とある世界の、とある町。寂れた街角の一角に、その酒場は存在する。
店に入った瞬間に炸裂する地雷、テーブルの下に仕掛けられた爆弾、随所に待ち構える落とし穴。そして、カウンターの奥に隠されたロケット砲。1960年代のベトナムを詰め込んだようなトラップが大量に仕掛けられたこの酒場では、常に爆音と喧騒が辺りを包んでいる。
しかし、その日は違った。客は誰一人として喋らず、爆音もしない。ただ一人、カウンターで銃と紙を手に喋っている男がいるだけだ。
「・・・・・・要するに、この酒場で飲み逃げ客が出た。この酒場では、人を殺そうが物を盗もうが何をしようが構わない。だが、マスターの指示で一つだけ決して許されないことがある。それが、これだ!」
ドン、と拳をテーブルに叩きつけ、男・・・・・・この酒場のバーテンダー、フォードは一枚の紙を掲げた。
≪当店は食い逃げ、飲み逃げだけは許しません。 by Weekend in my room≫
「名前は真矢九十九。あろうことかマスターを襲撃し、そのまま異世界へと逃げ延びた謎の人物だ。正直、俺にはさっぱりわからん。誰か情報を持ってる奴は、是非提供していただきたい」
そして、言い終わると同時に銃口を脇に向けて引き金を引く。そして、その弾丸は気絶したマスターの額にコインを貼り付けていた客を見事捕らえたのだった。
「せっかく・・・・・肌色の水着・・・・・・買ったのに」
肌色の水着を血に染め、客は倒れ伏す。一人の常連客の死にも、店内は相変わらずの静寂を保ったままだ。
それは、ただ単に言う気がないのか。それとも、庇っているのか・・・・・・
どちらにしても、使う手段はただ一つだ。
「ふむ。喋らないのならしょうがない」
そう言って、フォードはとある緑色の物体を酒場の中央に放り投げ、こう言い放った。
「頼みます、アケミ2世さん」
次の瞬間、酒場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
恨みのパワーを込めて、突如全身から針を飛ばすアケミ2世さん。その直ぐ近くにいて、ジンジャーミルクティーを飲みながら企画を考えていた客が最初の餌食となる。
「マスターをいじめようの会に一票!」
そう言って、その客は力尽きた。
続いて犠牲者となったのは、企画を丸投げしてゆっくりとミルクを飲んでいた客だった。つい先ほどまでアケミさんの針によって痺れていた客は、恨みパワーがどうのこうの言いながら倒れ伏す。
「あ、握手を・・・・・・」
倒れながら、握手した。でも、ダメだった。具体的どうダメだったのかは聞かないほうがいい。肉とか食べられなくなりそうだから。
そして、被害はカウンターへも及ぶ。ゾンビのごとく肉片から復活した客は、身体を起こした瞬間顔中に針を浴び、そのまま再び黄泉の世界へ。最早台詞すらない。面倒臭くなってきたの?とかは聞かないで欲しい。次があるさ・・・・・・多分。
「なあ、えんぷてぃさん。そろそろ行き方を教えてくれないかな?」
何とかカウンターの奥に隠れたえんぷてぃに向かって、ぬけぬけと言い放つフォード。他の客の犠牲など、関係はない。ただえんぷてぃから九十九のいる世界への行き方を知りたかっただけなのである。
「行き方も何も・・・・・・こことあの世界は繋がってるので、そこの裏口から行くだけなんですけど・・・・・・」
「あ、そうなの?どーもどーも」
拍子抜けするほどあっさりと返ってきた答えに対し、フォードは銃弾で御礼をすることに決めた。そのうち復活するかもしれないが、取り敢えずヨシとしておこう。
「さーて、仕事しないとな」
そう言いながら、針の飛び交う酒場を駆け抜け、裏口の扉を開ける。すると、まるで吸い込まれるように彼の姿は掻き消え、後には凶悪極まるサボテンだけが残された。
正体不明の男、フォード。彼の目的は、真矢九十九から2000円を取り立てること。吸い込まれる前、彼は≪久々に楽しめそうだ≫と呟いたと言う。
そして、サボテンはマスターが目覚めて駆除するまでそのままだったそうな。
・・・・・・続く?