暇つぶしに街に出て、ぶらぶらしていたとき。
とあるお店で面白いものを見つけた。
密閉されたガラス玉のようなものに水が詰まっていて。
中には小さな小さな魚が数匹と水草が入っていた。
説明文を読んでみる。
この中にはバクテリアなども入れられており、食物連鎖が中で完成しています。
程好く日当たりの良いところに置いてあげてください。
ただし、ガラスを叩きすぎたり揺らしすぎると魚たちがストレスで死んでしまうので要注意。
つまりこの中は小さな世界ってことか。
面白い、面白いなぁ。
気に入ったので色々のサイズのある中で一番小さなものを買った。
一番小さなものでも税込みで4980円。
これで世界が買えるなら安いもの。
それを大きく揺らさないように気を付けながらお店を出て。
それを大きく揺らさないように気を付けながら電車に乗って、家に帰った。
持って帰ったそれを、ゆっくりと家の中で程好く日当たりが良さそうなところに置いた。
眺めながら思う。
いつかストレス解消に思いっきり振ってやろう。
それだけでこの小さな世界は滅んでしまう。
想像しただけでスカッとしてくる。
水の中を所狭しと、すいすい泳ぐ小さな魚たち。
水の流れというものがないので、ゆらゆら揺れない小さな水草。
日の光が反射して、きらきら輝く小さな世界。
僕は眺めながら、にやにや笑う。
すぐにはやらない。
それまでは大切にしておこう。
と、思ってから一年がたってしまった。
買ってから色々とストレスの溜まることもあったけど、いまだに僕の手元にある。
日差しが強い日は薄いカーテンで日光を遮り、寒い日は室温を調節する。
おかげで今日も魚たちも水草も絶好調だ。
何だかんだで大切に扱ってしまっている。
いつでも壊せるから、返ってそのような気分になれないのかもしれない。
そう思いながらガラスを突っつこうとして、止めた。
魚たちにストレスを与えてしまう。
壊すつもりで買ったのに心配している。
そんな自分が可笑しくて一人でくすくすと笑う。
少し離れて眺めてみる。
僕の世界は安物なりに。
今日も日向で輝いている。