「いやーヒカルがイブに付き合ってくれるとは思わなかったぜ」

「ま、ヒマだからねー。奢ってくれるっていうし」

ヒカルとゴンゾウは街を並んで歩いていた。

街全体が浮かれた空気に包まれているので、二人ともいつもよりうきうきした気分だった。

特にゴンゾウはスキップでも始めかねないほど機嫌が良い。

「で、その飲み屋ってどこ?」

「もうすぐもうすぐ。飲み屋っていうかホテルの中のバーなんだけどな。美味いカクテルがあるんだよ」

「へぇー。よくそんなオシャレっぽいお店知ってるね」

ヒカルの感心したような視線を受けてゴンゾウは気分よく、まぁなっと胸を張った。

無邪気に着いて来ているヒカルは気付いていないようだが、ゴンゾウは今夜は作戦を立ててきたのだ。


酔い潰させて、予約している部屋に運び込んで、いただきます。


実に単純な作戦だが、ゴンゾウ的には完璧だった。

ちなみにゴンゾウはヒカルが男か女かも良く分かっていないのだが、どっちであろうが頂くつもりである。

ある意味、純粋にヒカルを愛しているのだとも言えなくもない。

そんなゴンゾウの思惑をヒカルは知らずにほいほい着いてきていた。

奢りという言葉には弱い性質なのだ。

うきうきしているゴンゾウとほいほい歩くヒカル。

談笑しながら歩いているとき、不意にヒカルの携帯電話が鳴った。

画面を開くとカオルからだった。

ヒカルはゴンゾウにごめん、と断りを入れてから電話に出る。

「やっはーカオルちゃん、どうしたの?・・・え?・・・おぉ。・・・ふんふん」

軽い口調で話していたヒカルだが、途中から瞳を輝かせながらカオルの話を聞いている。

わかったよ、とヒカルは電話を切ると満面の笑みを浮かべてゴンゾウに向き直った。

「木下、今からカオルちゃんの家に行こうっ!パーティーやってるから是非、だってさ」

もう迎えの車もよこしてくれたってさ、とはしゃぐヒカル。

しかしゴンゾウは思いっきり顔をしかめながら言い切った。

「やだっ!」

「や、やだって・・・。豪華な料理とかあるんだよ?楽しそうじゃん」

「オレはヒカルと二人っきりで過ごしたいんだいっ」

まるで子供のように駄々をこねるゴンゾウにヒカルは困惑してしまう。

「えー・・・二人っきりって言われてもな」

そんな会話をしているうちに黒塗りの車がやってきて、二人の近くに止まった。

電話が来てから五分もたっていないので、電話する前から出発していたのだろう。

どうやらヒカルの性格は結構カオルに読まれているようだ。

しかし、どうやって居場所を知ったのかは謎だ。

車の窓からカオルが顔を出した。

「ヒカルさま、お迎えに上がりましたわ」

嬉しそうにこちらに手を振ってくるカオル。

「カオルちゃん、わざわざありがとね。・・・木下ぁ、いいから乗ろうよ」

カオルに礼を言いつつ、駄々をこねるゴンゾウにヒカルは手招きをする。

しかしゴンゾウは頑として動かない。

それどころか、先ほどからヒカルの手を握り締めているのでヒカルも車に乗る事が出来ない。

それを見たカオルは仕方ありませんわね、と呟き指を鳴らした。

すると車の後部座席から黒服の男が二人出てきた。

「二人をお連れしなさい」

黒服たちは畏まりました、と言うとゴンゾウににじり寄っていく。

「ええいっ。寄るんじゃねぇ!オレとヒカルのデートを邪魔すんな!」

ゴンゾウはあろうことか近づいてきた黒服二人を叩きのめしてしまった。

いくら気が立っているとはいえ、やりすぎである。

「な、なんてことを・・・」

青ざめるヒカルの手をしっかり握りなおすと、ゴンゾウはカオルに向かって言った。

「悪いがヒカルとはオレが先約なんでなっ。貰ってくぜ!」

そのまま去ろうとするゴンゾウだが、カオルが再び指を鳴らすとどこからともなく黒服たちが現れた。

今度は十数人もぞろぞろと。

「相変わらず木下さんは乱暴ですわね。・・・かまいませんわ、やっておしまいっ」

何故か非常に嬉しそうにカオルは黒服たちに指示を飛ばす。

ゴンゾウに黒服たちは次々と襲い掛かるが、むやみに強いゴンゾウには全く歯が立たない。

ヒカルを小脇に抱えて大乱闘を繰り広げている。

そして荷物のように持たれているヒカルは時折やめてー、と言うだけで目を回してしまっていた。

「何人来ようが無駄無駄ぁっ」

すっかりテンションの上がったゴンゾウを見て、カオルは小さな笑みを口元に浮かべる。

そして、もう一度指を鳴らした。

「はぅっ」

突如倒れ伏すゴンゾウ。

「き、木下!?どうしたの!?」

慌てふためくヒカルの横に車から降りたカオルは立つ。

「ちょっと眠っていただいただけですわ。・・・ほら、あそこに」

カオルの指す方に視線を向けると、ビルの上に小さな人影が手を振っているのが見えた。

「うちの狙撃班ですわ。ちょっと麻酔銃使わせて頂きましたんですの。熊用ですけど」

「思いっきり猛獣扱いだなぁ・・・」

というか普通そんなもん人に向かって撃つなよ、とヒカルは内心思った。

「静かになったところでヒカルさま、そろそろ行きましょう」

木下さんは縛って連れて行きましょうね、と付け加える。

「・・・そだね。行こっか」

変人同士のどたばたに巻き込まれて疲れ気味のヒカルはぼんやり頷いた。

カオルに促され、車に乗り込む。

ゴンゾウは床に転がされた。

車の中で、気を失っているゴンゾウにヒカルは自分のマフラーを巻いてやった。

「まぁメリークリスマスってことで。これあげるから今日のことは勘弁してね」

そう耳元で小さく囁く。

一応約束してたのにこういう結果になったことは悪いとは思っているのだ。

ちょっぴりヒカルが反省しているとゴンゾウが突然跳ね起きた。

「ヒカルのそういうとこが可愛いんだー!!好きだー!!」

がばっと勢い良くヒカルに抱きつくゴンゾウ。

「ええええ!?ま、麻酔は?」

抱きつかれることに抵抗するよりも、ゴンゾウの人外さに仰天するヒカル。

「あんなもん効くかよ!・・・ぐはぁっ!」

話している途中で悲鳴を上げて再び昏倒するゴンゾウ。

カオルがにっこり笑ってスタンガンを持っていた。

ドクロマークがプリントされているのが恐ろしい。

「車内ではお静かにお願いしたいものですわね?」

そう言いながらヒカルの隣りに嬉しそうに移るカオル。

ヒカルはそうだね、と引きつった笑顔で答えることしか出来なかった。




イブの夜のを黒塗りの車は走りゆく。

ご機嫌なカオルと、引きつったヒカルと、痙攣しているゴンゾウを乗せて。




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