勤務時間の中で、いちばん長いことやっている仕事は店のお掃除。
粉砕されたテーブルやイスを店の外に放り出し、色々な粉塵をホウキで掃きだす。
あと、窓ガラスに付着した血糊、床に散らばる肉片、あと何か薄桃色な塊とか白っぽいモノとかのお片付け。
こんなにも壊れた備品が多いのも、猟奇的な生モノが多いのも。
私のお店にやってくるお客さんは、ちょっぴり過激な人が多いせいなのだ。
最初からこんな刺激的なお店だったわけじゃあない。
のんびりマスターとダイス勝負したりする落ち着いた店内だった時期もある。
でも何時の頃からだろうか。
「よっし。掃除もひと段落ついたっと」
「――出でよ、六又狐ッ!!」
良く分からない化け物が召還されたり。
「唸れ、ハルバート! 敵を切り裂けぇ!!」
斧が振り回されたり。
「怨ぱぅわ〜」
焼きシイタケが降ってくるようなお店になってしまったのは。
「……ああん」
せっかく片付いた店内が見る見るうちに荒れていく。
化け物が火を噴くたびにテーブルは吹き飛ばされ、イスは砕け散り、罪も無いお客さんが燃えてしまう。
ラインさん、飲食店に動物を連れ込むのはどうかと思うの。
まぁ別に禁止はしてないけどさ。
衛生面に気をつける以前の状態のお店だし。
しっかしアレだね。なんでみんな戦ってるんだろうね。
……とか何とか思っていた次の瞬間、全身が血に濡れていた。
べっとりと血塗れになったまま下に顔を向けると、真っ二つになったラインさんが転がっている。
「危なかったですね」
俯いたままの私に、朗らかな様子の玖亜さんが話しかけてきた。
ハルバートに付いた血を拭いながら心底楽しげなご様子。
「まーたラインさんが六又狐の制御に失敗したらしくて。六又狐に吹っ飛ばされてきてたんですよ」
あーあ。制服がえらいことに……。
「それを私がこうズバっと」ぐしゃあ。
台詞の途中で玖亜さんが横殴りに吹き飛ばされた。
床と水平に飛んでいく玖亜さんを見送る私の側で、また別の人物が口を開く。
「隙あり、ですよ? 玖亜さん」
スコップを構えた黒尽くめの男性、魅季さんだった。
どうやら乱戦状態みたい。
「はっはっは。戦闘中にのんびり立ち話なんかしていると酷い目にあっちゃいますよ?」
からからと笑いながら、がっつんがっつん玖亜さんに追撃をかけている。
玖亜さんの頭から何か白いモノが見えたけど、まぁ死なないんだろうね。どうせね。
「今日こそはッ! 仕留めて見せるッ!」
熱い雄たけびを上げながら日本刀を振るってるのは春光さん。
見事な剣捌きで、アケミさんの放つ針と次々に叩き落していた。
そうして攻撃を防ぎながら徐々に近づき、スキを見ては焼きシイタケを放っている。何故。
ていうかいいから小説書いてなさいよ、とか思いながら眺めていると、目の前を弾丸がよぎった。
「みなさーん! ケンカはよくありませーん!」
えんぷてぃさんだった。
カウンターの影に隠れながら平和を説きつつ、マシンガンを乱射している。
だからそんなヒマがあったら……。
「えんぷてぃさんこそ落ち着いて下さい!」
それを片っ端から交わしつつ、響さんが喚いている。
店内で唯一と言っていい、人を攻撃しないお客さん。
その回避スキルはもはや曲芸の域に達している。そろそろお金取れそう。
「響さんはすご……ぶわっ!?」
マシンガンの流れ弾に当たって何か言いかけたremuさんの頭が弾けたけど、すぐ再生。また破裂。また再生。
破壊と再生を繰り返すremuさんはとってもグロかった。R15だね。
「……おっと。お仕事お仕事ー」
思わずお客さんたちをぼーっと眺めてしまっていたけど、掃除の続きを頑張らないと。
「その前に血を落とさないとねー」
私は血に汚れた制服を脱いて、六又狐に向かって投げ捨て、焼いてもらう。
どうせあんな汚れなんか落ちないからもういいの。経費で落とすし。
制服の下は肌色のスクール水着。
どんなけマニアックやねん、と自分でも思わなくもないけど、服が汚れやすいこの店内では機能的。
「お風呂お風呂ー」
そのままお店の隅にある温泉に近づき、軽く血を落としてから湯に浸かる。
マスターのその時の気分で設置された温泉だけど、あったらあったで便利なものねん。
「生き返るー」
口まで湯に沈んでぶくぶくと息を吐きながら店内を見渡す。
ラインさんはじわじわと再生してきたし、玖亜さんは体制を立て直して魅季さんと戦っている。
春光さんはもうそろそろアケミさんに肉薄できそうで、えんぷてぃさんの銃の弾は切れる様子がない。
響さんは相変わらず全ての攻撃を避けまくっている。remuさんはグロい。
「今日もWeek end in my roomは繁盛してるなー」
私はにっこりと微笑みながら、手元のスイッチを押した。
瞬間、店内に設置された全ての罠が起動する。
地雷という地雷は轟音を上げ爆発し、落とし穴は蟻地獄のごとく様々なものを奈落に落とす。
天井からは強酸が降り注ぎ、壁の隙間からは毒ガスが噴出される。
防毒マスクを装備し、耳を塞いでしばらく待つ。
全てが終わった頃には、店内にはぽつんと佇むアケミさんしか残っていない。
すっかりさっぱりキレイになった。
私の浸かっている温泉のこの一角だけは、爆風も酸も届かないようになっているので私は平気。私だけは平気。全然平気。
「さって。お掃除再開再開」
私は温泉から出るとホウキ片手に仕事を始める。
あとで温泉も一回お湯抜いて磨かないとね。何か赤く濁っちゃった。ピンク色のも浮いてるし。
こんな感じで、いつも賑やかなWeek end in my room。
良かったらあなたも来店してみませんか?
最近は「店内がシイタケ臭い」とマスターは顔を見せませんけども……。
個性的なお客さまと数々の罠と、サボテンのアケミさんより影の薄い看板娘のこの私。
紅香があなたをお待ちしております!