降ってこられては堪らない。

それに何より空腹だった。

三日間、水しか口にしていない。

ゴミを漁る勇気と覚悟はヒロミにはなかった。

寒さと空腹から耐えながら、今日もヒロミはぼんやりと川を眺めていた。

そのとき。

突然、上から人が降って来た。

ヒロミは目を見張った。

前を開いたダッフルコートと肩まで伸ばした綺麗な髪をはためかせ、その人は川原に華麗に着地した。

その人はしばらく下を見つめていたが、ふっと空を仰いだ。

整った顔、綺麗な黒髪、何より少し潤んだ大きな瞳が印象的だ。

日が暮れてきて薄暗い中、その人はヒロミには輝いているように見えた。

天使がホントにいたらこんな感じなのかも・・・。

思わずうっとり見とれていると、その人は視線をこちらに向けた。

自分に気付いたらしい。

ヒロミは慌てて目を逸らす。

その人はぴんっと人差し指を立てつつ、口を開いた。

「説明しようっ」

何なんだろうと思いながらヒロミは黙って下を向いている。

「何でぼくが空から降ってきたかと言うとね。ちょっと自棄になって缶ビール飲んで酔っ払って」

立てた一指し指で上を指す。

「手すりの上を歩いてたら見事に足を滑らせて」

ばっと両手を上げる。

「落っこいちゃったってわけ。・・・あー怖かったぁ」

そして自分の肩を抱いて身を震わせる。

華麗に着地したようにヒロミには見えたが、運が良かっただけらしい。

ホントに何なんだろう、とヒロミは顔を上げてその人の顔を眺めながら思った。

とりあえず変な人なのは間違いない。

女の人のくせに男の子みたいな喋り方してるし。

「で、キミは何してるの?こんなとこで。風邪ひくよ?」

尋ねられてヒロミは身をびくっと震わせた。

何と言えばいいのだろうか。

捨てられました、何て言いたくない。

それにこんな綺麗な人を見ていると自分がますます惨めに思えてくる。

放っておいて欲しかった。

「・・・気にしないで。今友達とかくれんぼしてるだけだから」

友達か、そういえば学校の皆は元気にしているだろうか。

もうあの場所には戻れないかと思うと、また泣けてくる。

「・・・ふーん。まぁ風邪ひかないようにね」

その人は怪訝そうな顔をしながらも、辺りを見渡し上への道を見つけると去っていってしまった。

これでいいんだ、とヒロミは思う。

もう全てがどうでも良かった。

そしてまた独りになった。

雪はどんどん降り積もってくる。

身体が痺れてきたような気がする。

だんだん寒さを感じなくなってきた。

何だか眠たくなってきたな。

ヒロミがうとうとしていると、首元に何か熱いものを押し当てられた。

思わず悲鳴をあげる。いっぺんに目が覚めた。

「差し入れ。どう?暖まるよ?」

見上げると、さっきの人が缶コーヒーと肉まんの入った袋を抱えて立っていた。




久々に口にした食べ物は本当に美味しかった。

貪るように肉まんを食べ缶コーヒーで身体が暖まると、ヒロミはほっと一息をついた。

「よっぽどお腹空いてたんだね」

肉まんをくれた人は笑うでもなく、しみじみと言った。

「ありがとう・・・」

ヒロミが礼を言うと、その人は笑って首を横に振った。

それから少し真剣な顔になる。

「かくれんぼってのは嘘でしょ?キミなんか妙に汚れてるし。・・・家出?」

家出、か。

ヒロミは自嘲気味に笑った。

「違うの。私は捨て子なの」

少し冗談めかして言った。

調度いい、見たところこの人は余所者のようだし本当のことを全部言ってしまおう。

そう思ったヒロミは帰ったら家がからっぽだったこと、置手紙のこと、ずっとここにいること。

全てをその人に打ち明けた。

あくまで冗談めかしてだったが。

黙って話を聞いていたその人は、話が終わると下を向いて肩を震わせていた。

せっかく心配したのに冗談言うなって怒ったのかな?

不安になったヒロミは恐る恐る声をかける。

「あ、あの・・・?」

その人はばっと顔をあげた。

ヒロミはその人の顔を見て驚いた。

ぼろぼろと涙を流していたからだ。

「大変だったんだね・・・!」

そう言ってヒロミを抱きしめてきた。

泣きながらぐいぐい抱いている腕に力を込めている。

全部信じてくれたの・・・?

ヒロミは驚きながらその人に身を任せていた。

「よし!ぼくが面倒みちゃる!」

その人はヒロミを抱きながら大声で言った。

「へ?」

戸惑っているヒロミに構わず、一度身を離してヒロミの目をじっと見つめる。

あんまり綺麗な瞳だったので、ヒロミは少しくらっときた。

「黙ってぼくについてきなさい」

「・・・はい」

ヒロミはうっとりと答えた。





連れてこられたのは町でも手ごろな温泉宿。

その人は受付のおばさんに笑いながら言った。

「いやー妹がついて来ちゃいましてね。夕飯一人分追加してくださいな」

そんな安直な、とヒロミは思ったがおばさんは何故か少し感動したようだった。

「まぁ!わざわざお姐さんを追いかけてそんなぼろぼろになってまで・・・」

よっぽどお姐さん想いなのね、とおばさんは言う。

「あははっ。ぼくはお兄さんだってば」

そう言って笑っている人を、おばさんはまたまたー、と笑い飛ばす。

何故かその人は一瞬落ち込んだ様子を見せたが、すぐに立ち直るとヒロミの手をとった。

「じゃ夕飯の件お願いしますね」

サービスしとくよ、とのおばさんの声にその人は笑顔で返事をする。

そしてヒロミと手を繋いで部屋に入った。

部屋に入るとその人はぽん、と両手を合わせるとヒロミに向き直った。

「自己紹介忘れてたね。ぼくは白木ヒカル。キミは?」

「私は橋本ヒロミ・・・だったけど」

畳を見つめながら吐き出すように言った。

「今はただのヒロミです・・・」

下を向いて涙を堪えているヒロミをヒカルと名乗ったその人は悲しげに見ていたが。

ヒロミの顔を覗き込んで優しく言った。

「よろしくね、ヒロミちゃん。とりあえず夕飯来るまでお風呂入ってきなよ。露天風呂あるよココ」

お風呂か、最近入ってなかったな。

ヒロミはそのことに気が付くと、急に薄汚れている自分が恥ずかしくなった。

「じゃ、じゃあお風呂入ってきますね」

「うん、着替えは浴衣あるからそれに。あ、パンツとかは買っといてあげるから」

とりあえずノーパンで戻ってきて、とヒカルは笑いながら言った。

それはちょっと恥ずかしいな、と苦笑いしたヒロミだがふと疑問に思って尋ねた。

「ヒカルさんは入らないの?」

「ぼくは他人とお風呂に入るのは嫌いなんだ。お風呂は好きなんだけどね」

「そうなの?」

「うん。というか裸見られるのが嫌い。この部屋にもお風呂付いてるから気にしないで行ってきなよ」

「・・・じゃあ、行ってきます」

そんなに美人なのに何でだろう、とヒロミは思ったが口には出さないでおいた。

本人には色々気にするところがあるのかもしれない。

多分背が低くて胸も小さいとことかだろう。

「いってらっしゃい」

笑顔で見送られ、ヒロミはぺたぺたとスリッパを鳴らしながら露天風呂に向かう。

久しぶりにお風呂に入れると喜びながら歩いていたが、自分の状態にはたと気付いた。

共同の風呂に入るには今の自分はあまりに汚れすぎではないだろうか。

これでは周りの人の迷惑になってしまう。

そう思ったヒロミは部屋に引き返す。

一度、部屋の風呂で軽く汚れを落としてから露天のほうへ行くことにした。

部屋に戻ると、風呂のほうから鼻歌が聞こえてくる。

どうやらヒカルが入っているようだ。

他人に肌を見られるのが嫌い、などと言っていたが明らかに子供な私は構わないだろう。

ヒロミはそう思って自分も一緒に入ろうと服を脱いで風呂場に入った。

少し人の温もりに飢えていた、という気持ちもあった。

「身体だけ洗わせてー・・・」

ヒロミが扉を開けると、中にいたヒカルは慌てて小さな湯船に飛び込んで自分の身体を隠した。

身体を洗っている途中だったらしく、湯船は泡だらけになってしまった。

その妙な慌てぶりが可笑しくてヒロミは笑った。

「女の子同士なんだからそんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。変なの」

ヒカルは湯船に身体を沈めながら困った顔でヒロミのほうを見てきた。

「だから男だって言ってるんだけどな・・・」

でもこんな身体じゃ説得力も何もないな、と言って諦めたような顔をして立ち上がった。

ヒカルの肢体が晒される。

汚れた身体を磨くように洗っていたヒロミは目を奪われた。

「ヒカルさんやっぱり綺麗・・・」

染みどころかホクロすらも見当たらない肌にヒロミはうっとりしながら見とれる。

ヒカルはその視線に少し恥ずかしそうにしながら言った。

「よーく見たら恥ずかしいところがあるのデスヨ。人には見せたくないとこが」

「そんな。綺麗な身体なのに。胸はちっちゃいけど、そのうち大きく・・・」

とヒロミはフォローを入れつつ視線を下げると、ヒカルの下半身に妙なものがついてるのに気付いた。

よく見えなければ気付かないような大きさだったが、よく見ていたのでしっかり見つけてしまった。

「・・・何それ?」

ヒカルは少し悩んだような顔をしてから答えた。

「だ、男性器ってやつ。まったく使い物にならないけど・・・」

適切な表現を探していたらしい。

ヒロミは一瞬何のことか分からなかったが、意味がわかって少し顔を赤くした。

「な、何でそんなもの付いてるの?」

「そんなものって・・・。詳しい説明は省くけどね、ぼくは・・・まぁどっちでもあるんだ」

「どっちでもあるって・・・」

「そういう人もいるんだよ」

ため息をつきながら言うヒカル。

それで男の子みたいな喋り方をするのか。

ヒロミは納得した。

それにしても・・・。

「それでも可愛いよヒカルさんは。恥ずかしがることないよ」

気にすること無いのに、とヒロミは思う。

「一応ぼくは男の子として生きてるから大変なんだよ」

「そんな無茶な」

「・・・でもぼくの身体見て可愛いとか言ってくれたのはキミが二人目だね、ありがとう」

一瞬落ち込んだ顔をしてからヒカルは礼を言った。

しっかりと目を見て言ってくるのでヒロミは少し照れ臭くなった。



風呂から上がると、もう夕飯が並べられていた。

「それじゃ頂きましょうかー」

「いただきます!」

大して豪華な食事ではなかったが、ヒロミにはとても御馳走に見えた。

一心不乱に食べているヒロミをヒカルは微笑みながら見つめていた。

ある程度食べ終わると、ヒロミはぽつぽつと話し出す。

「お母さんは私をよく叩く人だった・・・。でも借金とかでいらいらしてるのは知ってたから」

「うん・・・」

「今だけだと思って・・・。借金とかのごたごたが全部終わったら優しくして貰えるって思ってた」

「うん・・・うん・・・」

話を聞いているヒカルの目に涙が浮かんでくる。

「でも・・・。まさか置いていかれるなんて、捨てられるなんて・・・!」

「ヒロミちゃん!」

泣き出すヒロミの手を取るヒカル。

「うちの子になるんだ!」

「・・・え?」

どういう意味かわからなくてヒカルの顔を見る。

ヒカルは真剣な口調で語った。

「母さんがいつも言ってるんだ。困ってる子がいたら、すぐに助けてあげなさい」

なかなか良い母親がいるようだった。

「身寄りがなかったら家族にしちゃいなさいって。手続きはやってあげるからって」

相当変わり者の母親がいるようだった。

「で、でも・・・。今日会ったばっかりなのに」

戸惑うヒロミ。無理もないが。

「構うもんか。これも何かの縁だ」

「そうなのかな・・・」

「兄妹になろう。・・・ヒロミって呼んでいいかな」

熱い瞳に押されてヒロミは頭がぼーっとしてくるのを感じた。

「お、お姉ちゃん・・・」

「お兄ちゃんだってば」

うっとりと漏らすヒロミに少し不満気なヒカル。

ヒロミは捨てられた家族にも兄妹はいなかったし、両親からもあまり相手をして貰えなかった。

それだけにヒカルの申し出は嬉しかった。

涙ぐみながら頷くヒロミを見てヒカルは一度手を離し、部屋を出た。

どこに行ったんだろう、とヒロミが怪訝に思っていると五分程ですぐに戻ってきた。

手にはケーキを持っている。

「今母さんに電話してきた。手続きはしておくから早めに帰ってきなさいってさ」

「早いね・・・!」

いくらなんでも話が早すぎるような気がする。

「あとこれ旅館の人がサービスだって。今日は特別だから」

そう言ってケーキをテーブルの上に置く。

再びヒロミと向かい合わせに座る。

コップにジュースを注ぐとヒロミに手渡した。

「それじゃあ新たな家族との出会いを祝って・・・」

自分も持ったコップを掲げる。

ヒロミもヒカルのしようとしていることを察してコップを掲げる。

「・・前の家族の幸せを祈って」

かちん、とコップをぶつけ合う。

「メリークリスマス!」





「あの日に兄さんに私は大事なことを学んだわ・・・」

窓の外を眺めながらヒロミは遠い目になっている。

「人生に大事なのは思い切りと勢いだってことを」

「そうなのかねぇ・・・」

ノボルはしみじみとジュースを啜る。

「でも本当に兄さんについて行ってよかったわ。あのままなら絶対私死んでたもの」

「兄さんの人の良さと変わり者っぷりに感謝、だな」

「そうね・・・」

ヒロミは目を細めながら時計に目をやる。

時計の針はもう十時を指していた。

「兄さんは帰ってくるって」

その視線を察してノボルは言った。

「うん・・・。でもそろそろ料理は温めときましょ。ノっくんもお腹空いたでしょ」

「俺は別に構わないけど」

とりあえず料理を温め始めた二人。

そのとき、玄関が荒っぽく開けられた音が家中に響いた。

「ほら、帰ってきた」

ノボルがヒロミのほうに微笑む。

ヒロミもノボルに微笑み返すと、玄関に小走りに向かった。

玄関では手に小さな袋を抱えたヒカルが目を回していた。

「兄さんお帰り・・・。どうしたの、その有様は」

ヒロミはヒカルのコートを脱がしてやりながら尋ねる。

「ちょっと色々あってね・・・。酔っ払ったゴンゾウに襲われかけたり」

今日はかなりの貞操の危機だったよ、と目をぐるぐるさせながら言うヒカル。

察するに自分も酒が入っているところに動き回ったので悪酔いしたのだろう。

「ごめんよー。遅くなって」

「いいのよ兄さん」

介抱してやりながら優しく言うヒロミ。

ヒカルは最後の力を振り絞っているかのような動作で手に持った袋をヒロミに手渡した。

「お土産ね・・・」

「これは・・・?」

手渡されたのは少し冷めてはいたけれど、肉まんの入った袋だった。

ヒロミは目に涙を浮かぶのを感じた。

「メリー・・・クリスマス」

そこで力尽き、ヒカルは寝息を立て始めた。

「俺が部屋まで運ぶよ」

後ろでその様子を見ていたノボルは、ヒカルを片腕で抱えると部屋まで軽々と運んでいった。

ヒロミはぐったりと寝ているヒカルの顔を見つめながら口の中で呟いた。

「・・・メリークリスマス。今日の日をありがとう、兄さん」




back