人生辛いことばっかりだ。
俺は夜の街をふらふらと歩きながら世を儚んでいた。
というか人生に絶望していた。
高校出た後はさっさと就職したかったのに、親と教師の強い要望で大学を受けさせられた。
俺は学校嫌いだっつってんのに。
しかも受けるだけ受けてやるぜ! と洒落で受けた東大に受かっちまった。
不幸だ。
とりあえず真面目にやってしまうという悪いクセが出てしまった。
春から東大生だよ俺。
しかも東京は遠いから一人暮らしだよオイ。
やってらんねー。
友達たちが絶対泊まりに行くからな! とか言ってくるし。
俺は一人が好きだっつってんのに何で寄ってくるかなアイツらは。
さらに言うなら、せめてバイトでもして人生経験するかと思ったら……。
何となく買った宝くじに当たっちまうし。すげぇ額が。
金があるのにわざわざバイトする気も起きなくなったし。
俺は駄目になっていってしまうんだ……絶望だ……。
もうこうなったら自殺でもするしか……。
とか歩いていると、周りの景色が怪しくなってきた。
気が付くと周りはエロイ店ばっかりだ。
世の中は腐ってるな……やだやだ……。
足早に通りすぎようとしたが、ふと思い直す。
ちょっと待て。世の中よりも腐ってるのは俺の方ではないか?
東大入った宝くじ当たったと、周りが喜んでくれても俺は一人絶望している。
人の好意を素直に受け取れない俺は最低だ……。
やっぱ死ぬしかないな。
よし、死ぬ前にとことん汚れてやるか。
そう決心した俺は適当に目についたエロイ店に入っていったのだった。
人生って楽しいなぁ。
私はつくづくそう思う。
だって毎日がスリルとサスペンスでいっぱいだもの!
たとえば、私が小学生の頃にお父さんはどっかに行っちゃったし。
蒸発ってテレビの中のことだけだと思ってたのにビックリだよね!
あと、新しいお父さんが出来たんだけどさ。それが何と!
毎日私とお母さんに暴力振るうのよ! すごいよね!
家庭内暴力ってドラマみたーい。
でもちゃんと高校には行かせて貰えたし、顔とか目立たないところは殴られなかったんだ。
その辺に愛情を感じるよねー。
ご飯も毎日食べられるわけじゃなかったからダイエットいらずだし!
それからー。
高校卒業したら、最近お母さんもどっか行っちゃったんだけどー。
そしたらお義父さんが大学には行かせられないけどって、お仕事紹介してくれたの!
この不景気なのに、お義父さんってば優しいよね! よく見つけてきてくれたよね!
そのお仕事って言うのが、男の人と一緒にお風呂入ったりアレコレするってことらしいの。
アレコレっていうのは……えへへ。
私も年頃のオンナノコですから意味はわかるけど、恥ずかしいからぼやかすね!
今まで男の子とお付き合いしたことないから、ちょっと上手くできるか自信ないなぁ。
……ていうのが悩みだったんだけど。
お店の人に相談したら、「せめて……せめて……出きるだけ初めてはイケメンで優しそうな客回してやっから!」だって!
みんな親切ぅ。
でも私の顔見たら、泣きながら目を逸らすのは何でなのかなぁ? 都会の人は変わったクセがある人多いみたい。
……あ、昔のこと思い出してるうちにお客さんが来たみたい!
初めてのお客さんだわー。緊張するわー。
「いらっしゃいませ! 今日はよろしくお願いしますね!」
エロイ店というものは全部こうなのか?
店に入った途端、ガラの悪そうな兄ちゃんたちに囲まれた。
全身を舐めるように観察されたあと、変なアンケート用紙を書かされた。
面接まであった。
それが全部終わったかと思うと、「乱暴にしたら殺す……八つ裂きにして……」と言われてやっと女の子のいる部屋に案内して貰えた。
指名とかさせてくれないのね……。
微妙に好みとは違う女の子なので少しだけガッカリだ。
「いやー最近冷えてきましたねー。こういう寒いときは、靴に唐辛子を入れるに限りますよね!」
それにしても何て色気のない話題を振ってくる女だ……。
見るからに俺と同じ年か、年下だし。
しかも水商売の女とは思えん程に爽やかだ。
こう……何ていうか……正のエネルギーが満ち満ちている感じだ。
こんな爽やかな女と今からエロイことするとは信じられん。
すでにお互い素っ裸なのにな。
「なぁ……何でアンタはこの仕事についたんだ?」
やっぱ金か? 金なのか?
女の子は一瞬きょとんとした後、この店で働くことになった経緯を教えてくれた。
……絶望した。
変わった人ね?
お客さんは私の話を聞き終わると、その場に泣き崩れてしまった。
えーと……何でだろ? 私何かしたのかな?
それとも何か辛いことでもあったのかしら?
ああ、おろおろしてる間に、もう時間が……。
お仕事しないといけないわ。……初めてだし!
「お客さんお客さん。時間が危ないから……え、えっちなことしましょ?」
「出来るかぁ!!」
わぉビックリ。
お客さんにいきなり抱きしめられちゃったわ。……どきどき。
「俺と一緒に死のう! もう駄目! 絶望した!」
え? え? え?
お客さんは「私に服を着て来い!」と一喝すると、部屋から出て行っちゃった。
よく分かんないけど……とりあえずお客さんを言うこと聞いて服を着てくる。
そしたら自分も服を来たお客さんが待ってた。
「行くぞぉ!」
「きゃ!?」
いきなりお姫様ダッコされちゃったわ。
うわー何だか凄い照れちゃうなー。
私がテレテレしていると、私をダッコしたままお店の外に出るお客さん。
途中で店員さんたちが止めようとしたけど、「これで文句あるかぁ!」とお客さんが一万円札をばらまいたら硬直しちゃった。
凄い気迫だったから無理もないよね。
それからアレヨアレヨという間にタクシーに乗せられて、気が付けばどっかのビルの屋上。
「夜景が綺麗……!」
なんてロマンティックな場所なの! ときめくわー。
お客さんは右手をフェンスに、左手は私の手を握り締めて。
「世の中は辛すぎる。一緒に死のう!」
情熱的な瞳で見つめてくるの……。
ときめくー。
……でも言ってる意味がよく分からない、かな?
一緒に死のうって……普通人間って事故か病気か寿命が来るまで死なないよね?
ということは……と、いうことはー……!
「つまり死が二つを分かつまで一緒にいようって意味なんですね! ということはプロポーズ!? きゃー!」
「……へ?」
そんなぁ、会ったばっかりなのにっ。
でもお客さん格好いいし情熱的だし……。
「フツツカモノですが! これからよろしくお願いしますね! でもまずはお付き合いからにしましょーね! えへへ」
「へ? へ? へ?」
「人生ってホント楽しいね!」
よく分からんうちに彼女が出来てしまった。
一緒に死のうっつったのに……何で一緒に暮らしてるんだ俺は。
意思の疎通がうまくいかないと、ここまで結果が違うとは思わなんだ。
「ご飯出来ましたよー!」
それに自堕落な生活を楽しみたかったのに。
「今夜のメニューは、和食でまとめてみました! お魚安かったの!」
超健康的な暮らししてるし。
おかげでお肌もつやつやだよ、チクショウめ。
「んー! おいし!」
こいつは死ぬほど元気だしよぉ。
見てて死にたくなってくるよホント。
何であんなに明るく生きられるんだ。俺には無理。
ついでに言うならコイツを店から引き取るのに結構金かかったし。
そのせいで少しはバイトしなくちゃならなくなったし。
自分一人ならともかく……ああ……守るものがあるということは何て大変なんだ……。
そして何より。
「あれ? どうしたの? 食べないんですか? 食べさせてあげようか? 食べさせてあげるね! ほらアーン」
「……あーん」
こいつを残して死ぬなんて出来ないじゃないか。
逃げ道がないって本当に辛い。
「えへへ。私たちって幸せだね!」
「……絶望だよ、ハニー」